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八十四話 勇者の歴史とレオン

勇者、それはスティレ王国では最も有名な称号と言ってもいいだろう。


何故有名か、それは歴代の勇者たちがスティレ王国に多大な貢献と栄光をもたらしたからである。


勇者の歴史を語る上で欠かせないのが初代勇者セレスティアだ。


スティレ王国が小さな都市国家から、王国を名乗るほど大きく領土を拡大した時代に活躍したセレスティアを語る時に必ず出てくるのが、宝剣エンドグラムである。


セレスティアの愛剣であった宝剣エンドグラムは、狂気の名匠クロフトが輝石竜ゾブラクの鱗より打った至高の魔剣だ。


宝剣エンドグラムが素材となった輝石竜ゾブラクより継承した特性は蓄積&発散チャージアンドファイア、使用者の魔力を溜めて、溜めた魔力を任意に発散することができるのだ。


一見強力そうには思えない特性だが、莫大な魔力を持つセレスティアとはとても相性が良かった。


セレスティアは宝剣エンドグラムに溜めた魔力を光線のように、放つ方法を思いつき、”光の剣”と呼ばれるその一撃はあらゆる戦場を蹂躙し、セレスティアの名を轟かせた。


セレスティアの死後、宝剣エンドグラムは次の勇者に受け継がれた。


そう王国では言い伝えられているが、事実は違う。


セレスティアから数えて、六代目の勇者レオンが持っていた剣は宝剣エンドグラムではなかった。


「セレスティア、君は宝剣エンドグラムを次代に渡さなかったんだね」


セレスティアは、自らの故郷であるスティレ王国を守る、その為にはどんな手段でも取ることに躊躇がない、そういう人間だった。


王国を脅かす魔獣王の領地に踏み入る際に、当時敵対していたリベルタにやってきた出来事からも、その単純明快な性格が分かる。


何故リベルタにやってきたかと問われたセレスティアはこう答えた。


『この道が一番近道だから』


アレシアは、リベルタを守る騎士たちには心底同情した。


そんなセレスティアが、宝剣エンドグラムを次の勇者に託さなかったのならば、その理由は容易に推察できる。


「エンドグラムが王国の脅威となる、君はそう考えたのか」


宝剣エンドグラムは破格の性能を持つ魔剣だった、もし宝剣エンドグラムが王国を脅かす者の手に渡ったら、セレスティアはその可能性を懸念したのだろう。


人間は愚かだ、それに勇者とて人だ。


勇者が王国を裏切る可能性はゼロではない。


現に勇者の称号が王都の権力者たちに都合の良いように利用されているように、勇者という存在の中身は時間が経ち、形骸化している。


時が経てば朽ちる、それは長生きしているアレシアが体感したこの世界の真理の一つだ。


「勇者レオン、そういう意味では君は腐った果物を掴むことを余儀なくされた不幸な人間なのかもしれないね」


アレシアの言葉には一握の哀れみが込められていた。


◆◆◆◆


レオン・ベリスン、勇者となる前の彼、ベリスン子爵家の三男として生まれた彼は腕っ節だけが自慢の男だった。


剣を振り、拳を握れば誰にも負けることはなかった。


ただし彼の『最強』は狭いベリスン領だけでの話だった。


ベリスン子爵家の三男として、騎士となるべく王都にやってきた彼は貴族の子弟たちが集まる王立学院で現実を知った。


自分程度の人間が大勢いること、そして世の中には天才と呼ばれる人間が存在していることに。


レオンが学院に入った時、上にも下にも同期にも、天才たちがいた。


先輩にはネリザス公爵家の秘蔵っ子にして後の《右腕ライトハンド》シャクス・ウィル・ネリザス。


同期にはスクルド公爵家の庶子にして飛び抜けた剣の腕を持つソル・ドレイク・スクルド、そして何故か恐れている人間が複数人いたスーリヤ伯爵家のヴァネッサ・エル・スーリヤ。


さらに後輩には、グラキス帝国からの留学生にして後に史上最年少で九天将に名を連ねる《魔人》ヘクトル。


眩しすぎる天才たちに、灼かれたレオンは上を見るのを止めた。


ただ雑然と学院生活を送っていたレオンの前に、突然第一王子アルベルトが現れた。


突然現れたアルベルトは、鞘に納められた剣をレオンに差し出した。


『抜け』


レオンは言われるがままに、剣を鞘から抜いた。


『よし、それはかの伝説の勇者セレスティア様が振るいし宝剣エンドグラム、選ばれし者にしか抜けぬ剣を貴様は抜いた、貴様は選ばれた。これからはその力を我が王国の為に振るうがいい』


