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六十二話 英雄と継承

アレシアが戦いの場に選んだのは、リベルタ郊外の平原で、彼女が張った結界により、外界への影響はない。


「さて、エルフリーデの本気にフェイはついていけるか」

「アレシア、一つ面白いことを教えてやるよ」

「何だい?」


「俺は出会ってからフェイの本気を見たことがない」


「理由は二つ、得物が実力に伴っていなかったこと、それを発揮するに相応しい相手が現れなかったこと」


真紅の君(ルージュ)はアヤヒメが置かれていた状況を考えれば、リスクは犯せなかったので、フェイが本気で戦わせなかった。


「今回は違う、本気のフェイ・バルディア・ルーを目に焼き付けよう」


クロードは言語化できない高揚感で、笑みを浮かべた。


◆◆◆◆


フェイの立つ地面が破壊され、彼女の姿が掻き消える。


「っ!!」


エルフリーデの動体視力ですら追いつかない速度、反射的に剣を振るうが、景色が一瞬で切り替わる。


エルフリーデは手の痺れから、自分が吹き飛ばされたことを悟る。


受け身を取り着地したところへ、フェイの上段斬りが振ってくる。


エルフリーデは、回避を選択し、刃を避けるがそれはフェイクで、水平斬りがエルフリーデの脇腹を強襲する。


「!!」


剣で受けざるおえなかったエルフリーデは肉体の片腕が軋むのを感じるが、何とか踏みとどまる。


「"冷炎斬フロストブレイド"」


冷炎を爆発させたエルフリーデは、弧を描くように冷炎の斬撃を放つ。


後方宙返りで、斬撃を躱したフェイは大剣を逆手に握り、着地しながら土塊を掴み、エルフリーデへ投げる。


ただの土塊でもフェイほどの怪力によって投擲された土塊は即死級の凶器に変貌する。


しかしそこは英雄、土塊の軌道を見切り、斬り捨てる。


そして土塊はただの囮だとを見抜き、身を捻り上へ蹴りを放つ。


上段斬りを振り下ろそうとしたフェイを狙ったもので、フェイの腹を撃ち抜く、ことはなくフェイは手甲で受け止め、蹴りの威力を利用して、下がる。


「地下では本気ではなかったか」

「英霊たちの墓だから、壊さないで欲しいって」


一瞬で距離を詰めてきたエルフリーデの連撃を捌きながら、フェイは答える。


「ありがとう」

「当然のこと」


冷炎を纏う剣とあまり斬り合いたくないフェイは、距離を取ろうとするが、エルフリーデはそれを許さない。


後方を塞ぐようい冷炎が伸びて、壁を作る。


後退を封じられたことを察したフェイは、その場で踏み留まる、その時間はコンマ一秒。


思考を終えたフェイは、大剣で一瞬顔を隠し、短く息を吸う。


「ハァ!!!」

「っ!?」


獣人だけが持つ特殊な声帯から発することができる遠吠え、フェイは必要な空気の量を減らし、ノーモーションで撃てるように工夫した。


小さな遠吠えは、発生速度と威力を鑑みれば牽制と呼ぶには十分過ぎる。


それをエルフリーデは、ほぼ直感で頭を捻って躱すが、連撃に隙間ができる。


それを作り出したフェイは、エルフリーデを上空へ蹴り上げる。


百メートルほど先の空へ打ち上げられたエルフリーデは、物理法則に従い落下する。


空中ではどんな達人も無防備だ、大剣を構えたフェイは目を見開く。


エルフリーデは冷たき炎の化身となる、冷炎を翼のように広げたエルフリーデが、落ちる。


攻撃の範囲を目測、回避は困難、歴戦のフェイの直感はそう判断した。


故に回避ではなく迎え撃つことを選ぶ。


「"冷炎爆発フロストエクスプローション"!」

「"天撃"!」


爆発の衝撃で、土埃が舞い、二人の姿が見えなくなる。


しかしすぐに土埃が晴れ、巨大な冷たき炎柱が現れる。


フェイは冷炎の柱の中で、凍りついていた。


「フェイ!」

「冷炎の爆発範囲を誤認させたのか」


冷静に状況を分析するアレシアは、()()かと一瞬考えたが、柱に罅が入ったことで、その考えを即座に捨てる。


其の罅は一瞬で、炎柱の全体に達し、砕け散る。


「はぁ、はぁ」

「"冷炎斬フロストスラッシュ"」


荒い息を吐くフェイを追撃するように、頭上から冷炎の斬撃が振り下ろされる。


フェイは大剣で、受け止め、エルフリーデで激しく剣を交すも、呼吸の乱れのせいで動きが精彩をかき、脇腹を斬られ、血が飛ぶ。


たまらず下がるフェイの首を、エルフリーデは短剣で狙うが、フェイは大剣の一撃で跳ね上げる。


「"天飛"!」

「"冷炎刃フロストブレイド"!」


至近距離で、二つの飛ぶ斬撃がぶつかり、相殺し合う。


フェイは息を整えようとするが、エルフリーデはそれを許さず、短剣の切っ先に冷炎を溜める。


「"冷炎爆破フロストバイト"!」


フェイの視界が冷炎で満たされ、る前にフェイは短剣を蹴り、爆破の方向を上に逸らす。


エルフリーデは不安定な姿勢のフェイに長剣を振り下ろすが、フェイは逆に蹴り下ろす。


冷炎を纏う長剣とフェイの膝裏の足甲がぶつかる。


