第3話 デレデレな義妹と学校
「あの……ケイ」
「お兄ちゃん、今の私のことはケイじゃなくて〝スイ〟って呼んでほしいな~」
「え? なんで? 別にいいけど……ってそうじゃなぁい! 腕組み登校はまずいんだって‼」
現在、俺とケイ……改めスイは、腕を組みながら登校をしている。
こんな登校をすれば、俺だけぐちゃぐちゃにされるのは火を見るよりも明らかだろう。
とはいえ……。
「えへへっ♡ お兄ちゃんと一緒に登校でき嬉しい♡」
「尊ッ‼ ……し、仕方ないな」
「いいの⁉ お兄ちゃんありがとうっ♪」
なんだァ? この可愛い生命体はよぉ。こんなの許しちまうだろうが。
あの太陽よりも輝いて見える彼女の笑みに浄化される。
まあ、こんなイチャイチャしながら登校をして他の生徒から何も思われない。なんてことはなかった。
「あれケイちゃんじゃね?」
「隣の男誰だよ」
「許すまじ。殺してやる……殺してやるぞ!」
「我らの彗様がぁ⁉」
「あれ兄の流斗ってやつだろ」
「呪呪呪呪呪呪」
絶え間なく殺色一色。聞こえてくるのは呪詛ばかりであり、俺は祝詞を唱えて神に願うことしかできない。
どうか、今日は生きて帰れますように。
義妹フィルターがあってか、今日はラブレターを貰うことはなくそのまま教室に直行できた。その代わりに殺意たっぷりの視線を貰ったがな。
「そんじゃ、スイも自分のクラスに行きな」
「い~や~だ~! 私もお兄ちゃんと一緒に授業受けたい~~っ!」
「スイの頭脳なら問題なくついていけるだろうが、それはダメだっての。駄々をこねるなって」
「駄々とおっぱいはこねたもん勝ちだってパパから聞いたもんっ‼」
「自分の娘になんてこと言ってやがんだあのクソ親父ィ‼」
俺と現在の父さんは血は繋がっていない。だが家族の繋がりはある。
そう思っていたのだが、切りたくなってきた。とりあえず帰ったら〆よう。魚と一緒に捌いて皿に盛り付けてやる。
「うーん……。じゃあ昼に一緒に弁当食べるから! なっ?」
「お弁当……今朝の続きができる⁉ わかった! 約束だからね‼ お兄ちゃん大好きだよ~~♡♡」
「お、おう。……くっ、妹とはいえ美少女、やれやれまったく心臓に悪いな」
やれやれ系主人公の雰囲気を醸し出しながらスタスタと歩き、自分の席に座る。
……という大作戦は成功するはずがなく。
「流斗くぅ~~ん? オレたちとお話しよっかァ~~☆」
「……ここから入れる保険ってなんかある?」
その後、俺がいかに恐ろしい眼にあったかは言うまでもないだろう……。
# # #
突然だが、私こと星光彗はお兄ちゃんである星光流斗のことが大好きだ。
今まで散々心の底に押し込められてた気持ちがひっくり返ったんだよ? そりゃあもう好き好きのしゅきすぎだよ。
どれくらい好きかというと、授業中にお兄ちゃんと私の〝新婚♡らぶらぶちゅっちゅライフ!〟の絵をノートに描いてしまうほどだ!
「うへ~♡ 海の見える家でぇ、お兄ちゃんとの子供は三人、いや五人は欲しいかな~~♡♡」
何やら他のクラスメイトがちらちらとこちらを見ている気がするけど、気にしない気にしない!
「あー……彗? 今授業中なんだが……」
「むっ、せんせー! 今の私はケイじゃなくてスイです! そんでもって授業中だからなんだってゆーんですかーー‼」
「いや授業中だから授業受けてぇ⁉ はぁ……まあ普段の行いから、この問題を解いたら何も言わないでおくさ」
数学の先生は教卓の前で溜息を吐いて、黒板に指示棒を向ける。
仕方ないな~。そう言って席を立って、黒板とのにらめっこを開始した。
「ケイ様……じゃない、今はスイ様だっけ?」
「あの問題程度楽勝だな!」
「彼女の知能ならば大学生に混じっても大丈夫と言われてますから」
「なんせ主席で合格したからな~」
「でも今日は様子変だよな」
「服装もギャルっぽくてまた良き……」
何やら外野が騒いでいるらしい。
だが、私は気にせずこう答えた。
「わかんないです!」
「えぇぇ⁉ じゃ、じゃあもう少し簡単なこれは……?」
「わかんないです!」
「じゃあ基礎的なこの問題!」
「はいっ! わっかんないです‼」
「どーーしてぇえええええ‼」
何一つわからなかった。
だって仕方がないじゃないか。今の私の頭にそんなつまらないものを詰め込むスペースはないんだから。お兄ちゃんでオーバーフローさせてるし!
「スイ様⁉」
「一体何があったんだ……」
「あの超優等生がわからないなんて」
「異常事態、だな」
「先生も突然アイデ〇ティティ歌い出しちまったよ」
「えらいこっちゃぁ……!」
もういいのか、先生は半分放心状態で授業を進めた。
今のこの時間は苦行だ。お兄ちゃんに会えないし、勉強はヤだし……。
なんとか数学や他の授業を乗り越え、四時間目の体育の授業となった。今日はグラウンドにて、男女混合のサッカーを行うらしい。
準備運動をしていると、隣のクラスメイトから声を掛けられた。
「ケイ……じゃなくてスイ様、やはり体育は嫌ですわね」
「ん? なんで? スポーツいーじゃん!」
「へっ⁉ ですが以前までは死ぬほど毛嫌いしておりましたのに‼」
体育とは、運動神経が悪い生徒を炙り出して辱めを受ける地獄の時間帯。
以前の私ならばそう思っていただろう。けど、今は違う――‼
「げ、ゲーム終了! 女子チームの勝利です‼」
「ふぅ。ま、こんなもんだよ。あーあ、お兄ちゃんに見せたかったな~」
「「「「「えぇえええええ⁉⁉」」」」」
男子vs女子のチームで始まった試合。
男子が蹂躙するクソゲーなんかではなく、ましてや女子が下剋上するものではない。運動音痴なはずの私が蹂躙した試合だった。
「スイさんって運動神経終わってなかったっけ⁉」
「ああ、ボールを扱わせたらいつもひっくり返ったセミみたくなってた」
「ま、まさか女子チームに負けるなんて……」
「スイ様かっこよすぎます♡」
「スイー! 一生ついていくよっ!」
「でもなんでいきなり運動神経良くなったんだ?」
聖徳太子ですらビックら仰天するほどの生徒に詰め寄られる。
「こう見えて実は鍛えてるんだよ~。前までは頭が硬かったからさ、筋肉の使い方がなってなかったってわけ」
トントンッと、自分の頭を指で小突きながらそう言い放った。
私は負けず嫌いだ。だから毎日一応筋トレはしていて、筋肉はそこそこついている。だからこそ、あとは〝使い方次第〟だったってわけ。
まあなんにせよ、これで四時間目の授業が終わった。ということはつまり……!
「お兄ちゃんとお弁当食べれるっ! 待っててねお兄ちゃ~~ん♡♡」