八十七話 発見についての考察と招待状
残骸遺跡攻略作戦改めて、レイジビースト討伐戦が終結してから、一週間が経った。
あの戦いで色んなことがあったが、ひとまずクロードとフェイは平穏に日々を過ごすことができている。
ただあの戦いを経て、様々な発見があった。
クロードは、その発見たちについてこの一週間、ずっと思考を割いていた。
一つ目は魔女と竜、二つ目は謎の剣士ランスロット、三つ目は魔女の最終目的、四つ目は竜の片目を撃ち抜いた自分の弓技だ。
魔女ヘカテー、暴王竜ジークフリート、奴らの行方は依然と知れない、どこかしらに逃げたのだろうが、クロードには、追う当てがない、故に追跡は諦める他なかった。
唯一の手掛かりと思われるのは、仮面の剣士ランスロットだったが、その剣士とはレイジビーストに侵入する際に会話をして以来会っていない。
フェイがランスロットに頼んだのはレイジビースト討伐への協力だったので、それが終わったから当初の予定通り帰ったのだろう。
ランスロット、何故名前を覚えているのかは分からないが、あの特殊かつ強力な仮面の能力にも何らかの制限があるのかもしれない。
閑話休題
あの謎の剣士の目的は、おそらく魔女ヘカテーだ、魔女と同タイミングで現れたので、クロードはそう推測している、ただランスロットはいなくなってしまったので、この推測を確かめる術はない。
とりあえずクロードは、ランスロットのことを思考の脇に置く。
次に考えるのは魔女ヘカテーの最終目的だ、あの魔女はレイジビーストを起動してリベルタを滅ぼそうとしたが、クロードはリベルタの滅亡に関しては魔女の目的ではないと考えていた。
何故なら魔女は帰ったからだ、つまり魔女の目的はレイジビーストの起動であって、リベルタを滅ぼすことは、それにともなうただの副産物だ。
リベルタを滅ぼす気だったのなら、魔女は自らリベルタに攻め入ったはずだ。
そもそも何故レイジビーストの起動したのかはクロードには推測できない、そのための判断材料をクロードは有していない。
いろいろと考えることはできるが、現時点では確証を得ることはできないので、魔女の最終目的を考えることもまたできない。
目的と手段は繋がっている、どうしてその手段を取ったのかが分からなければ、目的など考えようがない。
そして目下の一番の問題は、ジークフリートの片目を吹き飛ばしたクロードの弓技だ。
至極当然ながらクロードは、師匠に弓が黒光りする銀色に包まれて、弓矢が剣に変形するような技を教わっていない。
ただクロードには一つの確信があった、あれは魔法だ。
魔法に対抗できるのは魔法、この原理原則に則るのであればジークフリートの魔法的防御を貫いたのであれば、魔法であると考えるしかない。
しかしクロード自身、魔法が使えるようになったという感覚はない。
あの戦い以降使えるかどうか試したが、一度も成功しなかった。
フェイの冷炎とは別物としても、発動条件があるのか、そもそもあの土壇場で魔法が急に使えたのは何故なのだろうか。
残念ながらクロードの知識や経験の中に答えはない、それならば知るもしくは知っていそうな人間に聞く他ない。
「フェイ、ヒルダを覚えてるか?」
「クロードの師匠の妹」
「その人だ」
「その人に会いに行こうと思う、例の魔法らしきものについて、聞いてみたい」
クロードは自分の思考をこの一週間で、何度かフェイに話していた。
ヒルダ・イグノート、彼女はクロードの知らないことを知っていた、この件に関しても少なくともクロードよりは知識を多く持っているのではないかと考えた。
「どこに住んでるのか知ってるの?」
「王族の護衛なら王都スティレイドにいるはずだ」
王都スティレイド、スティレ王国の首都であり、王国の国王が住まう王城アグラシエスが聳える国内最大都市だ。
「王都に行くってこと?」
「ああ、あの力が本当に魔法なのか、もし魔法なら絶対に使えるようになりたい」
