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集う縁と遠くからの足音

「ジン!」


 その日、迷宮探索を早めに切り上げ、冒険者ギルドに寄ったジン達に喜びで弾んだ声がかけられた。


「おお! クリスじゃないか!」


 振り返ったジンの目に、王都で出会ったクリスの姿が映る。貴族の三男坊である彼との出会いは決して良い形とはいえなかったが、それでも最後にはしっかり友誼を結んだ相手だ。別れてからまだ半年も経っていないが、一六歳という育ち盛りの年齢のせいもあってか、以前より若干背も伸び、体つきもしっかりしているように見えた。


「Cランクになったぞ!」


 別れる際はまだEランクだったクリスがもうCランクとは、いくら王都には『祝福迷宮』があるといっても、かなり早いランクアップだ。余程の努力をしたに違いなかった。


「そうか、おめでとう! 頑張ったんだな。コロナも一緒なんだろ?」


「ああ。コロナ! みんなも紹介するからこっちへ! ……実はCランクになれたのは彼女達のおかげなんだ。言われたことは忘れていないけど、俺はまだまだだよ」


 ジンから頑張ったなと褒められ、照れくさそうにするクリスだったが、やってくる仲間達を見つめながらそっと付け加えた。


「そうか。良い仲間に出会えたんだな」


 己の未熟さがわかっているのなら、これからもクリスの成長は止まることがないだろう。それに約束を忘れていないことも嬉しく、ジンの顔には自然と笑顔が浮かんでいた。


「ジンさん、みんなもお久しぶり!」


 やってきたパーティメンバーの一人、王都で友人になったコロナが真っ先に駆け寄ってきた。アリア達も久しぶりと旧交を温める。それが落ち着くと、他のメンバーの自己紹介が始まった。


「私はオレガノ、魔術師よ。クリスの従姉妹でもあるわ。よろしくね、皆さん」


 言われてみればクリスと同じ金髪緑眼で、顔立ちにもどことなく似ている部分がある。クリスより三つ上の一九歳で、クリスより身長も少しだけ高い。肩の辺りで髪を揃え、やや吊り目がちできつめの顔立ちだが、こちらを見つめる視線は好意的なものだった。


「私は王都で神官をしていたジョディと申します。レイチェルさんのご両親には神殿でお世話になっていましたので、お話は聞いてますよ」


 そう言ってレイチェルに微笑みかける彼女は、クリスとほぼ同じ背丈をした柔らかな雰囲気の女性だった。おかっぱ頭が可愛らしく、年齢こそクリスの二つ上だったが、下手をすればクリスより下でもおかしくないほど幼い雰囲気を持つ少女だ。


「私は槍使いのコーリンだ。このパーティのリーダーをやっている。よろしく頼む」


 ショートカットが凜々しいこの女性は、背も一番高く、エルザとほぼ同じくらいだ。背筋がピンと伸びたそのたたずまいは、ジンに物語にある高潔な騎士を連想させた。


「コーリンは私と同じ二一歳よ。そして私コロナとクリスを加えた五人で『セーラムのとげ』というパーティを組んでいるの。改めてよろしくね」


 以前、コロナは雇われの立場だったのでクリス様と呼んでいたが、今は呼び捨てしている。現在は雇用関係は終わり、対等な立場であるということなのだろう。だが、なによりジンには気になることがあった。


(クリス以外、全員女性か……)


 しかも全員クリスより年上であることからも、元々あったコロナの所属するパーティに、クリスが後から入ったということが推測できる。傍から見ると羨ましい状況なのかもしれないが、実際に同じ立場のジンにはそれよりも先に思うことがある。


(苦労しているだろうな……)


 ジンは生暖かい眼でクリスを見つめた。

 女性陣の反応も、「私達と同じですね」とレイチェルは笑顔を見せるが、アリアとエルザの二人は「そんなとこまで真似しなくても」と言いたげな顔だ。


「まあ言わなくてもわかると思うが、俺がコロナ達のパーティに入れてもらった。それで彼女達のフォローもあって、なんとか俺もCランクになれたわけだ」


 やや自虐混じりのクリスの台詞だったが、いくら周囲の応援があったとしても、本人の努力なしにはこの短期間でCランクに上がることはできなかったであろうことは間違いない。


