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希求の女騎士  作者: 鱒味
2/22

0.5 騎士隊員募集

 主人公の私とは別視点です。

 こちらも一人称で進みますので、苦手な方は、あらかじめご了承ください。

 我が騎士団で、大掛かりな騎士募集をする。

 というのも、先の王都での貴族ぐるみの着手に、大きな組織が絡んでいた際に、情けないことに、我が騎士団の隊員も関わっていたことが発覚し、除隊者が多数出たのが切っ掛けだった。



 昨今、他国に比べて騎士団の人員が少数であったことの問題で、騎士の増員が国で議題にされていた。

 そこにこの問題だ。



 迅速に、騎士団の清掃が始まり、あっという間に隊内の問題は排除されていった。

 その上で騎士の人数は増やすという。

 だがそれに伴って規律はますます厳しくなると聞いている。



 いまでも相当地獄だというのに、この上に余計な規律とか、勘弁してほしい。

 だが、そういうこともあって、国も絡んで大掛かりに募集することになったのだ。



 この国の騎士団は、職務に一日のほとんどを費やす。

 その給金は高いが、はっきり言って、使う暇がない、というような状態だ。

 たまの休みに、女を買いに走るぐらいだ。



 だから、俺は賛成だった。というか反対する奴はいない。

 これで騎士の人数が増えれば、仕事もその分だけ、分担される。

 分担されれば、その分給金は減るが、なにより掛け替えのない時間が得られるのだ。



 いま、騎士寮が大幅に増築されて、部隊ごとにノルマが課せられている。

 この募集で一部隊最低五人は確保しろとのことだ。

 除隊者のいる部隊は、その除隊者分も確保しなくてはならない。



 幸いなことに、うちの部隊に除隊者は出なかった。

 よって最低五人、募集から人員を確保する。



 有能な人材がいれば、上限十五人まで受け入れて良いと命が下っているから嬉しい。

 これでいまの仕事も少しは楽になるものだ。

 恋人をつくることもできるかもしれない。



 そんな期待通りに、騎士募集には初日から大人数が試験を受けにきた。

 基本的に、隊長・副隊長が試験者の実力を計る。



 騎士に憧れているもの、傭兵からの成り上がり。

 理由は様々だ。



 うちの部隊は騎士団の中でも一等厳しい部隊だと言われている。

 そのおかげで、なんとかあの時にも除隊者を出さずに済んだのだ。



 だが、三ヶ月という長い募集期間で、二ヶ月が経って我が隊で確保できた人員は五人だ。

 厳しすぎる。



 向かってくる人間全てをなぎ払い、打ち砕き……、あ、また一人逃げた。

 まさか隊長、本当に最低限の人数の五人で済ます気でいないか。

 この期間に入れば、初日に比べ、試験を受けにくる人間が十分の一にも減っているのに。



 実はというと、俺はこの部隊では新米に入る人間、この募集で、俺にも可愛い後輩が出来ると密かに期待してた。

 だが、この隊長が入隊を許すのは、揃いも揃って、隊長相手に善戦するような猛者。

 他に類を見ない騎士団の厳しい訓練を耐えられる人間に今更どう先輩面しろと言うのか。



「また隊長、試験しに来た奴追い返したのか」

「はい」

「あの人は厳しいよなあ」

「厳しすぎます」



 声をかけてきた部隊の中でも古株の先輩に、苦い顔をしながら返す。

 仲間が増えるのは、良いことだと思うのだが、隊長は何故ああ厳しいのか。

 騎士に憧れてきた人間が、隊長にしごかれて、志を折られる姿を見るのは、あまり良いものではない。



 他の隊ならば、もう少し易しい試験だったろうに、不憫でならないものだ。

 願わくば、これ以上、騎士に憧れている人間はこの部隊試験を受けに来なければいい。



 他の隊はもうとっく定員を確保し、優秀な人員を更に取り入れていると言うのに、うちは未だに定員ぎりぎり。

 明日は試験最終日だ。

 もう試験を受けにくる人間は三人か、四人、多くて五人だ。



 これでは仕事が楽になるかどうかもわからない。

 むしろまた隊全体で、仕事漬けの毎日になりそうだ。



「暗いな、顔が」

「もう試験者は来ませんかね」



 ふっと遠い目で虚空を見ながら、小さく呟く。

 すると先輩は苦笑しながら、俺の背中を軽く叩いた。



「これじゃいつもと勤務状況は変わらなさそうだからな」

「ええ、全くもって」

「隊長自身がいまのままで構わないと思ってるからな。隊員を増やすのは、乗り気じゃなかった」



 隊長は仕事人間だ。

 俺たちが女を買いにいく時だって、付き合わずに訓練をしている。



 何故、ああまでストイックでいられるのか。

 俺としては謎もいいとこだ。

 あの人本当は人形なのかもしれない。



 そう思いながら、ちらりと隊長を盗み見る。

 今日はもう試験者は来なさそうだし、隊長は無心で訓練を続けている。

 試験中は訓練が碌に出来なくて、機嫌が悪かったからな。



 この部隊に入ってしまったがための宿命とでも言おうか。

 まだ三十を越えていないうちに、部隊を変えてもらいたい。

 他の部隊は大体十人を確保して、これからの仕事が少しは楽になることが確定してる。



 思わず鍛錬所の床に額を打ち付けて、歯ぎしりする。

 俺のウキトキ恋人計画はどうしてくれる?!

