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七十二話 焚きつけと敗北

フェイが会議室がある二階から一階へ降りてくると、多くの冒険者が依頼板の前に集まっていた。


「残骸遺跡にもう一度挑むのか」

「勇者様が来てるって話だぜ?」

鉄獣ビート一体につき、リード金貨一枚か」

「前回よりは割は良いが」

「あの遺跡には良い思い出がないな」


冒険者たちの話を聞く限り、残骸遺跡攻略戦に積極的な冒険者は少ない。


「フェイ、あの馬鹿は?」

「グレイシア、クロードは終わるまで待ってるって」

「絶対に物見遊山で見に来ると思ってたんだけど」

「グレイシアの言葉に共感するのが嫌だって言ってた」


「はぁ?、何それ?」

「グレイシアの実力を認めているということでござろう」

「彼奴が?、ちっとも嬉しくないわ」


「グレイシアとトウカはクロードと付き合いは長いの?」

「別に長くないわ、二年くらいよ」

「某はもっと短いでござるな」


「そうなんだ」

「彼奴のことを知ったのは残骸遺跡の撤退戦の時よ。それまではリベルタで冒険者をやっていることすら知らなかったわ」


「某も同じようなものでござった」

「それじゃあクロードのことは私の方が知ってる」


「当たり前のことを言わないでよ、私はあの馬鹿に興味なんかないわ」

「ふふ、あっ、私と話してて大丈夫?」


「大丈夫よ、私とトウカの出番は次だから」


グレイシアの視線の先を追うと、中空に浮くアレシアが冒険者たちの視線を集めていた。


「やぁ、冒険者諸君、初めましてと言った方がいいかな?、私はアレシア・セブンロード、俗に《七色カラフル》と呼ばれてる冒険者だ」


アレシアの名乗りに冒険者たちはザワつく。


それもそのはずアレシアは名前こそ広く知られているものの、その姿を実際に目にした者は少ないからだ。


「今回の第二次残骸遺跡攻略作戦を発案したのは私だ、是非冒険者諸君には奮ってご参加いただきたい」


アレシアの言葉に好意的な視線は少ない。


一人の冒険者が手を上げる。


「残骸遺跡には何もなかったんじゃないのか?、どうしてもう一度行く必要があるんだ」

門番ゲートキーパーが守る最奥部に、金銀財宝が眠っている、これは私が保証しよう」


冒険者ギルドが主導で行なう合同作戦において、遺跡を攻略する場合、遺跡内で発見したものは発見者に所有権があるとされている。


つまりは金銀財宝があるのであれば、冒険者はリスクを犯す価値があるということだ。


「ふざけんな、そんな口約束で俺たちを騙せるとは思うな」

「そうだ!、あの遺跡に良い思い出はねえ、例え金貨を百枚積まれたってお断りだね」


冒険者たちの間でアレシアへの非難の声が上がり始める。


「残念だよ、君たちが残骸遺跡に挑む勇気がない腰抜けの集まりだとは思わなかったよ」

「何だと!?」


「君は今図星を突かれたから、怒りを顕にしたのだろう?」

「何を言ってやがる!」


「落ち着け、いくら《七色カラフル》とはいえ侮辱される筋合いはない、取り消してもらおう」


比較的冷静な冒険者が、猛る男を抑え、アレシアに意見する。


「侮辱?、私は客観的事実を述べただけで侮辱する意図はないよ」

「それは詭弁だ」

「詭弁だろうとそれを否定することは君たちにはできないだろう?」


煽るように聞き返すアレシアに、冒険者は言い返せず、歯噛みしていると、近くのテーブルに、グレイシアが飛び乗る。


荒々しい登場に冒険者たちの視線が集まる。


「言いたい放題言ってくれるわね、《七色カラフル》」

「私は事実を言ったまでだよ、冒険者でありながら冒険することを止めた者を私は冒険者と認めない」


「誰しも貴女のように強い訳ではないのよ、アレシア」

「人は脆く弱い、されどそれも人の本質だ」


トウカが登場し、冒険者たちは自然と距離を取り、三人の語らいを外野として、見ようとする。


「勝手に距離を取ってるじゃないわよ、馬鹿共、これは冒険者の話よ!」


グレイシアがテーブルを蹴ると、再び彼女に視線が集まる。


「冒険者はリスクとリターンを秤に掛けながら生きる、だからリターンよりもリスクが上回ると判断して行かないと言う選択をした者を私は責めないわ、何故ならそれは賢い冒険者の証拠だから」


