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七十三話 アレシアの真意と衝突

翌日、夜が明ける頃には第二次残骸遺跡攻略戦の話は、リベルタの全ての冒険者の耳に入り、都市をざわつかせていた。


そんな騒然とするリベルタをよそにフェイは、東地区と南地区の境界に建つ何の変哲もない一軒家の前に立っていた。


「アレシア、来た」


扉をノックすると、ひとりでに扉が開き、そのまま中に入ると、そこにはフェイの想像を越える世界が広がっていた。


クロードから事前に聞いてはいたが、実際に目にすると驚きを禁じ得ない。


家の中の入ったはずが、川のせせらぎが聞こえ、陽光が降り注いでくる。


小さな家のベランダデッキにて、アレシアが立っていた。


「いらっしゃい、フェイ。この家に初めて来た人は皆そんな反応をするんだよね」

「自分の目が信じられない」


「この家は私のお気に入りだからね、完成させるのにもかなりの時間を要した自信作だよ」


フェイは気になることがたくさんあったが、アレシアに促されて、彼女とテーブルを挟んで、椅子に座った。


「何か飲むかい?」

「水」


アレシアが指先を振るうと、手の内にコップが現れ、水が注がれる。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


フェイは、特に警戒すらせずコップの水を飲む。


「君が何故クロードの相棒になり得たか、少し分かった気がするよ」

「?」


「君は私が出した飲み物に欠片も警戒をしていなかった、クロードなら間違いなく警戒していたよ。つまり彼と君は真逆ということだ」


「真逆ということは形の揃った歯車のように噛み合うこともできる」

「私とクロードは最高のコンビ」


「自認はしてるか。実は一度君とは腰を据えて話してみたかった」

「奇遇、私も」


「へぇ、君にそこまで気に入られてるとは思ってなかったよ」

「そう?」

「そうだとも君とはまともに話したこともなかったからね」


「きっかけはエルフリーデ、貴女は彼女のことを尊敬しているように見えたから」

「尊敬しているとも、彼女はあの混沌の時代においてリベルタを幾度も救った英雄であり、私の友だから」


一瞬どこか懐かしむような様子を見せたアレシアに、フェイは笑う。


「友達を尊敬できる人は好き」

「ーーー」


真正面から褒められた経験がないアレシアは、思わず顔を背けてしまった。


「コホン、フェイが何故冒険者になったか、聞いてもいいかな?」

「成り行き、私はクロードに救われて、冒険者を勧められた」

「クロードは命の恩人ということかな」


「ちょっと違う、クロードを前の私を殺して今の私にしてくれた、もっと特別な人」

「フェイたちの関係は良いものだね、心の底からそう思うよ」


「アレシアはどうして冒険者になったの?」

「私の場合は旅をするのにちょうど良かったからかな」


「旅?」

「うん、リベルタに来るまでは大陸各地を旅していたんだよ。その時に冒険者という身分はちょうど良かったんだ」

「どうして旅を止めたの?」


「旅より大事なものが出来たから、かな」

「いいね」

「ああ、いいものだよ」


言葉少なに感情を共有したアレシアとフェイは、空になったコップに水を注ぐ。


「そろそろ本題に入ろうか、前回の戦いに参加していない私が第二回を発起した理由だったかな?」

「ん、教えて欲しい」


「まずは前回参加しなかった理由から話そうか、フェイは私の顔があまり冒険者に知られていないことを知ってるかな?」

「ん、何となく」


「それはあまり冒険者として表舞台に出ていないからだ、表立って冒険者としての活動は今していないとも言える」

「そうなんだ、どうして?」

「特にこれといった理由はないよ、この家で過ごしてたまに冒険者として活動する、そんな今の生き方が好きというだけだ」


「ごめん、話の腰を折って」

「気にしないでくれ、当然の疑問だ」


「話を続けよう、そういうわけで私は残骸遺跡攻略作戦に参加しなかった。ただ結果があのようになるとは流石に予想はしていなかったけどね」


「あの結果を受けて私は単身、残骸遺跡を調査した。その結果分かったのは、あの遺跡は八百年前の兵器ということだ」

「八百年前の兵器?、遺跡じゃないの?」

「遺跡と誤解されるぐらい大きい兵器ってことだよ」


「その巨大兵器は完全自律型で、冒険者たちが鉄獣ビートと呼ぶ機構兵器を使って敵の拠点を襲撃し、制圧する。そしてあらかたの物資を奪って、次の拠点を襲い、拠点を破壊し尽くすまで止まらない、そういう役目の兵器だ」


