八十一話 レイジビーストと新たな協力者
残骸遺跡、起動したレイジビーストから脱出したクロードとフェイは、冒険者たちが集まる場所に転移する。
「《七色》が戻ってきたぞ!」
アレシアの姿を見つけた冒険者たちは嬉しそうに声を上げる。
「アレシア、待っていたぞ」
「そのようだね、冒険者は全員揃ってる?」
「先程点呼を取らせた、クロードとフェイが最後でござる」
トウカは、クロードとフェイの二人に目を向ける。
「ひとまずは大事なそうで何より」
「ん、そっちも」
「うむ、してアレシア、あの巨獣をどう討伐する?」
「そうだね、前提として私の魔術での討伐は難しいと思ってくれ、理由は他の鉄獣と同じだ」
「鉄獣と魔術の相性が悪いというやつだな?」
「うん、それを踏まえると…」
作戦会議が始まり、皆の会話を聞いていたフェイは、ふとこちらを注視する冒険者たちの中に仮面の剣士がいることに気付く。
「クロード、ちょっといい?」
「ん?、構わないぞ」
フェイはクロードに一言告げて、立ち上がる。
仮面の剣士は近づいてくるフェイに気づく。
「フェイ・バルディア・ルー、貴女は?」
「ーーーー」
「話せないの?」
「『フルフル』」
仮面の剣士は、首を縦に振って肯定する。
「それじゃあ地面に名前を書いて」
座り込んで足元の地面を指差したフェイに、仮面の剣士は頷き、適当な石を拾い地面に名前を書く。
「ランスロット、なんか強そう」
「『ありがとう』」
「ん、実際強いはず、ここで何してるの?」
「『言えない、でももう帰るから、安心して』」
「私の敵になる?」
「『それだけは絶対にない』」
手早く文字を書いたランスロットとフェイは顔を合わせる。
「それならあのデカブツを倒すのを手伝って」
「『どうして私に頼むの?』」
「敵じゃないなら味方、強い味方が暇できる状況じゃない。使えるものは全部使うって姉が言ってた」
「『姉が言ってたなら仕方ない、妹は姉を尊重するものだから』」
「ん?、とりあえず協力してくれるの?」
「『協力はするけど、他の冒険者には伝えないで、目立ちたくない』」
「それは難しい、重要な戦いで存在を隠すのは皆の納得が得られない」
「『それなら他言無用の誓約魔術を結んでもらう、それが最低条件』」
「分かった、契約させるように説得する」
「『お願い』」
二人は地面の文字を消す。
「フェイ!」
「ん!」
「戻るから、よろしく」
「『ーー』」
クロードに呼ばれたフェイは、ランスロットに声をかけてから、クロードの元に戻る。
「クロード、指示出しを頼む」
「はぁ?、なんで俺が」
「君は残骸遺跡攻略作戦の立案者だ、それにリーダーに向いてる」
「俺がリーダーに向いてるって?、冗談は止めろよ」
「クロードは向いてると思う」
アレシアと話すクロードの会話に、フェイも参加する。
「フェイはそう思うのか?」
「ん、指示が的確だし、決断が早い。リーダーとして大事な要素だと思う」
「なるほど、フェイはアレシアの味方か」
「クロードの活躍するところがみたい」
「はは、分かったよ。アレシア、フェイに貸一つだ」
「ありがとう、フェイ」
「ん、こっちこそ」
ポーションを飲んだクロードは立ち上がる。
「聞け、冒険者!」
クロードの声はよく通り、一声で冒険者たちの視線を集めた。
「遺跡を攻略するはずが、その遺跡がバカでかい怪物に変わっちまった、混乱するのも無理はないが、俺たちがやることは何も変わってないぞ」
「鉄獣を倒す、この作戦の根はそれだ。戦場が変わったに過ぎない」
「あのデカブツは俺たち銀に任せろ、他の奴らはあのデカブツが吐き出す鉄獣を倒せ」
クロードが指差す先、レイジビーストが歩く先に無数の粒が見える。
「いいか!、鉄獣を一匹たりともリベルタに近づけさせるな、お前たちのやることは金も得られて名誉も得られる割のいい仕事だ、一匹残らず殲滅して、冒険者の恐ろしさを鉄の獣の教えてやれ!」
「「「「おーーーーっ!!!!!」」」」
クロードの言葉に冒険者たちは一瞬で支配された。
「アレシア、送ってやれ」
「はいはい、リーダーの仰せのままに」
アレシアの魔術で冒険者たちは移動する。
残ったのは七人の銀とその仲間たち。
「俺たちはあの巨獣をぶっ倒すぞ。なんだよ、トウカ?」
「いや、クロードはやはり武将としての天賦の才を持っておるなと」
「フェイの賛辞は嬉しいけど、てめぇらのはいらねえな」
「褒めそした相手にかける言葉ではないな」
「うるせえな、文句を言う前にアイデアを出せよ」
トウカやエドモンドと小競り合いをしつつ、負傷して寝ているグレイシアの周りに、冒険者たちは集まる。
「アレシア、余力はあるか?」
「まだ大丈夫だ、ただ繰り返しになるけどレイジビーストを一撃で葬り去るのは無理だね」
「分かった。レイジビーストはバカでかい鉄獣っていう認識はあってるか?」
「基本的な仕組みは同じだよ、相違点を言うなら首を落としても止まらないし、外装は強固、魔術は通じない。そんなところかな」