足甲に冷炎が広がるも、完全に凍りつく前にフェイはエルフリーデを蹴り飛ばす。


しかしエルフリーデは、後転しながら地面に短剣を突き立て、着地し冷炎を爆発させる。


フェイも息を素早く整え、大剣を振り上げる。


「"天撃"!」

「"冷炎斬フロストスラッシュ"!」


正面からぶつかり合う二人の衝撃で、地面が砕け、土塊が飛び散る。


「「はぁああああああ!!!」」


二人は裂帛の声を上げながら、激しく斬り合い、周囲が瞬く間に破壊されていく。


「いいぞ!、フェイ!、お前の全てを私にぶつけてみせろ!」

「私はお前は倒す、その偉業と生き様に敬意を持って!」


息を吸ったフェイは、遠吠えを放ち周囲の一切合切を吹き飛ばす。


遠吠えによる衝撃波をエルフリーデは冷炎の波涛を撃ち、相殺させて消す。


その中から、フェイとエルフリーデは飛び出す。


「"天伐撃てんばつげき"!!」


漆黒の大剣が黒く輝き、文字通りのフェイの全身全霊が乗せられた一撃、エルフリーデはそれに応える。


「"冷炎剣撃フロストストライク"!!」


極限まで冷炎を薄く纏い、長剣と短剣の切れ味を数十倍まで飛躍させるエルフリーデの奥の手。


漆黒の大剣と冷炎を纏う長剣と短剣の刃が激突する、それはあまりにも静かで、一瞬の出来事だった。



砕けた剣の欠片が地面に散らばり、袈裟に斬られた英雄は両膝をつく。


「見事だ、フェイ・バルディア・ルー、お前の剣は英雄《私》に届いたぞ」


英雄エルフリーデの賛辞にフェイは、大剣を握ったまま頷く。


「ん、貴女は私が戦った人の中で一番強かった。私がまさったのはこれのお陰」


フェイは漆黒の大剣を見ながら言う。


「"不壊デュランダル"の魔剣か、良い剣だ、さぞ高名な鍛冶師の傑作に違いない」

「高名かは知らないけどケネスは良い鍛冶師」


「そうか、勝負を受けた時点で私は負けていたか」

「貴女は正面からの斬り合いに応じると思った、だって英雄エルフリーデだから」


「はは、そうだ、私はそうやってリベルタの民を鼓舞し続けた、どんな窮地でも、どれほどの苦境でも、私は英雄で在り続けた」


肉体が崩壊していく中、最後の力を振り絞るようにエルフリーデは立ち上がる。


「フェイ、頼み、いや、依頼がある」


「何?」

「リベルタを守って欲しい」

「依頼内容が曖昧なのは駄目、明確にして」

「英雄を倒した戦士が細かいことを気にするな、別に気が向いてリベルタが危なそうだったら、戦う。その程度でいい」


「お前のような戦士がリベルタを守ってくれるなら私は安心して逝けるよ」

「ん、また死霊アンデットになったら困る。報酬は?」


「報酬か、アレシア!」


エルフリーデに呼ばれたアレシアはクロードと共に転移してくる。


「何かな?」

冷炎フロストフレアをフェイに渡したい、何か方法はあるか?」


「いきなり呼び出してとんでもないことを宣うんだね、貴女は」

「あれほどの戦士への報酬だ、相応のものを差し出すのが礼儀というものだ、それで出来るのか?」


「…少し考える時間を貰えるかな?」

「構わないが早くしてくれよ、私はもってあと数分の命だ」


「魔法は魂と端的に説明できる霊子情報体に組み込まれたものだ、それを他人に渡すというのならば貴女の魂を加工してフェイに融合させるという形なら、可能かもしれない」


「つまり?」

「方法はある」

「よし、それでこそアレシアだ。フェイ、私の魔法を受け取る気はあるか?」

「ある」


「おい、フェイ、そんな簡単に決めていいのか?」

「ん、貰えるものは貰っておく」


「アレシア、本当に大丈夫なのか?」

「フェイは受け取るだけだから、そこまで大きな問題はないよ、強いて言うならエルフリーデの魂に耐えられるかと言うことになるけど、フェイなら大丈夫だ」


「お前のことを信じるぞ」


クロードはそれだけ言い、腕を組む。


「よし、残された時間は少ない。さっさと終わらせよう」


長杖を抜いたアレシアが地面を叩くと、円形の複雑な魔術陣がフェイとアレシアの足元に展開される。


「これで本当に最後か、ありがとう、エルフリーデ、皆が愛するリベルタを守ってくれて」

「アレシア、たまには息抜きしろよ?、お前は抱え込み過ぎるからな」


「忠告ありがとう、"魂魄変成ソウルビルド"」


「さよならだ、フェイ、そしてクロード、お前たちと戦えて光栄だった。エルノーラ、ずっと愛してるよ」


光の泡と化したエルフリーデは完全に消え、一本の青き剣が現れる。


「"フェイ・バルディア・ルー、汝はリベルタ最高の英雄の魂を受け継ぐ気があるか?、その意思あらば剣を取れ"」

「ん、ある」


フェイはエルフリーデの結晶たる青き剣を掴む。


その瞬間、剣はフェイの手に吸い込まれ、フェイの魂に冷たき炎が宿る。


「感じる、ある、炎がここに」


フェイは胸に手を置いて、実感するように呟く。


その手には冷たき炎が燃え盛っていた。

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