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六十八話 見送りとまた会おう

マリアルードに到着してから二日後、アヤヒメが帰国する日になり、クロードとフェイ、そしてトウカは港へ見送りに来ていた。


「一昨日見た船よりもさらにでかい帆船だな」

「外洋を超えるにはこれほどの巨船が必要なのでござるよ」


「ヤトガミへの海路は危険なのか?」

「安全安心の船旅とは行かぬでござろう」

「心配」


「大丈夫でござるよ、乗組員はもちろん船長も経験豊富、素人の某たちよりよっぽど頼りになる」

「そうだな」


「トウカはどうして故郷を離れたの?」

「気になるのでござるか?」

「ん、言いたくないのなら構わない」


「いいや、構わぬよ。好き好んで話そうとは思わぬがフェイとクロードならばよかろう」


「フェイ、某は故郷を離れた理由は一つ、剣の極みに至り、侍として死ぬためでござる」

「それはまた人外じみた理由だな」

「クロードはそう言うであろうな」


「フェイは初めて剣を握った時のことを覚えているでござるか?」

「ん、あんまり」

「某は覚えておる、失っていた手足を取り戻したような感覚でござった」


トウカは己の腰に差された太刀の柄を撫でる。


「その時某は決めたのでござる、剣に生き死にたいと」

「凄い生き方、私にはできない」

「フェイには人生の指標のようなものはあるか?」


「んー、トウカほどはっきりしたものはないけど、クロードの子供は産みたい」

「ええ!?」


「何故クロードが驚いているのでござるか」

「いや、話の流れ的に子供が出てくるとは思わなかったからよ」


「クロードの子供は欲しい、少なくとも三人」

「多、くはないのか?、獣人の価値観で考えると」

「少ない、私の一族には七人、産んでいる人もいた」


「七人!、獣人は多産な種族ということか」

「そうかも?、只人はそんなに産まないの?」


「七人も産む人はいないことはないのでござろうが、一般的には三人も産めば多いなと思う」

「只人はたくさん子供を産まない、不思議」


「なぁ、フェイ、もしかして獣人は男は女に比べると少ないんじゃないか?」

「言われてみればそうかも」

「獣人の女性が多産なのはそれは理由じゃないか?」


「男を産む為ってこと?」

「ああ、赤子の性別は選べないからな、種族的な特徴として男が生まれにくいなら、沢山子供を産むことで、男が産まれる確率を上げてるじゃないか?」

「なるほど、説得力がある」


「クロード、お主さては名家の御落胤だったりせぬのか?」

「そんなわけないだろ」

「いや、今の推論にはかなりの説得力があった。少なくとも冒険者の言葉には思えなかったぞ」

「その言葉は自分にも刺さるぞ」


「某は一般常識の話をしてる故」

「よく回る口だな」


「俺の話はどうでもいいだろ」

「クロード、帝国にも王族っているの?」


「ええ?、確か皇帝の一族の皇族とそれぞれの地域を治める諸侯王の一族の公族がいたかな」

「クロードは皇族かもしれない」

「冗談にしてはきついぞ」


「そう?」

「そうだよ、それとそういうのは帝国内では言うなよ、普通に不敬罪で捕まるぞ」

「気をつける」


「そうしてくれ」

「クロードは帝国出身なのでござるか?」

「さぁ?、帝国で育ったのは間違いないけど、帝国出身から知らないな」

「知りたいとは思わぬのか?」


「思わないな」


クロードにとって出身地という概念は縁遠いものだ、家族というのもまた同様だ。


「こちらでご歓談しておりましたか」

「アヤヒメ」


源佐と凛月を連れたアヤヒメが、こちらに近づいてきた。


「随分と王国語が上達したな」

「ありがとうございます、クロード様。大鶴様の教えのお陰です」


アヤヒメはトウカを見ながら、感謝の弁を述べる。


「某の屋敷に逗留していた折にも勉強を怠らなかった綾姫の努力故よ、誇るべきでござる」

「はい、刀華様」


