報告と相談
「おおお! そうか、そうか……!」
「やったわね、サマンサ! お手柄よ!」
そこは冒険者ギルドの一室。嬉しさのあまり言葉が続かないグレッグと、満面の笑顔で祝福するメリンダ。そんな喜びに溢れる彼らの前には、家族の祝福を受けて輝く笑顔を浮かべるサマンサがいた。
サマンサの妊娠。それはグレッグとメリンダが共に待ち望んでいたものだった。
(良いものだな……)
そして家族の幸せをかみしめるグレッグ達の少し後ろには、彼らの様子を目を細めて見つめるジン達の姿があった。
無事リエンツに戻ったジン達は、まず最初に冒険者ギルドへと向かった。そしてサマンサと共にBランク昇格試験の終了報告をしたのだが、その流れでもう一つの報告であるサマンサの妊娠を伝えたところだ。
グレッグとメリンダ、そしてサマンサ達が喜び合うその姿は、ジン達がこの場に同席することを願った理由であり、今回の旅で得た何よりの報酬でもあった。
「ぐすっ、ほんと良かったですね」
「すん、ああ」
ハンカチで涙をぬぐうレイチェルの尖った耳はへにゃっと曲がり、鼻をすするエルザエルザの尻尾もだらんと垂れている。彼女達が反省していたり元気がなったりする時に見られるしぐさだが、今回のこれは似ていても違う。それは彼女達の感動ゆえだ。
「……本当に」
アリアも目頭を押さえて感動を噛みしめている様子だ。冒険中は眼鏡を外している彼女だが、この街に戻った今はいつもの眼鏡姿だ。眼鏡を少しずらしてハンカチを目元にあてている彼女だが、その口元には紛れもない笑みが浮かんでいる。この中では一番グレッグ達との付き合いが長い分、その感動はより深いのかもしれない。
(自分の子供か……)
そしてジンもまた、その光景に感動しているのは変わらない。ただ、ようやく報われたとはいえ、高レベル到達者であるグレッグ達の苦悩は決して他人事ではない。あの夜からジンの心に刺さったままのとげは、こんな感動の最中でもその心をチクリと刺した。
「お父さん?」
その痛みを感じたわけではないだろうが、気遣うようにトウカがジンに声をかける。
「ん? どうかしたかい、トウカ?」
すぐに我に返ったジンは、何でも無いと安心させるように笑いかけると、娘であるトウカの頭を撫でる。
「ん……、何でも無い」
そう言ってかぶりを振ると、トウカはジンにぎゅっと抱きつく。そしてその温もりは、ジンの心を優しく慰めた。
(いかんな。これは早めに何とかしないと)
ジンはトウカを不安にさせてしまったことを反省し、自らがまだこの問題を上手く解決できていないことを改めて自覚していた。
「すまんな。ほったらかしにしちまって」
「いえ。それより改めて言わせていただきますね。おめでとうございます!」
申し訳なさそうなグレッグに、ジンは笑顔で返す。己の中にある葛藤は一旦棚に上げ、今はただ心から祝福していた。
「いや、まあその、ありがとうな」
照れくさそうに応えるグレッグに、その場にいる全員が目を細める。
そしてアリア達も口々にお祝いの言葉を述べる中、レイチェルがお祝いの言葉の後に続けて口を開いた。
「でもミリアさんが指摘してくれて本当に良かったです。言われるまで私はサマンサさんの妊娠に全く気付きませんでしたから」
「あら、ミリアが最初に気付いたの? それは今度お礼を言っておかなきゃ」
診療所で妊婦を診察した経験もあるレイチェルだったが、診察も無しに普段の様子で妊娠に気付くほど熟練しているわけではない。ホッとした様子を見せる彼女に、笑顔のメリンダが応えていた。
「そうだ! 母さんもメリンダ教官も昔同じパーティだったそうじゃないですか! 隠さないで言ってくれてもいいと思いますよ?」
それで思い出したのか、エルザがメリンダを恨みがましく見つめる。母親であるミリアは無意識だろうが、メリンダが黙っていたのは単なる悪戯に違いないと、それなりに付き合いの長いエルザはそう確信していた。
「ふふっ。驚いた? まあどっちにしろやることは変わんなかったんだからいいじゃない」
果たしてメリンダは悪戯成功と満面の笑顔だ。エルザはやっぱりとため息をついたが、それはそれで皆の笑顔を呼んだ。
「ははっ。それじゃあ今度は俺からおめでとうを言わせて貰うぞ。試験の合格おめでとう。これで今日からお前らはBランクだ」
「おめでとう。私達でもBランクになったのは二十歳を超えてからよ。すごく良いペースじゃない。これからも期待しているわよ」