「賢い冒険者は長生きする、否、賢かった訳ではない、経験から学んだだけに過ぎぬ、だからこそ冒険者は己の経験を信じる」


グレイシアが話し、トウカが話す。


「冒険者はろくでなしよ、馬鹿で阿呆で礼儀知らず、どうしようもないやつらの集まりよ。ただそんな救いようのない私たちにも泥に塗れながら手に入れた経験に裏打ちされた自信プライドがあるのよ」


「傍から見れば下らぬと一蹴される自信プライド、されど某たちはそれを誇る。誇れぬものなど持たぬ故」


自然と二人の言葉に冒険者たちは聞き入っていた。


「二年前、残骸遺跡で私たちの自信プライドは粉々に砕かれたわ、鉄の獣如きに負けて仲間が死に、尊敬していた冒険者たちは引退させられるほどの怪我を負った」


「勇者を恨んだ、鉄の獣を恐れた、そして何より己の弱さを憎んだ」


「何故私は弱い?、あの時出来たことはなかった、本当に?、後悔してない人間はこの中に一人だっていないはずよ!」


グレイシアが問いかけると、冒険者たちは目を逸らす。


グレイシアの言ったことが的を射ているが故に。


「顔を上げなさい!、馬鹿共!」


「この二年でさらに弱くなったとかぬかすつもり!?、いいえ!、私たちは強くなったわ!、それは何故!」


「あの時の後悔と敗北が、某たちを強くしたのでござる」


そう、残骸遺跡の敗北はリベルタの冒険者たちを一段階成長させたのだ。


「私たちは強くなった、それなのに過去の敗北に怯えて、挑まないというのならそれでも構わないわ、その代わり」


グレイシアは、槍を抜き冒険者たちに向ける。


「私たちが冒険を成し遂げるのを、指を加えて待ってなさい」


それだけ言い残し、グレイシアは冒険者ギルドから出て行った。


トウカは、こちらに目配せを送り、グレイシアのあとを追うように冒険者ギルドを出た。


フェイは目配せの意味を理解し、冒険者ギルドの外へ出ると、案の定グレイシアとトウカ、そしてアレシアが佇んでいた。


「お疲れ様」

「ありがとう、私のヒール役は様になってたかな?」


「ん、良い演技」

「演技というか素を出しただけでしょ」


「グレイシア、どういう意味かな?」

「自分の胸に聞きなさいよ」

「喧嘩なら買うよ?」


「喧嘩をするでない、ご両人。フェイは成功したのか、気になっているのではござらんか?」

「ん、気になってる」


「グレイシアとトウカの演説を聞いて、参加する冒険者は多くはないだろうね」

「失敗したの?」


「いやいや、そういう訳では無いよ。残骸遺跡を攻略する上で必要なのは、目的を持った冒険者だ」


「目的」

「うん。金、名誉、復讐、何でもいい、恐怖を越える目的を持つ冒険者がいるんだ。そういう冒険者ならば、私たちだって背中を任せられる」


「人間の欲というのは時に何よりも信頼できる材料になり得る」

「ま、あれだけで冒険者たちの協力を取り付けるのは無理よ、ただ話が広がるのは早い、心配する必要はないわ」


グレイシアの言葉に、フェイは頷く。


「それじゃあ私は帰るから、次は残骸遺跡で会いましょう、それとアレシア、勇者はあんたとクロードに任せていいのよね?」

「君の戦いを煩わせることはさせないよ」


「言質とったから」


納得したグレイシアは、その場を立ち去った。


「某もここで失礼する、残骸遺跡で会おう」


トウカも立ち去り、アレシアとフェイが残った。


「アレシア、一個だけ聞いてなかった、前回の戦いに貴女は参加したの?」

「いいや」

「それならこの戦いを発起した理由は何?」


「随分と直球に聞くんだね」

「クロードたちはその理由を色々勘ぐってた。でも考えても答えはでない、直接聞くのが一番」


真っ直ぐ問うてくるフェイに、アレシアはどこか懐かしさを覚えてる。


「君は素直で気持ちの良い女だね」

「ありがとう」

「流石にここでは話せないね、明日私の家に来てくれ、場所はクロードが知ってるから」


「分かった」

「うん、それじゃあね」


そのままアレシアは転移魔術で消えた。


一人になっとフェイは、クロードが冒険者ギルドから出てくるまで、暇で死にそうになった。


「遅い」

「ごめん」


クロードはしっかり怒られて、即座に謝ったのであった。

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