「アヤヒメ、帰っても元気でね」

「はい。フェイ様、何度も繰り返しになってしまいますがあの時私を見つけてくれてありがとうございます、この御恩は国に帰ろうとも決して忘れません」

「私も忘れない」


正面から抱き合う二人を四人は温かく見守る。


「クロード殿、お主とフェイ殿と出会えたことはこの苦難の旅における望外の幸運であった。これからの武運を祈っている」

「状況的に仕方のない部分はあるにせよ、お前らはもう少し客観的に考えて行動しろよ、今回は色々かみ合ったお陰で有耶無耶にできたが本来なら平穏に帰国とはいかなかったぞ」


「それについては大いに反省している」

「焦りにより後ろが見えていなかった」


猛省する師弟に、クロードは一定の理解を覚えつつもやはり狂者の国の人間であると思った。


(源佐が殺人を起こさなければ、俺たちと協力する道は薄かった。もしかしたら源佐と凛月と殺し合った未来もあったかもしれないな)


その時にこの場に全員が五体満足であっていたかは分からない。


「クロード、終わりよければすべてよしでござるよ」

「まだ終わってねえよ」


フェイとの抱擁を終えたアヤヒメは恥ずかしそうにしながらも、離れる。


「それではここら辺でお暇させていただきます」

「ああ、また会おうな」

「はい!」


手を振りながら元気に去っていくアヤヒメに、困惑しながらクロードはフェイとトウカと一緒に振り返す。


「なんで急に元気になったんだ?」

「嬉しかったのでござろう、また会おうとクロードの口から言われたことが」

「そんなことで?」


「そんなことではござらん、遠い異国の地での別れとは今生の別れに等しい、もう二度と会えぬかもしれぬ、そう考えていた相手からまた会おうと言われたら嬉しいでござるよ」


実感の籠ったトウカの言葉に、クロードは「そうか」とだけ呟き、フェイの手を握った。


◆◆◆◆


無事に港を出港したアヤヒメたちの乗る商船が、水平線に消えるまで見守った。


「依頼達成だ、帰るか」

「ん」


「クロード、お主は()()()に参加するのでござろう?」

「その話か。俺とフェイもだ、お前もアレシアに声を掛けられた口か?」


「うむ、彼女はシルバーの皆に声を掛けている」

「やっぱりか、どこまで聞いてる?」


「グレイシアとエドモンドは参加すると聞いた、ボリスは知らぬ」

「ボリスは参加するぞ、前会った時に参加を匂わせてた」


「銀を全員集めるのは勇者に対抗するためでござろうか」

「彼奴が勇者を気にするとは思わないな、他に目的がありそうだ」


「直接聞いてみれば?」

「答えてくれるかね、あのアレシアが」


「アレシアは敵じゃない。協力できると思う」

「まあ、彼奴の真意を知る必要はあるよな」


「アレシアの真意でござるか、そもそも某はアレシアのことをよく知らぬ」

「お前はアレシアを警戒しているのか?」


「しているとも、某には臣下を守る義務がある。クロードも同じように警戒しておるのでは?」

「してないと言ったら嘘になるが、過度に警戒はしていない。フェイに怒られたからな」


自慢げに言うクロードに、トウカは眉を顰めフェイを見る。


「フェイ?」

「怒った。トウカも警戒しすぎないで。多分だけどアレシアはリベルタが大切なだけだから」


「いつの間にそこまでアレシアの人となりを知ったのでござるか?」

「ん、色々とあった」


エルフリーデのことは他言しないでくれと言われたので、フェイは誤魔化すしかない。


「頭の片隅にはおこう」

「ありがとう」


フェイとトウカの方を見ていたクロードは、突然立ち止まる。


浮雲商会の建物の前で佇む女性、弓を背負い矢筒を腰に下げ騎士服を着ている目立った格好をしているのにも関わらず、驚くほど衆目を集めていない。


「お前を待っていた、黒髪の冒険者」


女騎士は静かにクロードを見て、目的を告げた。

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