「ふふっ、おめでとうみんな」
今度はグレッグ達が祝福の言葉を贈る番だ。Bランク昇格という事実が、今更ながらジン達の心に喜びを生んだ。
「ありがとうございます。これからも精進します」
「「「ありがとうございます」」」
そう言って頭を下げるジンに、アリア達も笑顔で続いた。
「よし、それじゃあこの後一階で昇格の手続きを終わらせたら、今日はもう帰ってゆっくり休め。このあたりじゃあBランクの依頼はあまりないが、今はダンジョンがあるからな。お前達ならこのチャンスでもっと成長できるはずだ。期待しているぞ」
「「「はい!」」」
こうしてジン達のBランク昇格試験の終了とサマンサの妊娠についての報告は終わった。だが、すぐに退出するわけではなく、報告の後はプライベートの時間とばかりに、ジンはグレッグの元へ、アリア達はメリンダとサマンサの元に駆け寄って再度お祝いの言葉を贈っていた。
「本当におめでとうございます。グレッグさん、良かったら近いうちに呑みに行きませんか? お祝いに一杯おごりますよ」
望んでも子供が出来ない夫婦は確かに存在する。ジンも前世の頃からその事実を知っているが、家族には、そして幸せにはいろいろな形があるものだ。あくまで子供の有無は幸せの要因の一つでないが、それでもこうして本人達が待ち望んでいた妊娠が判明したからには、友人としては祝うしかないだろう。
「おう、ありがとな。ついでにガンツも呼ぶか? 一応あいつにも報告しないといかんからな。あ、お前から話すなよ? あいつを驚かせてやる」
ジンの誘いにグレッグは笑顔で頷くと、ガンツには内緒にしてくれよと釘を刺す。そしてジンも長年の友人である二人の邪魔をするほど野暮ではない。
「はははっ、わかりました。それじゃあグレッグさんのお時間が空いた時で構いませんので、今度都合が良い日を教えてください」
「おう、明日か明後日の夜なら大丈夫だと思うから、そのつもりで空けといてくれ。明日の午前中にでも連絡するよ」
「はい。よろしくお願いします」
これは楽しい呑み会になりそうだと、ジンは笑顔で応えた。
一方で、図らずもアリア達も似たようなことを話していた。
「……メリンダさん、今度、私達だけでお家にお邪魔してもいいですか?」
「ジン君を抜きでということ?」
「はい、出来れば私達だけでお話したいことがありまして」
別にメリンダに否はなかったが、アリアの珍しいお願いに首をかしげる。
「メリンダ姉さん、私からもお願い。一緒に相談に乗ってあげて欲しいの」
そこにサマンサからも援護射撃が入る。彼女は帰りの道中で大体の事情は聞いていたものの、事が事だけにメリンダには是非参加して欲しかったのだ。それは自らもメリンダのアドバイスに助けられたおかげで、グレッグと結婚にまでこぎ着けることが出来たからという理由もあった。
「別にいいわよ。……何だか深刻そうね」
「はい。深刻というか、真剣というか……」
これまでのお祝いムードから一転、応えるアリアはもちろん、エルザやレイチェルの顔もまた明るいものでは無かった。
そして次の日の夜、とある酒場の一室にジン、グレッグ、ガンツの三人がいた。
「わはは、めでたい。今日はお前のBランク昇格祝いだ。おごってやるから、遠慮せずにたっぷり呑めよ」
上機嫌なガンツがジンの肩をバンバンと叩く。ジンは昨日のうちにガンツの元を訪れ、無事にBランクに昇格した報告をしている。ガンツは我が事のように喜び、そして本人はジンの昇格祝いのつもりでここにいた。
「ありがとうございます」
その気持ちがジンに嬉しくないわけがない。満面の笑顔で応えつつ、そんなガンツに内緒にしていることがあるのをちょっぴり後ろめたく思っていた。
「わはは。祝いだからな。おごるさ、もちろん」
意味ありげにグレッグが笑うが、含むところにガンツは気付かない。そしてそのままグレッグが酒が入った杯を掲げた。
「よし、それじゃあ乾杯だ。ジン達のBランク昇格と……我我が妻サマンサの妊娠を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
「か……ええ!? ちょっと待て、妊娠って言ったか、今!?」
グレッグの音頭に合わせて杯を掲げるジンと、そうしようとしたものの無視できない発言に驚いて途中で止まるガンツ。期待していた通りの反応を見せるガンツの様子に、グレッグが豪快な笑い声を上げた。