「あの兵器は知っての通りまだ死んでない、私の目的は残骸遺跡に残った鉄獣を全て破壊することだ、邪な者たちに兵器の残骸が利用される前にね」

「邪な者…」


「フェイも聞き覚えがあるじゃないかな、魔女ウィッチ、ザイラス帝国、そして"グラシャラボラス"」

「!!」


ザイラス帝国に聞き馴染みはないが、魔女ウィッチと"グラシャラボラス"は最近聞いた覚えが大いにある。


「私が直接破壊できたら簡単な話だったのだけれど、鉄獣ビートは魔術に耐性がある金属でできているんだよ、非常に腹立たしいことにね」


アレシアの魔術で持ってしても、単独で殲滅することは難しいと彼女は語る。


「所詮私は一人だ、故に冒険者たちの力を利用することにした」


「たった二年で優秀な冒険者たちが揃ってくれたのは嬉しい誤算だったよ」

「それじゃあアレシアが第二回を発起したのは、残骸遺跡の鉄獣を殲滅するため?」


「そうだ、納得してくれたかな?」

「ん、アレシアは騎士みたいな考え方をしてる」


「それは私が元騎士だからだね」

「そうなの?」


元騎士だというアレシアの言葉に、フェイは目を見開いて驚く。


「リベルタでは本当に様々な経験をしたよ」


アレシアはそれ以上は話す気はないのか、言葉をはぐらかす。


フェイは追求しないことにして、疑問を問う。


「それをクロードたちに話さないのは何故?」


「端的に言えば信用していないからだね、どこに()か分からないのが世の中だ」

「それならどうして私に話してくれたの?」


「フェイはエルフリーデの魂を受け継いだ、この事実は君が考えるよりも私にとって重いということだよ」

「ーーー」


色々と驚きもあったが、フェイが知りたいことをアレシアは教えてくれた。


「クロードには話すべき」

「何故?」

「クロードなら協力してくれる」

「私の目的を話さずとも、彼は残骸遺跡を攻略する、リスクを犯してまで話す利点はない」


「クロードが悪人だと言いたい?」

「そうは言っていない、クロードが悪人かどうかは関係ない、重要なのはリスクを犯す価値があるかどうか、私はないと判断した」


アレシアの意志は強固であり、その考えを変えさせるのは一筋縄ではいきそうにない。


フェイは一度思考を整理する。


(アレシアが第二回を発起したのは冒険者の力で残骸遺跡の鉄獣を全て破壊する為、おそらくその根底にはリベルタを守るという強い意志がある)


アレシアは百年前、エルフリーデが活躍した時代の当事者、リベルタを守るという意志の強さはフェイには想像すら難しいものだ。


(私はどうしてアレシアの考えを否定したいんだろう?、アレシアの言ってることは間違ってない、むしろ正しいはず)


冒険者を、クロードを利用すると言ったアレシアの精神性に憤りを感じているのか、それとも理解できないアレシアの思考回路に嫌悪を感じているからなのか。


(いや、どっちも違う、私は…)


「アレシア、私の故郷はグラシャラボラスの竜に滅ぼされた」

「ーーー」


アレシアは何故急にそんなことを話すのか、分からなかったが、とりあえず聞くことにした。


「勇者がその竜を討伐したと聞いた、でも昨日勇者を見て、それが嘘だと思った」

「勇者の竜退治が嘘だと?」


「ん、私はあの竜を知ってるからこそ分かる。あの勇者では届かない」


それはフェイの直感、ヘラとかいう女はそれらしいことを言っていたが、戦士であり実際に戦ったフェイには分かる。


「竜が生きているのなら、私は決断しないといけない、そしてクロードはそんな私について来てくれると約束してくれた。この作戦に思惑を巡らせてるのはアレシアだけじゃない」


「私のために動いてくれるクロードに、嘘や誤魔化しはしない。話さないなら戦う」


フェイの目が細められると、周囲が殺気で潰されまいと必死に悲鳴をあげている気がする。


「フェイが話せばいいじゃないか」

「それは信用してくれたアレシアに泥を塗る、アレシアからクロードに話して」

「律儀なんだが我儘なんだか」

「どっちも」


「はぁ、フェイとは戦いたくないんだけどね」


アレシアは、立ち上がって長杖を手元に召喚し、フェイも立ち上がって、剣を抜く。


ご丁寧に机と椅子が消える。


「防具が無くても大丈夫かい?」

「アレシアこそ、家の修理費を計算した方がいい」


小さな空間で、戦士と魔術師がぶつかった。



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