「謙遜が過ぎるぞ。クリスが頑張っていたのは皆ちゃんと認めている」


 当然仲間達が黙っているはずもなく、まずリーダのコーリンがそう言って軽くクリスの肩を叩き、それを皮切りに他のメンバーも続く。


「そうそう。あのクリスが根性見せたからね。従姉妹としては応援しなくちゃ」


 親戚づきあいのあるオレガノは、ジン達と出会う前のクリスの姿を知っているので、感慨もひとしおなのだろう。従姉妹というより姉のような眼差しでクリスを見つめていた。


「ふふっ。でもこのままで良いとは思っていないんだよね? クリス君は男の子だものね~」


 クリスのことを理解してはいるのだろうが、このジョディの言い方では、からかっているようにしか聞こえないのが難点だ。ただ見た目はクリスと同年代なので、ジョディの方もお姉さんぶっているようで微笑ましくはあった。


「クリスは『俺がこのパーティの盾になる』って言って、『盾術』も覚えたじゃない。あれはお姉ちゃん、感動したな~」


 そして最後にコロナが嬉しそうにクリスの頭を撫でた。


「ええい、頭を撫でるな!」


 どうやらクリスはこのパーティのマスコット的存在いじられやくとしての存在を確立しているようだ。


(やれやれ、これも親愛の情の表れかもしれないが、これではクリスも鬱憤がたまっているだろう。……今度呑みに誘ってやるか)


 いくら年下でも、クリスがこの現状に満足しているわけではないのは、ジンも同じ男としてよくわかる。爆発する前にガス抜きしてやろうと思うジンであった。


 その後はお互いの近況を報告し合い、ジン達がBランクに昇格したことを聞いてクリスがまた離されたと悔しがる一幕もあった。クリスも今ではジン達のパーティに入ることは考えていないようだが、それでも男として負けたくないという気持ちがあるのだろう。以前アルバーとに対しても思ったことだが、その真っ直ぐなライバル心はジンにとっても心地よかった。


 そうしてジン達がしばらく歓談を続けていると、そこに別の顔見知りから声がかかる。


「ジン、話しているところ悪いが、ちょっといいか? お前達らに会いたいって言ってる奴らがいるんだが」


 それはジンが初心者講習の時から世話になっているパーティ『風を求める者』のエイブだ。

 以前からBランク昇格も近いと言われていた彼らは、ジン達が王都へ向かったのとほぼ同時期に、Bランク昇格試験のために未開拓地に向かった。そしてジン達がエルザの実家から帰ってきてしばらくした頃に、無事目的を達成してリエンツに帰ってきていた。

 お調子者の要素が多分にあるエイブは、二十代前半の早いペースでのBランク昇格で鼻高々だったが、平均年齢が一九歳のジン達は、それより僅かに早くBランクに昇格している。昇格後、祝いを兼ねて一緒に呑んだ際には、随分愚痴られたものだ。

 だが、始まりこそ教官と生徒の関係であったが、今では対等な気の置けない友人関係を築いていた。


「あ、わかった。クリス、ちょっとごめ……」


「ジン!」


 エイブにため口・・・で返し、クリス達に断りを入れようとしたその時、ジンの名を呼ぶ声でそれが遮られる。待ちきれなくてエイブの後を追ってきていたのだろう。ジンが声の方を振り向くと、そこにも久しぶりに会う懐かしい顔ぶれがいた。


「ザック! みんなも! 久しぶりだな!」


 自然とジンの声に喜色が混じる。そこにいたのは、魔力熱を巡る旅で出会ったトロンの街所属のBランク冒険者、『巨人の両腕』の面々だった。


「突然すみません。……久しぶりだな」


 話しているのを邪魔している形になり、リーダーのヒギンズはまずクリス達に頭を下げてからジン達に話しかけた。


「わはは。ジン、久しぶりだな! いい店知っているだろう? 呑みに行こうぜ」


 豪快な戦士のガストンに悪気はないが、気にしなさすぎだ。ただ、彼らと一緒にした馬鹿話はジンも楽しかったので、飲み会は望むところだ。


「うちの馬鹿達がうるさくてごめんね。……アリア達も久しぶり! 元気してた?」


 常識人の魔術師、メリーもクリス達への謝罪から入ったが、その後の笑顔に屈託はない。


「ほんと久しぶりね。私達もようやく迷宮に来られたわ」


 はしゃぐメンバーに対し、神官のアシュリーはやれやれといった雰囲気だったが、やはりその口元には確かな笑みがあった。


「俺達もトロンの街でやることが終わったんで、迷宮があるこのリエンツに来たんだ。未開拓地に行くよりこっちの方が面白そうだしな」


 そう話すザックの尻尾は機嫌良く振られている。

 トロンの街で唯一のBランクパーティだった彼らは、これまで自分達が離れた後が心配でトロンから拠点を移すことができなかったそうだ。それはゲルド達から街を任されたという思いもあったからなのだろう。