「わはははははは。そうだ、ガンツ。驚いたか? サマンサが妊娠したんだよ! 子供が出来たんだ!」
「……そうか……そうか! やったなグレッグ! 驚かせやがって。おめでとう! 良かったな!」
じわじわとこみ上げてくる喜びを噛みしめるガンツ。長い付き合いだけに、その喜びもひとしおなのだろう。そして破顔すると、今度は自らが乾杯の音頭をとった。
「よーし、それじゃあ今夜は俺のおごりだ! じゃんじゃん呑め! 乾杯!」
「乾杯! 今夜はたっぷり呑ませてもらうから、破産するなよ」
「乾杯! いただきます!」
ガンツの男気溢れる宣言に、グレッグもジンも笑顔で杯を掲げた。
祝いの酒は格別に美味く、ジン達の杯も進む。そんな中、ガンツがしみじみとつぶやいた。
「しかしグレッグに子供がねえ。サマンサの嬢ちゃんももちろんだが、メリンダの奴もお手柄だな」
「ああ。あいつの狙いどおりだったな。……別に子供が出来なくとも構わなかったんだが、いざ出来ると嬉しいもんだな」
グレッグが少しだけ照れながら応える。最初の妻であるメリンダがサマンサを受け入れたからこそ、様々なアドバイスを受けてサマンサはグレッグと結婚できたし、こうして子供も出来た。それはメリンダがサマンサの想いにほだされただけでなく、子供が出来るかもしれないという期待と願いもあった。
それでもレベルが50を超えるグレッグでは、子供が出来る可能性は決して高くない。グレッグがサマンサを娶ったのは子供が欲しいからという理由ではなかったが、いざ妊娠を知らされると、その喜びは想像以上に大きかった。
「わはは。ようやく気付いたか。まあ、すぐに成長するから一緒にいれる期間は二十年もないが、それでも子供は可愛いもんだぞ」
何かを思い出しているのか、ガンツが浮かべる笑顔は優しかった。
「そうか。お前が言うのなら説得力があるな。……ところでジュドーの奴は元気か?」
「ああ。こないだ久しぶりに手紙が来たが、孫達も皆元気でやっているみたいだ」
「ははっ。そいつは良かった。生まれたら子育ての先輩に教えを請わなきゃな」
「けっ、言ってろ」
「わはは」
知らない名前が出たこともあってジンはグレッグとガンツの会話に入れなかったが、その内容は無視できないものだ。
「えっと、もしかしてガンツさんは結婚していたのですか?」
「ん? ああ、そういや言ってなかったな。子供も孫もいるぞ?」
あっけらかんと応えるガンツだったが、それはジンにとって驚き以外の何ものでもなかった。
「こいつは早くから結婚しててな。まだ鍛冶修行をしてた頃だったから、確か成人して二年くらい経ってからだったよな?」
「ああ。半人前の分際で嫁をもらうのかと、師匠からは怒られたな」
呆然とするジンを余所にグレッグとガンツは懐かしそうに昔を振り返っていた。
ガンツは冒険者になる前に鍛冶修行をしていたのだが、その頃に幼馴染みだった人族の女性を結婚したそうだ。そして約一年後に鍛冶修行を終えたガンツは、一足先に冒険者として活動していたグレッグと合流して冒険者となったのだが、その頃にはもう子供が生まれていたのだ。その後は出稼ぎ状態で嫁には苦労をかけたというのはガンツの言だ。
「あいつには苦労をかけたが、冒険者を引退してからは一緒に暮らせたからな。それだけでも良かったと思うよ」
その妻は高レベルのガンツと違って一般人だったこともあり、数年前に突発性の病気で死に別れたそうだ。ガンツより二歳年上の姉さん女房だったとはいえ、六十歳になったばかりだったそうなので、いささか早すぎる死だった。その後ガンツは後添えを貰うこともなく、遠くに住む子供や孫達と離れ、こうして一人暮らしをしていた。
ちなみに種族が違う夫婦の間に生まれる子供は、ハーフではなく必ずどちらかの種族になる。だからガンツの息子は、妻と同じ種族の人族だった。
「…………驚きました」
確かに年齢的にはガンツが結婚していてもおかしくはないのだが、ジンは欠片も想像したことはなかったし、ましてや子供や孫までいるとは完全に予想外だ。ジンに言えたのはその一言だけだった。
「わはは。まあお前も結婚するなら早めにしとけ。さもないとグレッグみたいに苦労するぞ?」
「ふっ、うるせえよ」
ガンツがこんな風に言えるのも、グレッグに子供が出来るという事実があってこそだ。笑顔で軽口をたたき合うガンツとグレッグだったが、それは今のジンにはピンポイントで心をえぐる一言だった。