 悔しさのあまり、床に突っ伏していれば、先輩が苦笑混じりに肩を叩いたのがわかった。



「お前は期待してたから余計に失望するんだよ」

「……どういう意味ですか」

「あの人が試験中ずっと機嫌悪かったの知ってただろ。普通五人で打ち切りするって」

「わかりたくなかったんです」

「……まあわからないでもないが、やっぱり期待するのは、裏切られたときがきついぞ」



 そういう先輩も、期待しては裏切られて来たのだろう。

 真に迫った物言いに思わず頷いて納得してしまう。



 うちの隊長、仕事はできるし真面目だしで評判が良くて、よくやりがいのある仕事を国王から任されるが、悪い意味で冷徹だ。



 その点で言えば、暑苦しいが、熱血漢で人情味溢れる部隊長のところで働ける人間は幸せかもしれない。

 あそこも別の意味で体力的にも精神的にも辛いが。



「明日は試験者来るでしょうか」

「期待しないほうがいい。来たとしても、直ぐ追い返される」



 先輩の言葉に力なく頷く。

 そうだろう。



 俺が見ていた隊長の機嫌の悪さは、騎士に値しない試験者に時間を割かなくてはならない苦悩だと思っていた。

 そう思いたかったのもあるが、まさか有能な人材を入れる必要を感じていなかったためとは思わなかった。



 即戦力になる人間しかいれなかったのが、その証拠だ。

 あの人は冷徹だ。

 自分に厳しく、相手にも厳しい。



 淡い一抹の期待が消え去ったような心地で、その日の訓練に取り組む。

 いま騎士団のなかで、一番人員を確保していないのは、この部隊だ。

 明日来た試験者は受付が重ならない限り、こちらに回される。



 他隊に回されれば受かっていたかもしれない人間が、こちらで追い出されることを想像すると、気が重かった。



 試験者がどうやら来たらしい。

 門番が鍛錬所を覗くのを見つけて、顔を歪める。

 また、隊長に追い出されるのだ、そんな思いで一杯だった。



 隊長に悲惨な目に遭わされるのだと思うと、あまりに不憫で俺は相手を見てはいられなかった。

 だが他の隊員が、複数の人間が歓声をあげたので、俺は思わずそちらを見た。



 一言で言えば、女、だった。



「嘘だろ……」



 信じられなかった。

 他の人間も信じられない面持ちで、その試験者を凝視している。

 女が騎士になっていけないという訳ではない。



 ただこの職務はとてもではないが、女には無理だ。

 それに、稀に見る女騎士の男にも勝るような猛者とは、試験者は明らかに様子が違っていた。



 服に隠された下に見える、腕や足の包帯を見つければ、どちらかと言えば、治療目的や被害目的で訪れた人間にしか見えない。

 あまりに呆然として、俺は、試験者が鍛錬所の入り口に立っているのを、眺めた。



 その横で門番が隊長を呼んでいるのが見える。

 そこで気付いた。



 隊長は、女嫌い(・・・)だ。

 まずい、と瞬時に思った。



 女の姿に色めき立っている、隊長の試験を乗り越えてきた男達は置いておいても、俺よりも隊長と付き合いの長い先輩達は、心無しか顔をしかめていた。



 あの人は、女だからと、容赦する人間じゃない。

 下手すれば、男を相手する以上に、酷い試験をするかもしれない。



 その予想は当たっていた。

