八十六話 顛末とリベルタの今後
残骸遺跡攻略作戦から、名前を変えてレイジビースト討伐戦は冒険者たちの活躍により、レイジビーストの爆散によって、幕を下ろした。
リベルタが滅びかけた事件とあって、街ではその話題で持ち切りだった。
レイジビーストが爆散した音はリベルタの住民の耳にも届いていた、何より多くの冒険者が目撃しているので、箝口令を引くことも出来なかった冒険者ギルドは、レイジビースト関連の話を公表した。
闇の魔女ヘカテーはレイジビーストを起動し、リベルタを脅威にさらしたとして冒険者ギルドに指名手配され、名付きとなった。
合わせて勇者レオンの死亡も公表されたが、犯人が闇の魔女ヘカテーと裏切った勇者の仲間たちによるものであることは、伏せられ、鉄獣によるものとされた。
冒険者ギルドの俗に勇者派と呼ばれる職員たちによる采配だ、勇者が偽物で仲間に魔女がいたなんてことを、公表できるわけがないのでギルドマスターが承認した理由は納得はできる。
当然発表の前に冒険者ギルドのギルドマスター直々に、勇者の死亡に関する話は口外するなと言われた。
クロードではなく、フェイにだ、ただクロードはフェイから全てを聞いているので、実質二人にだ。
クロードとフェイは了承し、今回の依頼の報酬に色がつくことになった。
冒険者ギルドにとって誤算だったのは、リベルタ騎士団が勇者殺害に関する捜査を始めたことだった。
勇者レオンは、第一王子アルベルトの計らいにより、スティレ王国の名誉男爵となっていた。
名誉男爵は、世襲できない一代限りの爵位だが、それでも貴族であることに変わりはない。
貴族の当主が何らかの理由で亡くなった時、その家族には騎士団に通報する義務が王国法により定められている。
通報された騎士団が何をするかというと、死亡証明書と呼ばれる書類を作るのだ。
病死であれば、死因の欄にそれを記した書類を、六十歳で亡くなったのであれば、年齢の欄にそれを記した書類を、もし他殺であれば、犯人の名前が記された書類を作る必要がある。
他にも書かなければいけないことはたくさんあるが、要するに貴族が死ぬということは一大事件であるということだ。
他領からやってきた貴族が亡くなったのであれば、尚更である。
冒険者ギルドは冒険者の自助団体だ、歴史が長く規模が大きいとはいえ領主の認可を受けて、活動している以上、立場が上なのは、領主直属のリベルタ騎士団だ。
さらに貴族殺害事件の捜査となれば拒むことはできない。
冒険者ギルドが恐れたのは、勇者の死因を偽ったことが騎士団にバレることだった。
そしてそれは捜査を担当した騎士によって、わずか数時間でバレた。
捜査を担当したのはリベルタ騎士団総団長ヴァネッサ・エル・スーリヤだった。
捜査を担当した理由は、自分が一番速く捜査を終わらせることが出来るから。
しかしヴァネッサが捜査を担当したのには、別の理由があった。
◆◆◆◆
「私が報告したことを自分の目で確かめられたようで良かったよ」
「はい、貴女様の言葉を疑うわけではありませんが、その内容の重要性から鑑みて、自分の目で確かめる必要がありましたので」
アレシアが管理するプライベート空間にて、ヴァネッサとアレシアが対面していた。
「それでリベルタ侯爵家はどう出るんだい?」
「第一王子派の弱みを土産に、姫殿下派に入ることになるでしょう」
「!、決めたんだね」
「はい、侯爵閣下がご決断されました」
今まで王位継承権争いに静観を貫いてきた五大貴族の一角であるリベルタ侯爵家が派閥を決めた、それは王国を揺るがす大ニュースではあるが、まだそれを知っている人間は極々少数だ。
「忙しくなりそうだね」
「はい」
「そう言えばクロードが言っていたね、魔女が召喚した竜、暴王竜ジークフリートは"グラシャラボラス"の一員だと」
「…その情報、聞き捨てなりませんね」
「クロードやフェイも、ヤツらと因縁があるのだろうね、この情報を知ったのは君にこれを渡すための対価だ」
「それは…?」
アレシアが取り出したのは、剣身が布に包まれた一本の長剣だ。
「これは亡くなった勇者レオンが持っていた偽宝剣だ、クロードが回収して君に渡して欲しいとさ」
「偽宝剣、しかし何故クロードが?」
ヴァネッサは賢い、少ない情報でクロードが自分に何を求めているのか推察できたが、そうする理由が分からない。
クロードは勇者を毛嫌いしていたはずだ。
「彼曰く勇者は嫌いだけど、死んでよかったとは思ってないそうだよ」
「確かに彼は誰かの死を喜ぶような人間には見えない」
クロードなりに勇者の境遇に思うところがあったのかもしれない。
「分かりました、その剣は私が有効活用しましょう」
「是非頼むよ」
ヴァネッサは、偽宝剣を受け取り、机に立てかけた。
「アレシア様、先程話した魔女が召喚した竜が"グラシャラボラス"の一員であるというのは真でございますか?」
「クロードは信頼してもいい情報源から聞いた情報だと言っていた、彼がそう言ったのなら少なくともある程度の確度は保証できるよ」
「その情報が正しいとして、ヘカテーが"グラシャラボラス"の魔女と仮定すると、第一王子派の中に"グラシャラボラス"の人間がいる可能性が高い」
「その可能性を最も疑うべきだね、第一王子派は"グラシャラボラス"が隠れるには良い場所だ」
第一王子派は国内最大派閥だ、当然所属している貴族家は国内最多だし、その係累を含めればかなりの数の人間が派閥に所属している。
その中に"グラシャラボラス"の人間がいたとしても、見つけるのは容易ではないだろう。
「何はともあれ、閣下と共に王都へ赴く必要があります」
王都に住む派閥の長であるオルリリア姫に謁見しなければならない。
「王都か、まるっきり敵地に乗り込むわけだ」
「いえ、実はそうでもありません」
「え?、そうなの?」
「はい、確かに第一王子派の力は強いですが、王都では国王派が古来より強いのです」
国王派、つまりは現国王ライルド一世の派閥だが、スティレ王国では国王の権力は非常に強い、いくら王が病床に臥し、派閥の力が弱体化していようとも、国王が健在である限りは、王の膝元である王都での派閥の力は第一王子派にだって、負けはしない。
「陛下直属の遍歴騎士の力が非常に大きいのです」
遍歴騎士、国王直属の最強の武力、現在は六名が国王陛下により任命されている。
ただしソルがそうであるように、自らの意思で別の派閥に所属している遍歴騎士もいる。
それでも六人の遍歴騎士のうち、三人が国王派に所属している。
「直接的な武力がそのまま派閥の力というわけか」
「そういうことです、なので王都に赴く行為が危険である可能性は高くありません、少なくとも今のところはですが」
「それなら、リベルタは私や部下に任せて、王都で暴れてくるといい」
「はい、王都に楔を打ってきます」
ヴァネッサの頭の中には膨大な数の策謀が蠢いていた。