その日からレオンの人生は一変した。


突然勇者となったレオンを、アルベルトは歓待し、厚遇した。


アルベルトの命令で、多くの場所へ行き、多くの()を倒した。


その力を王国の為に振るうのならば、アルベルトはレオンに何でも与えてくれた。


レオンが鎧が欲しいと言ったら、王国で一番の鎧を用意した。


驚いたレオンが何故そんなことをしてくれるかの問うと、アルベルトは平然と答えた。


『国の為に働く勇者に報いるのは当然のことだ』


レオンは当然のようにアルベルトに心酔するようなった。


アルベルトが紹介してくれた仲間たちはレオンのことをいつも褒め、誰かに非難されることがあれば、必ず擁護してくれた。


もうかつて学院で出会った天才たちのことなど、レオンは忘れ、自分の力に盲信するようなった。


その盲信が砕かれたのは、リベルタ公爵領の残骸遺跡を冒険者たちと共に攻略した時だった。


レオンは勇者になって初めて、宝剣エンドグラムの"光の剣"が通用しない鉄馬騎士かいぶつに出会った。


自分の力が通用しない相手、そんな存在との戦い方をレオンは知らなかった、死の恐怖に怯えた彼は逃げた。


一時的な撤退と自分に言い聞かせた彼は、それを何故逃げたと問うた冒険者クロードに思うままに答えた。


『お前は勇者じゃなくて、ただ宝剣を持っただけの子供ガキなんだな』


クロードの挑発に怒ったレオンは拳を振り上げたが、それは簡単に避けられ冒険者クロードの拳が、彼の顔面にめり込んだ。


顔面が潰れるほど殴られた彼が、唯一覚えているのはクロードの去り際の一言。


『宝剣に選ばれただけ子供ガキはとっとと家に帰れ』


意味が分からない、自分は成人した歴とした大人だ。


その言葉の意味をレオンは最期まで理解することは叶わなかった。


◆◆◆◆


クロードとレオンの戦いは、刹那の勝負だった。


正眼の構えから袈裟に振り下ろされるレオンの剣、正道な騎士の剣、シンプル故に強く、そしてその太刀筋は読みやすい。


クロードは、受け流しを極意とする弓と剣の構えにて、弓で剣を受け流すのが苦手だ。


弓に関しては無類の自信を持つクロードだが、接近戦に関しては修行していた頃から、苦手意識があった。


これの要因はクロードの本質が弓使いであることだと師匠のオリオンは見抜いていた。


『クロード、お前は弓を使えば俺よりも上だ』

『どうした師匠、変な薬でも飲んだか?』


『まぁ、聞けよ。お前は弓に拘りすぎだ、弓は戦闘を始めるのに時間が掛かるのは分かるな?』

『ああ』


弓を出して、矢を矢筒から抜き、弓に番えて弦を引き、狙いを定める。


弓で戦うにはこれだけの工程を必ず踏む必要がある。


大して剣は鞘から抜いて、相手の急所を狙って振るう。


戦闘準備に必要な工程が弓よりも二工程も少ない、これは刹那を争う戦いの中では致命的だ。


つまり弓と剣を使う者同士がぶつかれば、必ず弓を使う者が敗れる。


『それならばどうするか、一ついいことを教えてるやるよ』


オリオンは、人差し指を立てる。


『俺たちの弓は、剣士にとっての剣だ、つまりは弓を剣のように使えばいい。簡単だぞ?』

『意味が分からないんだが?』

『常識を捨てろ、弓は剣であり、剣は弓だ、常識に縛られてるようじゃ、俺には勝てないぞ?』


苛立ちと共にオリオンの言葉に、納得している自分もいた。


弓が剣に勝てないなら、弓が剣になればいい。


クロードは再び馬鹿となる。



勇者レオンの剣は騎士の剣、シンプル故に強く、読みやすい。


袈裟に振り下ろされたレオンの剣を、クロードは、弓の柄で、滑らせるように受け流す。


その時点で、勇者レオンは死に体であり、喉元を貫く小太刀の刃を避けることは叶わなかった。


そのまま剣を横に振り、首を落とす。


ヘカテーの魔法の闇によって染まっているとはいえ、依代となっている死体が損壊してしまえば、もう二度と立ち上がることはできない。


崩れて消え去るレオンを一瞥したクロードは、短く息を吐く。


ふと剣だけが残っていることに気付いたクロードは、拾い上げる。


「お前の名前は覚えてやらねえけど、お前を利用したヤツらは盛大に困らせてやるよ」


意地悪そうに笑ったクロードは、剣を回収し、数秒後、小さな心臓(サブジェネレーター)の一つが爆発した。


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