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地道な毎日

 迷宮の探索は地道な繰り返しだ。


 ミノタウロスという強敵を相手に、ジン達は戦闘を繰り返す。七十階以降に進めるようになった今でも、六十階からスタートことも多い。

 さすがに七十階以降はまだ危険なのでできていないが、六十階の前半ならば、以前はフルメンバーで立ち向かっていた相手に少数で挑めるようになってきている。

 それも全ては己の実力の底上げのため、誰一人欠けることなく迷宮を攻略するためだ。

 というのも、ジン達は六十一階以降ガラリと様相を変えた迷宮の状況から八十階が最深部ではないかと睨んでおり、八十階で待つ次のボス戦はこれまで以上に難敵が待ち構えていると考えているからだ。


 ただ、こうした攻略姿勢が許されるのも、このリエンツにある迷宮は誕生して即発見されたという幸運があるからだ。

 おかげで魔獣の処理が順調ということもあり、処理しきれなくなった魔獣が迷宮から溢れる危険性が低い。それはジン達冒険者が、無理をして攻略を進める必要はないということでもある。

 自らの命がかかっていることもあり、ジン達が自分達の鍛錬を重視しないわけがなかった。



「それじゃあ、明日からの予定だけど……」


 いつもの夕食後の団欒兼ミーティングで、ジンがアリア達を前に口を開く。彼らは明日から三日間を休みも含めた自由行動の日としていた。


 ジン達の取り決め事の一つとして、迷宮探索と依頼は半々の配分でというものがあったが、ジン達がBランクとなった今では、リエンツにはBランク向けの依頼があまりないこともあって依頼の方は五割から二割にまで落ち込んでいる。だが迷宮探索の割合は五割のままで、依頼の割合が減った分は休みを含む個人の自由行動に充てられていた。


「私はいつも通り基本的に自宅ここで勉強と『基本魔法』の訓練ですね。気分転換がてら孤児院にいったり、サマンサさんの様子を見に行ったりはするかもしれませんが」


 この世界では魔法文字を覚えていないと魔法を発動することはできないし、習熟が足りないと発動はしても威力が落ちることもあるので魔法使いマジックユーザーは魔法文字の勉強が欠かせない。しかもそれだけではなく、今のアリアには『遺失魔法』という絶好の教材まである。毎日就寝前に訪れる僅かな自由時間だけでは勉強するにも限界があるため、自由行動といっても実質は勉強などの個人鍛錬に充てられることがほとんどだった。


「私もいつも通り治療院に行くつもりです。でも夕方になる前に帰ってきますので、夕飯作りのお手伝いはしますからね」


 レイチェルが使う『回復魔法』に関しては、過去の転生者ケンが遺した『遺失魔法』にその記述はない。だがアリアと同じく魔法使いである彼女にとっても、魔法文字の勉強は必須だ。しかも彼女は『詠唱短縮』の修得を目指して、今もその習熟を深めることを続けていることもあり、地道に努力を続けている。元々休みでも診療所で働くことが多いレイチェルだったが、その他にも勉強に料理、近接訓練など、忙しい自由時間を過ごしていた。


「私はオズワルドさんとこに訓練に行くのと、あとは一日くらいトウカを連れて街をぶらつこうかな。他の日のお迎えも私が行くよ」


 近接と魔法という二足のわらじを履いている二人とは違い、近接メインのエルザは幾分か余裕があるといえる。その分、彼女は積極的にトウカの面倒を見ていた。


「エルザお姉ちゃん、いいの?」


 ただエルザも忙しくしているのは知っているので、トウカは気を遣ったのだろう。笑顔ではあったが、やや不安そうに上目遣いでエルザに確認していた。


「もちろんだ。その日は午後から孤児院に迎えにいくからな。昼飯は『旅人の憩い亭』にしようか?」


「うん! あそこ美味しいし大好き。それにハンナおばちゃんがおまけしてくれるもん」


 それにエルザも笑顔で応えることで、トウカの心の中に僅かに存在していた不安も払拭される。満面の笑顔を浮かべるトウカを見て、エルザとその周りにいるジン達も笑みを深めた。