 試験者の包帯を巻いている傷の所へ、容赦なく、試験のための模擬剣を使っていく。

 隊長の速さに追いつけない試験者は為す術もなく、模擬剣を受けるしかない。



 ああ、言わんこっちゃない。

 思わず、空をあおぎ目を瞑る。



 試験者が打ち込まれるたびに、落胆の声が上がるそこで、歯を噛み締める。

 これ以上は見ていられない。

 踵を返して、その惨たらしい試験から遠ざかろうとした俺の肩を、誰かの手が差し止めた。



「……何ですか」



 例の先輩だ。

 どうせ、受からない。

 女嫌いで、例え女でなくても試験者を叩き潰してきた隊長に、気絶するか根をあげるかで、負けるに決まっている。



「待て、よく見てみろ。お前は打ち込まれるところだけを見過ぎだ」

「ちゃんと見てましたよ。あれは素人です。剣も碌に持てちゃいないし、体力も無いし、動きに無駄があるし、何より、遅い」



 始まってから間もないのに、もう息をきらしている。

 言い放って、その腕を解こうとするのを、先輩は制した。

 この人相手に俺が抵抗できるわけがない。



 納得はできないが、見物を止めるのはできなさそうだ。

 渋々と、鍛錬所の壁に背をかけて、眺める。



「見ろ、あれだけ打たれているのに、直ぐに動く」



 先輩の声に、胡乱げに視線を向ける。

 確かに動いている、それでも痛いのだろう、盛大に痛みに顔を歪めてだが。



「それに、あの人に、自分から向かっている」



 それははっきり言えば無知からだ。

 普通、剣に携わっているものは、まず相手の出方を見る。

 隊長ほどの実力者ともなれば、距離を取るのは当然だ。



「いま倒れたが、模擬剣を放さなかった」



 確かに、あれほど派手に転べば剣を手放すのが普通だ。

 だがそれが必ずしも良い判断だとは言えない。

 無理な体勢で剣にしがみつけば、手の筋を傷めることがあるし、怪我することもある。



 あれほど派手に転べば、剣は一旦手放したほうがいい。

 下手を打てば、自分の身体に刃が刺さることもある。



「理解できないという顔をしてるな」



 先輩が苦笑した。

 当然だ。何故騎士になろうと思ったのかもわからない実力だ。

 むしろ、騎士を舐めているようにも思えてならない。思わず顔をしかめる。



「惜しいな」

「何がです」

「あれはいい」



 感嘆したように呟く先輩の横顔を怪訝に眺めて、試験者を見る。

 先輩は部隊の中でも古株だが、隊長でも副隊長でもない。

 ただ人の見る目は他を秀でると、周囲に一目置かれている。



 今回入った人間にもそんなことを言わなかった先輩がどうして今更あんな素人に口出しをするのか。

 眉をひそめて、試験者を眺める。

 あれだったら隊長相手でなくても、この隊の連中であれば赤子の手をひねるように、倒せる。



 何故それほどに、先輩が肩入れするのか、俺は心底疑問だった。

 いつしか隊長と試験者の試合に、試験者の動向に、念を入れて見物するほどに、その時の俺は理解できなかったのだ。




 この連載は、なるべく頻繁に間話を入れていこうと思っています。

 よろしくお願いします。


 次話は又、主人公の私視点に戻ります。(恐らく……)

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