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八十九話 シャクスとの交渉

ガゼボにいたのはオルリリア姫だけではない、彼女の側近であるシャクス、そして護衛のソル、さらにイドリラの分身体がいた。


「どうぞ、お座り下さい」


オルリリア姫に促され、クロードとフェイは椅子に座る。


その眼前にイドリラの分身体、ではなく本物のイドリラの手によって、注がれた紅茶のティーカップが置かれる。


「改めて名乗りましょうか、我が名はオルリリア・ヴァルト・イル・スティレ、姫殿下と呼ぶことを許します」


オルリリア・ヴァルト・イル・スティレ、そう名乗った女性は、纏う雰囲気が輝きに満ちていた。


この女性がいるだけで、その場所を輝かすことができる、それほどの圧倒的な存在感があった。


「名乗ることを許します」

「フェイ・バルディア・ルー」

「クロード・イグノート、です」


「ふふ、マリアルードでの言質を果たせました。遠路はるばる足労をかけましたね」


柔和に笑うオルリリア姫に、クロードは警戒心を引き上げる。


「そう警戒しないでください、何故お前たちを呼んだのか、貴様なら理解しているでしょう」


シャクスは不遜気味に、クロードを視線で射貫く。


「買い被りすぎですよ」

「はっ、猫を被るのはよしなさい、それが通じるのは見る目がないバカと、己の信じたいものしか信じない愚か者だけですよ、狩人」


(この女、やっぱり関わりたくねえ)


シャクスはこちらのことを調べあげている、それをクロードは直感した。


「シャクス、こっちは頼む立場だろう、高圧的に接するのは止めろ」

「頼む?、この男がそんな玉ですか、こちらに何か要求があるに決まっています、さっさと話を進めましょう、時間は有限です」


「あら、シャクス。私は皆と話す時間は好きですよ?」

「殿下はご自由になさってください、私は私のやることをするだけですから」


ソルとオルリリア姫に窘められても、シャクスという女は止まらなかった。


「先にそちらの話を聞きましょうか」

「まずは名乗りましょうか、私の名はシャクス・ウィル・ネリザス、《右腕ライトハンド》と呼びなさい」


「"グラシャラボラス"、この単語に聞き覚えはありますか?」

「っ!」


クロードは特に反応を見せなかったが、フェイはその言葉に反応してしまった。


「やはり貴様らもヤツらと因縁があるのですね?」

「あると言えばある、どこでそれを?」


「親愛なる友人の言葉から予想しました、端的に言うと私たちはヤツらと敵対しています、つまりは我々とお前たちは協力できるのです」

「それは、姫殿下の部下にならないかと言うことか?」


「姫殿下が望むのならば、是非もないですが…」

「私はお二人とは良好な関係を築きたいのです、お二人はそれを望まないでしょう。それにソルの友人にそのような無体はしませんよ」


朗らかに笑うオルリリア姫に、クロードは自然と毒気を抜かれるような感覚を味わう。


「話を戻します、お前たちはリベルタで勇者が殺される所を目撃し、魔女と魔竜と戦った。私たちはその戦いの詳細な話を聞きたいのです」

「やつらを倒すために?」


「ご想像にお任せしますよ」

「ダメ」

「フェイ?」


「《右腕ライトハンド》、あの二体は私たちの獲物、手を出すなら…「フェイ!」」


クロードは不穏なことを口走りそうになったフェイの口を慌てて塞ぐ。


オルリリア姫が片手をあげる。


「構いません。フェイ、私たちの獲物とはどのような意味なのですか?」

「そのままの意味、ジークフリートは絶対に倒すし、ヘカテーには聞きたいことがある」


フェイの青色の瞳に激情が宿る。


「フェイ」

「ソル、これだけは譲れない」


心配するような声を出すソルに、視線を向けるフェイの言葉を聞きながら、シャクスは素早く思考を回す。


(地雷でしたか、ただ狩人クロードの言葉を聞く理性はあるようですね)


「お前たちが倒すというのならば我々からすれば好都合だ、手間が省ける」

「貴女達は"グラシャラボラス"と戦うつもりなのか?」


「その通りです、私は結構根に持つタイプですから」


笑顔でさらりと怖いことを言うオルリリア姫に、クロードは王族の風格を感じ取る。


「お前たちは知っているだろうが、姫殿下はつい最近病を患い、床に伏した。我々はこれをグラシャラボラスによる攻撃と見ている」

「攻撃」


「そうだ、姫殿下が患ったのは連合国の風土病で、王都ではどう足掻いても罹りようがない。それに一度我々はグラシャラボラスの魔女を名乗る"病魔の魔女(イルネスウィッチ)"と交戦している」


「魔女と戦ったのか」

「勝ったの?」


「いいや、首を落とし、四肢を切ったら逃げた。おそらく戦いが得意ではない魔女なのだと思う。ヤツの気配は邪悪であったが竜の魔女(ドラゴンウィッチ)ほど恐ろしくはなかった」


ソルは淡々と交戦結果を語る。


「姫殿下殺害未遂、そして先日のリベルタでの勇者殺害事件と古代兵器暴走事件、この三つの事件はこの国にグラシャラボラスが深く根を張っていることと、ヤツらが今現在王国を攻撃していることの証左に他なりません」


「故に私はお前たちが交戦したグラシャラボラスの情報を知る必要があります」


グラシャラボラスと戦うならば、戦う可能性が高い、だからこそシャクスは情報を求めているのだ。


クロードは、フェイの手を握って宥めながら、思考を回す。


(フェイの復讐を果たすためには情報がいる、姫殿下派閥がどれほどの情報網を持っているからは分からないが、少なくとも冒険者の俺たちよりは上だ)


(そして情報を求めているのは向こうも同じだ、魔女の知識は俺たちの方が一歩先んじていると考えていい、交渉は二段階に分けた方がいい)


「教える条件が二つある」

「聞きましょう」

「一つはヒルダ・イグノートに会いたい」


「イグノート?」

「知らないとは言わないよな?」

「いいえ、知っていますよ。我が国の辺境騎士エラントの一人ですから」


(あの女はヒルダ・ガルドと名乗っていたはず。陛下を謀ったことはさておき、何故そのような嘘を…)


気にはなるが、今はクロードの要求に応える方が先だ。


「会わせると確約することはできませんよ」

「それでも構わない、こう伝えてくれ、クロードが奥義を射たと」

「いいでしょう、して二つ目は?」


「二つ目はヘカテーとジークフリートの情報を手に入れたら、俺たちに共有して欲しい」

「シャクス・ウィル・ネリザスの名において約束しよう」


「その二つを確約してくれるなら、話そう」


クロードは、闇の魔女(ダークネスウィッチ)ヘカテーと暴王竜ジークフリートの能力について、知っていることを詳細に話す。


闇の魔女(ダークネスウィッチ)ヘカテーは、一瞬で五感を奪う魔法を使うこと、闇の中に取り込んだ死体を操ることができること、闇の剣を生成できること。


暴王竜ジークフリートは、魔法の炎を全身に纏っており近づくだけで、炙られること、息吹ブレスを撃つ瞬間はその炎の火力が落ちることなどを伝えた。


「ヘカテーの能力はほぼ分からないと言っていい、対してジークフリートの方はシンプルだ、隠し球がない可能性は否定できないけどな」

「魔法…ですか」


シャクスは僅かに思案するが、すぐに顔を上げる。


「姫殿下、グラシャラボラスと戦うには魔法が必要です。このフェイ・バルディア・ルーのような魔法使いが」


シャクスの一言に、クロードは内心顔を顰めるのだった。



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