「ありがとうな、エルザ。俺は明後日の午前中だけはオズワルドさんに稽古をつけてもらう予定だけど、それ以外は午前中がビーンさんとこで、午後からガンツさんとこの予定だ。とりあえず毎日夕食前には帰ってくるし、買い物も済ませてくるからレイチェルはまっすぐ家に帰っていいよ。アリアの昼ご飯も任せて貰って大丈夫。エルザは言ってくれれば訓練にも付き合うから、体を動かし足りないときは言ってくれ」


 誰もが自由時間を有効に使っているのは変わりなかったが、最もやることが多岐にわたっているのはジンだ。ビーンとの調合修行にガンツとの鍛冶修行。毎日の食事の準備はもちろん、鍛錬や魔法文字の勉強も欠かせない。だがそれもアリア達が掃除に洗濯などの炊事以外の家事や、トウカの世話などを積極的にやってくれるからできることであった。


「ただエルザに任せっきりなのは親としてどうかと思うし、三日目だけは俺がトウカを迎えに行くよ。トウカ、帰りは一緒に商店街で買い物をしようか」


「うん!」


 エルザを始めとした女性陣の好意に甘えることはあっても、ジンが父親としての責任を忘れることはない。ジンの提案にトウカは顔を輝かせて応えていた。


「ふっ、これは邪魔するのは野暮だな」


「ええ、たまには二人だけにしてあげましょう」


 エルザのつぶやきに、アリアも笑顔で返す。迷宮や依頼の帰りには全員でトウカのお迎えに行くことが多いので、親子二人だけというシチュエーションはかなり少ない。


「なんでしたらその日の夕食は私が作りましょうか?」


 のんびり遠回りして帰ってきてもいいと、レイチェルが提案する。彼女の料理の腕も上がってきているので、それもできない話ではない。


「ははっ、ありがとう。でもせっかくだから、最終日の夕食はちょっと豪華にしようかと思っているんだ。むしろ早めにお迎えにいって、トウカにも手伝ってもらおうかなと」

 

「やる! がんばるよ!」


 隣に座っているトウカの頭をジンが優しく撫でると、鼻息も荒く、高らかにトウカはお手伝いすることを宣言した。


「おお、楽しみだな」


「ええ、ジンさんのお料理も、トウカのお手伝いもどっちも楽しみ」


「トウカちゃんのお手伝い……私も早めに帰られないでしょうか」


 料理をしたくない派のエルザとアリアは応援するだけだが、しない派のレイチェルとしては可愛がっているトウカと一緒に料理をしたくなるのも無理はない。


「はははっ。大丈夫だよ、レイチェル。早めに迎えに行くといってものんびりトウカと買い物しながら帰ってくるつもりだし、それに前もってトウカに教えることもあるから実際に料理を始めるのはあまり変わらない時間になると思うよ。……それじゃあ三日後の夜は皆そのつもりで頼むよ」


「おう。それじゃあトウカと遊ぶのは明後日にするよ」


 エルザは手を伸ばし、トウカの頭を撫でる。トウカも嬉しそうに目を細めた。


「その分は事前にしっかりと勉強しておきます」


 三日後の夕食時にはいつもより多くお酒も入るだろうし、その後はさすがに何もできない。元々この三日間は休みも兼ねているので問題ないはずだが、アリアは呑んで勉強できない分は事前に増やしてやっておくと考えたようだ。

 いささかワーカーホリック気味とも言えるが、本人が楽しんでやっているので問題ない。


「ふふっ、楽しみです」


 レイチェルもトウカと一緒に料理ができると安心したのか、満面の笑顔を浮かべている。


「よし、んじゃミーティングはこれで終わり。お茶のおかわりを用意しようか」


 ここからは家族の団欒の時間が始まる。


すみません。まだ話の途中なので短めですが、お待たせしすぎているので、きりの良いところで投稿しました。

申し訳ないので、次回はなんとか今週中に更新するつもりです。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レイチェルはしない派ではなく、する派ではないのでしょうか。
[一言] 六十階からスタートことも多い。 →六十階からスタートする事も多い。
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