「……おい、どうかしたのか?」
沈黙するジンの顔に笑顔はない。その沈痛とも言える表情のジンを心配してガンツが声をかけた。
「……ちょっと聞いて貰えますか?」
結婚を経験した人生の先輩として、そして友人として、ジンは頼れる先達に相談させてもらうことにした。
「今回の旅でエルザのお父さんとお話しする機会があったんですが、その時にエルザの子供についての話題が出たんです。それまで私は意識したことがなかったんですが、グレッグさん達がそうだったように、高レベルになればなるほど子供は出来にくくなります。私もいつか結婚して自分の子供が欲しいとは思っていたのですが、トウカが縁あって私の娘になってからは、あまり思わなくなりました。だから私は良いんですが、問題はアリアさん達です」
「私達は皆レベルが30を超え、今回Bランクになりました。そしてこのまま冒険者として活動を続けていけば、もっとレベルは上がりますし、いつかグレッグさん達のレベルに追いつく日が来るかもしれません。今まではそれは望むところだったんですが、高レベルゆえのデメリットを意識してからは、そうとも言えなくなりました。トウカがいる私はともかく、そうなった場合にアリアさん達がどうなるのか。それが頭を離れないんです」
「それはレベルを上げる事への不安ということか?」
「いえ、冒険者という仕事を選んだ以上、レベルを上げて強くなるのは当然です。アリアさん達も大人ですので、その判断について私がどうこう言うのは間違っているでしょう。彼女達の決断を尊重こそすれ、仲間としても友人としても文句をつける筋合いはありません」
女性の幸せは、子供を産むこととイコールではない。勝手な価値観で冒険者という仕事に生きようとする彼女達の決意を貶めるようなことはしてはならないと、ジンは心に刻んでいた。
「ですが、将来彼女達に愛する人が出来た時、もしかするとレベルアップを望まなくなる可能性があるということ、つまり彼女達が冒険者を辞める可能性があることに気付かされたんです。……情けないですが、私は思っていたより彼女達が側にいてくれる現在の状況が壊れるのが嫌なようです」
ジンを悩ませているのは、一言で言えば将来への不安だ。彼女達の幸せを望みながらも、その選択次第では離れなくてはならない。そしてそれぞれ魅力的な彼女達だからこそ、その可能性は決して低いものでは無いと感じていたのだ。
「確かに男女問わず結婚が原因で冒険者を引退するやつもいるが……。今からそんなこと考えてもしょうがないだろう?」
それなりに近い関係のガンツから見れば、アリア達がジンに惚れているのは一目瞭然だ。
それに、もしそうでなくとも、冒険者の進退について問題になるのは結婚や子供以外にも様々な理由が有り、全てはその時の状況次第としか言えないものだ。
呆れたように言うガンツに続き、グレッグも口を開いた。
「嫉妬か?」
ニヤリと笑いながらグレッグが突っ込む。ここまでのジンの態度から、思うところがあったようだ。
「あー、そうですね。認めます」
そしてジンも、その感情があることを認めざるを得ない。彼女達が幸せならばそれでいいはずなのに、納得しきれない自分が情けなかった。
「我ながら情けない独占欲ですね。彼女達がどんな選択をしても、仲間として応援すべきだと思うのですが……」
「…………」
ようやくアリア達を意識し始めたかと思えば、今となってもあくまで仲間としてのスタンスを崩さないジンに、流石のグレッグも呆れて言葉が続かない。
だが、エルザやレイチェルが仲間となって以降、時にそれが揺らぐことはあっても、ジンの中では一貫してそのスタンスは変わらないものだった。
「……俺から言えるのは、考えても仕方が無いことは考えるな。そしてもうちょっと柔軟な考えを持てということだな」
「グレッグの言うとおりだな。ジン、お前は頭が固すぎるぞ。それと、もうちょっと周りをよく見ろ。見逃していることが結構あると思うぞ」
ここでズバッと言えるのならば苦労はしないが、下手な助言は現在のバランスを崩すことになりかねなく、グレッグ達にとってもハードルが高かった。
「はい。おかげでちょっと楽になりました。ありがとうございます」
そしてジンは、このアドバイスはもっと仲間を信用しろということだろうと理解し、相談という名の愚痴や不安をはき出せたことで気分も晴れたようだ。
「おう。そのうちスッキリするさ! まあ呑め」