魔女と戦うには魔法が必須だ、そしてクロードはらしきものが使える、それならば使いこなす為にクロードは、何でもする気持ちだった。
「ん、分かった、でもヒルダにはどうやって会うの?」
「王族の護衛が仕事なら王城アグラシエスか、セレジェーラ離宮のどっちかにいるはずだ、問題は俺たちが貴族街に入れないってことだな」
貴族街は王都にもあり、当然貴族か、それに準ずる家系のものしか入れない。
「こっそり入るのは?」
「止めた方がいい、王都の治安部隊に追われるのは避けた方が賢明だ、指名手配でもされたら面倒だし」
「んー、貴族だって嘘をつくのは?」
「身分を偽るの重罪だぞ」
「むぅ、それならクロードは名案があるの?」
「名案ってほどのものじゃないが、冒険者ギルドに行けば、王都に手紙を送れるはずだ」
銀の特権の一つに、冒険者ギルドの郵便制度を利用できるというものがある。
「手紙?、誰へ?」
「王都にいる知り合いと行ったら、ソルしかいないだろ」
「ソルは貴族なの?」
「それは分からないが、お姫様の護衛を務める人物ならそれなりの融通を利かせられるだろ」
クロードはソルは遍歴騎士と見ているが、これは確定した情報ではない。
「そういうわけで、冒険者ギルドに行くぞ」
「ん」
クロードは文字を読めるし、書けるが得意ではないので、冒険者ギルドの職員に代筆を頼む必要がある。
◆◆◆◆
そういうわけで冒険者ギルドを訪れたクロードとフェイだったが、アリシャと目が合ったと思ったら、問答無用で、応接室に連行された。
とりあえずこちらを害する意思はなさそうだったので、クロードは一度出て行ったアリシャを待つ。
「お待たせいたしました」
アリシャは、高級そうなお盆に何かを載せて、部屋に戻ってきた。
「いや、別に大して待ってないが、それは?」
「おふたり宛のお手紙です」
手紙、ちょうど書こうと思っていたものが届いたことに、驚いたが、丸めた羊皮紙を閉じる封蝋印を見たクロードは、盛大に顔を顰める。
「なぁ、アリシャ、俺は家紋に詳しくは無いが、この手紙の差出人は相当身分が高いんじゃないか?」
「私からは何も」
それだけ言ったきりアリシャは応接室から出て行った。
ため息を口の中に留めたクロードは、短剣を取り出して、封蝋を切って丸まったやけに上質な羊皮紙を広げる。
手紙の差出人は、オルリリア・ヴァルト・イル・スティレ殿下、クロードは卒倒しかけたが、何とか耐えて、内容を読む。
貴族が使う古めかしい古語と長ったらしい美辞麗句に苦戦しながら、なんとか読み終える。
内容は端的に言うと、クロードとフェイの二人にソルを手助けしたお礼をしたいので、王都スティレイドのセレジェーラ離宮に招待すると書かれていた。
「すごい偶然」
「確かに、出来過ぎてるぐらいだ」
そう言いつつ、クロードはこのような招待状が届く可能性を想定はしていた。
レイジビースト討伐戦で勇者は死んだ、勇者がオルリリア姫と敵対するアルベルト王子の部下であった以上、オルリリア姫がレイジビースト討伐戦のより正確な情報を求めるのは自明の理であり、呼び出す相手としてソルと親交があり当時者でもあるクロードとフェイは最適だ。
少なくともシャクスと呼ばれていた側近の女はそう判断するのではないかと考えていた。
「王族から直々に招待状を戴いたら、否とは言えないな」
「ん、この招待状があれば貴族区に入れる?」
「おそらくは、この封蠟印を見せれば入れると思うぞ」
「運が良いね」
「そうは言えるが、お姫様に会うならこの格好というわけにはいかないような気がするけどな」
「手紙には礼節は不問とするって書いてある」
「社交辞令だろ」
「貴族のことを知らない私たちに使う意味はないと思う」
フェイの言葉にはとても説得力があり、クロードは閉口した。
「フェイ、王都は大都会だから、しっかり準備しよう」
「話を逸らした」
フェイのツッコミをクロードは華麗に無視した。




