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八十八話 王都スティレイド

王都スティレイド、スティレ王国に住む人間ならば誰もが知る花の都であり、この国の全てが集まる大都市。


王族が住まうお城があり、貴族が住む屋敷があり、平民が住む家がある、そしてその澄んだ水面の下で、どす黒く濁った闇が潜む。


光があるところに影が差す、その条理に則る王都の影を知っている人間はさほど多くはない。



「クロードは王都に行ったことがあるの?」


ガタガタと揺れる馬車の中で、クロードの肩に寄りかかるフェイはそういえば聞いてなかったと思って、聞く。


「一回だけある、依頼で。でもリベルタに住み着いてからは一度も行ってないな」

「どんな街か覚えてる?」

「そんなに長期間いたわけじゃないから、そこまで印象はないな。リベルタより広くてアグルよりデカい城があることくらいだな」


「この国で一番大きな街なんだよね?」

「街というより都市だな、それぐらい大きい」


「なんだいお嬢さん、王都は初めてか?」


暇だったのか馬車を操縦する御者に話しかけられた。


「ん、おじさんは王都に詳しい?」

「詳しいぜ、何せ俺は王都行きの乗り合い馬車の御者歴十年だからな」


「王都はどんなところ?」

「都会って感じだな、お二人さんのようなおのぼりの冒険者を乗せるのだって初めてじゃないぜ」


「それにしては、この馬車に乗ってる客が俺たちだけって、あんたなにかやったのか?」

「何もやってねえよ!、偶々だよ偶々!」


「そうかい」

「兄ちゃん、信じてないだろ」

「俺が信じてるか否かはどうでもいいだろ」


「兄ちゃん、さては友達が少ないな」

「そんなことより、王都について詳しいなら、お姫様に仕える遍歴騎士エラントについて何か知らないか?」

「お姫様に仕える遍歴騎士エラント?、ああ、ソル様のことか」


「そう、そのソル様だ。実は彼女がファンでな」


さらりと嘘をつくクロードに、フェイは口元を隠す。


「へぇ、それは良い趣味だな。ソル様は俺も好きだぜ、騎士の中の騎士ってやつだ、俺たち平民にもお優しいしな」


彼女の本名はソル・ドレイク・スクルド、北の守護神であるスクルド侯爵家の庶子にして、その卓越した剣の腕で、若くして遍歴騎士に任命された傑物だそうだ。


誰に対しても優しく、その剣は悪を斬り、その盾は民を守るという。


「遍歴騎士とは関係ないが、王都で気を付けることはないか?」

「それなら地下街と従士隊には気を付けな」


「地下街はなんとなく分かるけど、従士隊って?」

「王子様直属の部下たちのことだよ、あいつらの良い話は聞いたことがない」


クロードはその忠告を頭の片隅に置いておくのだった。


◆◆◆◆


王都スティレイドは、クロードの言う通り、リベルタよりも、大きくリベルタよりも大勢の人がいた。


遠目に見えた王城アグラシエスは、フェイが今まで見た建物の中で、一番大きかった。


「おお、すごい人」

「まずは宿屋を探して…」


「お待ちしておりました、クロード様、フェイ様」

「「!」」


乗り合い馬車の乗り場を出たところで、声を掛けられた二人は驚く。


視線を向けると、クラシカルなメイド服を着た女性が立っていた。


「お初にお目に掛かります、姫殿下に仕えるスーパーパーフェクトメイドのイドリラと申します」


ホワイトプリムを頭の上に載せたイドリラと名乗ったメイドは、ぺこりは頭を下げる。


「(このメイド、強いな)」


イドリラと名乗るメイド、その立ち姿に一片の隙もない。


「初めまして、私はフェイ・バルディア・ルー」

「クロード・イグノートだ。お姫様がわざわざ迎えを寄越してくれたってことか?」


「はい、お二人は平民かつ王都の土地勘がないので、困るだろうと」

「非常に助かるけど、念の為あんたがお姫様に仕えるメイドだと何か証明できるか?」