「はい、いただきます」
そして再び酒盛りが始まるのだった。
「――とまあ、野郎どもの話の結論としては、いいとここんなところでしょうね」
そうしてジンがグレッグ達と呑んでいる頃、一方でアリア達はメリンダ達の自宅にお邪魔していた。トウカはアイリス宅にお泊まりだ。
そしてその中で、アリア達がした相談事に対してのメリンダの返答がこれだ。
ジンが今頃グレッグ達に相談しているであろうことも、それに対してグレッグ達がどう答えるのかも、メリンダの推測は大筋でほとんど当たっていた。
「あいつらがあなた達の感情をバラすくらい突っ込んだ事は言わないだろうし、そうでない以上は、あいつらのアドバイスでジン君が貴女達の気持ちに気付くこともないと思うわ。もしかしたらそのうち気付くかも知れないけど、まあ時間はかかるでしょう。あいつらのアドバイスで変わるなんて、そんなことを期待しちゃ駄目よ?」
「私も姉さんと同感よ。この旅でも思ったけど、彼の鈍さは筋金入りよ。というか、初めから恋愛関係になる可能性を排除しているみたいにも感じたわ」
もしかしたらグレッグ達に相談することでジンの気持ちも変わるかもしれないと期待するアリア達に、メリンダとサマンサから続けて駄目出しが入る。だが、アリア達にしても言われてみれば確かに納得できるものだった。
「確かにグレッグさん達も私達に気を遣うでしょうし、言わないでしょうね」
「ああ。それはありがたくもあるのだが……。下手なことをして気まずくなるのは避けたいが、どうすればいいんだろう」
「あのジンさんだから、思わせぶりなことを言っても通じないでしょうし……」
弱音を吐くアリア達に向かって、メリンダがパンと手を叩いた。
「はい。うじうじ悩むのはそこまでよ。情けない男どもに期待するのはやめて、自分達がどう行動するのか考えなさい。あんた達はどうしたいの? このままの関係を続けて、いつかジン君が気付いてくれるのを待つのかしら? それとも、少々の混乱は覚悟で思い切った手を打つ? どちらを選んでもリスクはあるわよ」
メリンダは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ジン君は若くしてBランクになって、その上に魔力熱の件でも名声を得ているわ。その時に手柄を神殿や他の冒険者達に譲る態度から、性格の良さも知れ渡って大人気よ。私も何人かから紹介して貰えないかと相談を受けたから間違いないわね。時間がかかるということは、その分他からのちょっかいも増えるということよ」
メリンダの口元の弧が更に上がり、アリア達の瞳が真剣さを増す。
「少なくとも何かのきっかけになるかもしれないし、思いきって告白するのも一つの手ね。ただ、恋愛絡みでパーティが解散することも珍しくないし、そのリスクはあるわよ。貴女達から言い出すことはなくても、ジン君が気まずくなる可能性も否定できないわ」
そしてメリンダは爆弾を投下する。
「それに彼が選ぶのが誰かという問題もあるわね。貴方達三人全員を娶ってくれるならいいけど、お嫁さんが三人というのはBランクだとちょっと珍しいかもね。一人しか選ばない可能性も高いし、貴方達の誰か一人だけが選ばれた場合、他の二人は素直に祝福できるのかしら? それに貴女達以外の人を選ぶ可能性もあるわよ。その時、貴女達はどうするのかしらね?」
メリンダの言葉に遠慮はない。どれもあり得る話だ。
「私達に出来るのは無責任なアドバイスだけよ。でも貴女達がどの道を選んでも、できる限りのことはするつもり。選びなさい。いえ、考えなさい。貴女達の決断は?」
最後に笑みを消して真摯にそう問いかけるメリンダに対し、アリア達三人は顔を見合わせてお互いの意志を確認すると、揃って大きく頷いてからメリンダに向き直って見つめる。
「私は――」
それぞれが、その想いと決断を告げる。
今回アリア達は、マキシムと話したことで生じたジンの変化を感じた。そして現状を良しとしていないからこそ、こうしてメリンダ達に相談したのだ。
そしてそうである以上、彼女達の答えは決まっているようなものだった。
お待たせして申し訳ありませんでした。その代わりと言ってはなんですが、今回は二話分くらいあります。
ただ内容はいかがでしたでしょうか?
くどい、違和感があるなど、皆様の忌憚のないご意見ご感想をお待ちしております。
ありがとうございました。