「どう殺せるのか、それを教えてくれ、アレシア」
「エドモンド、私はレイジビーストの専門家というわけじゃないんだけどね」
「でも一番そのレイジビーストとやらを知ってるのは貴女よ、アレシア」
「レイジビーストは八百年ほど前に栄えた国が作った戦略兵器だ、当時は魔術師の間で話題になってね、それで私も多少知っているだけだよ」
「最奥部に心臓があるだろ、それを破壊するんじゃ駄目なのか?」
「クロード、レイジビーストを起動させたのは魔女だ、罠をしかけてないとは思えない」
「アレシア、先ほども言っていたな、魔女が現れたと」
「説明するよ」
アレシアは勇者が殺害されたこと、殺害したのは勇者の仲間でヘラと名乗っていた女で、その正体は闇の魔女ヘカテーであり、その目的は残骸遺跡、レイジビーストを起動させることであったことを説明した。
「おまけに竜まで召喚しやがって、勇者の竜殺しの話も嘘だったってことだな」
「勇者がおらぬとは思っていたが、そのようなことになっていたとは。魔女と竜は?」
「もう逃げたね、魔力の反応がない、最初からレイジビーストの起動が目的だったということだね」
「話が逸れてるぞ、勇者は死んだ、魔女と竜はいない、いるのはレイジビースト、こいつをぶっ倒す、それが俺たちの目的だ」
「とりあえず四肢をバラバラに切り落としたら止まる?」
「可能性はあるが、どうやってあの極太の脚を斬るんだ?」
「関節部分を狙えれば、某は斬れる」
「まじか」
「まじでござる」
「エドモンド、お主もできるであろう」
自然と皆の視線が鉄兜を被る男に集まる。
「容易いとは言わんができる」
「お前の得意分野は防御じゃなかったか?」
「いつ斧を振るうのが不得手だと言った」
パーティーをほとんど組まずに銀になっただけはあるのか、エドモンドは自信を見せる。
「動きを止めて、その後はどうする?」
「あれだけのデカさだ、心臓がひとつしかないとは思えないが、どう思う?」
「良い着眼点だね、あれは生き物ではなく機械だ。あれほどの巨体を動かすとなると、各部の動きを補助する小さい心臓がそれぞれあっても不思議じゃない」
「調べられるか?」
「やってみるよ」
アレシアは、皆から少し離れて、手で丸を作り、その中を覗き込む。
クロードとフェイはアレシアの近くに寄る。
「あった、数は五つ、これらを破壊すれば大元の心臓が動いていたとしても魔力が暴走して爆発するね」
「五つか」
トウカとエドモンドを除けば、動けるのはボリス、クロード、フェイ、アレシア、グレイシア。
数は足りるが、アレシアは小さい心臓を破壊した人間たちを脱出させることに集中させたい。
「クロード、もしかして数が足りない?」
「ああ、ちょうど一人な」
「それなら適任者がいる」
クロードの隣にいつの間に仮面の剣士が立っていた。
「お前は…!」
クロードは家の裏庭で会った仮面の剣士がいることに驚く。
「『ヒラヒラ』」
仮面の剣士ランスロットは気安い様子で片手を振る。
「お前はあの時の…!?」
クロードは家の裏手で会った水の上を歩いていた人物が、いることに驚く。
「知り合い?」
「フェイに言って…、なるほどそういうことか」
クロードは自分があの出来事を帰ってきたフェイに言わなかったことを思い出す。
あのなかなかに衝撃的な出来事をすぐに忘れるはずがない。
しかし現に今まであの出来事を忘れていた、仮面の剣士と再会して思い出したが、再会しなければ一生忘れていたかもしれない。
(例の仮面の力か、自慢げにしていたもよく分かる)
顔を隠し、声を隠し、存在と目的を隠す、微塵も信用できない相手だが、クロードの勘は不思議と、警戒してはいなかった。
(なんでだろうな、これも仮面とやらの力か、それとも纏う雰囲気が誰かに似てるからか)
「ーーー」
「クロード、彼女は…」
「いや、いい、ちょうど五本目の剣が欲しかったところだ」
「『ーー』」
ランスロットは一枚の魔術書を取り出す。
「なんだそれは?」
「自分の存在を他言しないように、契約して欲しいんだって」
「お前…」
「『ーー』」
「なんで申し訳なそうにするんだ、ひとまずお前の名前がランスロットだと分かったことを収穫にしておくよ、アレシア!」
魔術書に書いてあった名前を見たクロードは、アレシアを呼び、ランスロットと契約魔術のことを説明する。
「なるほど、とりあえず深くはツッコまないでおくよ」
アレシアはチラリとランスロットを見たが、特に何も言わず魔術書にサインした。
「お前ら、作戦が決まったぞ!」
クロードが今一度皆の注目を集める。
「トウカ、エドモンドがレイジビーストの前脚を斬る。動きが止まったところに、残った連中が小さな心臓を破壊する簡単な任務だ」
「あー、クロード、悪い知らせがある」
「なんだ?」
「レイジビーストには直接転移できない」
出鼻を挫くアレシアの報告に、クロードは顔を顰めた。