「慎重なようですね、こちらでは足りませんか?」


イドリラは、服の裾から短剣を取り出した。


その短剣の柄には王家の紋章が刻まれていた。


王家の紋章が刻まれた武器を持つということは、王家の人間である事の証明だ。


「王家の短剣か、疑ってすまない」

「いえ、初対面の人間を疑うのは当然かと。素晴らしい警戒心です、スーパーパーフェクトメイドの私は感心しました」


「ど、どうも」


クロードはツッコミたい気持ちを何とか抑える。


「私をとりあえずのところ信用していただけるのでしたら、セレジェーラ離宮までお連れします」


クロードとフェイは頷き合い、イドリラのあとについて行く。


少し歩くと、王家の紋章が刻まれた豪奢な馬車が停まっていた。


「どうぞこちらにお乗り下さい」

「なんで同じ顔の女性が、御者台に?」


イドリラと瓜二つの女性が、御者台に座っていることにクロードは首を傾げる。


「私の分身のことですか。お気になさらず私はスーパーパーフェクトメイドですから、自分の分身を出すことだって、出来ます」


(このメイド、もしかしなくてもとんでもない変人だな)


クロードは考えるのを止めて、馬車に乗り込んだ。


◆◆◆◆


この国の王様になろうとするお姫様の部下に、分身を作り出すメイドが居ても、不思議ではないのかもしれない。


「イドリラさん、貴女は魔術師なのか?」


そんなことを思いながらも、流石に我慢ができなかった。


「魔術師?、いいえ、私はメイドですよ、それもスーパーパーフェクトな」

「あーはい、そうですか」


やっぱり会話はできないと思い直して、小窓の外から、王都の景色を眺める。


「ねえ、イドリラさん。セレジェーラ離宮ってお城?」

「アグラシエス城の一区画ですので、そういう意味ではお城ですね」

「それじゃあ今からお城に行くってこと?」

「そうでございます」


「クロード、お城だって!」

「そこまで興奮することか?、別に城を見るのは初めてじゃないだろ」

「でもお姫様が住むお城に行くのは初めて」


「フェイは恐れを知らないな、もし俺たちがお姫様の不興を買ったら、俺たちはもうこの国では生きていけないんだぞ?」

「んー、そんなことはないと思う」


「なんでそう思う」

「クロードはシルバー、私はその相棒、冒険者ギルドだって守ってくれる」

「そうか?」

「ん、それが組織に所属するメリット」


「ご安心ください、姫殿下は決して冒険者の言の葉で、感情を乱される方ではございませんから」

「その言葉、信じさせてもらうぞ」


多少の不安はあるが、ヒルダに会うためには姫殿下の協力を得るのが近道だ。


(こっちが持ってる情報を使って上手く交渉できればいいんだがな)


お姫様の側近のシャクスという女には特に注意しなければいけない。


そんなことを考えながらも、王家の紋章を掲げる馬車が何かに止められることもなく、馬車は順調にセレジェーラ離宮に到着した。


「ここにもいるのか」


離宮の巨大な門を守る門番はいなかったのが、その代わりにイドリラの分身が立っていた。


「何体の分身がいるの?」

「さぁ?」

「さぁって」


「私がスーパーパーフェクトメイドであることを覚えておけば良いのです、それでは姫殿下の元へお連れしましょう」


セレジェーラ離宮は、何代か前の国王が病弱な王妃のために建てた自然豊かな施設である。


その王妃が花を好んだことから、離宮の庭は様々な花が咲き乱れ、そこには調和があり、まるで一つの芸術作品かのような美しさがあった。


代々権勢を誇る女性の王族が使用する仕来りであり、現在の主は第二王女のオルリリア姫である。


「お待ちしてました、二人の冒険者様」


花に囲まれたガゼボの中で、王権を手に入れんるとするお姫様が座っていた。

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