 しかしつい先日、そろそろのんびりしたいと、年嵩のBランクパーティが故郷であるトロンの街に戻ってきた。彼らは年齢も実力も自分達より上だ。これなら安心して街を離れられると、ザック達は以前から興味があった迷宮を目当てにリエンツに来たというわけだ。


「いやー、今日はクリスといいザックといい、懐かしい顔に会えて嬉しいよ」


 ジンを始め、アリアもエルザもレイチェルも満面の笑顔だ。


「よし、せっかくだから紹介するよ。エイブもよかったら他のメンバーも呼んでもらえないかな? お互い知っていて損はないと思うし」


「おお、わかった。ちょっと呼んでくる」


 Bランク昇格を機会に、「そろそろため口で良いんじゃないか?」とエイブ達から言われ、ジンはエイブ達に敬語を使うのを止めていた。それまでずっと敬語だったので最初は慣れなかったが、今ではごく当たり前に話している。


 その後、メンバーを連れて戻ってきたエイブ達を交え、ジンははりきってそれぞれを紹介した。

 ザック達とエイブ達は同じBランクということで共通項も多く、良いライバルになれるだろう。クリス達はCランクだが、若くしてBランクになった彼らに学ぶことも多いはずだ。

 それにクリスにとって、『風を求める者』のリーダーであるゲインが特に参考になるだろう。クリスも周囲の女性に追いつけ追い越せと努力しているが、ゲインもパーティメンバーであり先輩冒険者でもあるミラと肩を並べることを目標に、己を鍛え上げた人物だ。

 一通りお互いの自己紹介を終えると、ジンは笑顔と共に一つの提案をする。


「呑みに行かないか?」


 こうして場所を移して歓談は続き、今度はジン達を通してではなく、それぞれで友誼を結ぶことになる。


 この呑み会でジン達がBランクに昇格したことを聞いてザック達は驚いたが、同時にゲルドを倒した実力を知っているので、さもあらんとすぐに納得した。


 メリーの「ちょっとは進展した?」という問いにアリア達が反応してしまい、コロナ達を含めた女性陣が黄色い悲鳴を上げるという光景も見られた。それが波及して女性達はそれぞれの恋バナなども始めたようだが、アリア達も追求されながらも楽しそうだった。


 ジンと同じく女性パーティに囲まれているクリスに、独り身であるガストンやエイブがやっかんだり、「誰が本命だ」と、以前ジンがされたような追求も始まった。そして結局何もないのかよと、男達がこっそり小声でエロ話に興じたのも笑い話の範疇だろう。 


 また、ジンはクリスにゲインを個別に紹介し、このとき恥ずかしいからと二人だけで話されたゲインの経験談は、クリスに深い感銘を与えたようだ。

 親睦を深めるという意味では、実に有意義な宴だった。


 この日以降も、初心者講習の同期であるアルバート達やAランク冒険者であるオズワルド、その弟子であるジェイド達など、ジンはクリス達やザック達を紹介して親睦を深めた。

 アルバート達は順調に成長していたし、ジェイド達も変異種に怪我をさせられたときに治療してくれた神官を新たな仲間として迎え、順調に探索を進めている。


 そしてオズワルドから指導を受け、ジン達に倣って迷宮を使った鍛錬と探索を繰り返すザックやクリス達も、順調に力をつけていくことになる。


 ……だが、こうしてこのリエンツにえにしが集まったのは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。

 試練の足音はまだ小さかったが、それでもこの地に着実に迫ろうとしていた。


もう発売日を二日過ぎていますが、ようやく更新できました。

『異世界転生に感謝を』四巻、現在絶賛発売中です。どうぞよろしくお願いします。


さて今回の更新内容ですが、会話を増やすべきかなど悩みながらも、このような形になりました。もうちょっと丁寧に書くべきだった気もしていますが……。よろしければご意見ご感想をお聞かせください。


ありがとうございました。

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