五十八話 山車パレードと演劇
アレシアの訪問のせいで、少々狂ったがクロードとフェイの二人は、予定通り建国祭を満喫するべく、街へ出た。
リベルタ建国祭、全七日間に渡って侯爵家主催で行なわれる年に一度の祭りであり、リベルタに住む全ての人間が参加する。
街中には侯爵家の家紋が刻まれた旗が揺らめき、人々は日夜を問わず、祭りを楽しむ。
大きな目玉は祭りの期間に限り解放される貴族区の中央広場で開かれる祭市だ。
侯爵家の名のもとに公正な公開抽選で選ばれた商人たちが、店を開き、品物を販売する。
中には貴族御用達の品を扱う商人もおり、普段貴族区に入れない平民たちが、物見遊山で訪れ、毎年大きな賑わいを見せる。
そしてもう一つの目玉が、リベルタの職人たちが作る山車のパレード
リベルタ中の職人が参加し、制作される大小様々な山車は王家に認められるほど壮観だ。
山車の題材も工房や職人ごとに異なり、動物や植物と言った一般的なものから、英雄や偉人、はたまた物語を題材にしているところもある。
「これは凄く大きい剣、持ち上げられるの?」
「中身が空洞だから、見た目ほどは重くないんだよ」
クロードとフェイは東広場で多くの山車がゆっくりと動くのを見物していた。
「あの馬、本物みたい」
「躍動感があって今にも動き出しそうだな」
リベルタ中の職人が参加しているだけあって、ぼーっと眺めているだけでも楽しい。
「あの長剣と短剣を持ってる騎士の像、凄く立派」
「ああ、リベルタの英雄の誰かだろうな」
「エルフリーデ様よ」
「ん?、ボリスか、奇遇だな」
「ええ、そうね」
掛けられた声に振り向くと、治癒師兼冒険者、女装した巨漢ボリスが立っていた。
「ん、こんにちわ、さっきエルフリーデって言ってたけど?」
「こんにちわ、フェイちゃん。フェイちゃんは知らなくても無理ないわ、エルフリーデ様はリベルタでは特に有名な英雄ね」
何故お前は知らないのかという無言の視線が突き刺さるが、クロードは無視する。
「歴史や文化に興味がない誰かさんのことは置いておくとして、フェイちゃんはエルフリーデ様のお話に興味があるの?」
「ん、最近名前を聞いたから、興味がある」
「それなら北広場の仮設劇場で、エルフリーデ戦勇記が上演されているから見に行ってみれば?」
「エルフリーデ戦勇記?」
「エルフリーデ様の活躍をまとめた演劇よ、エルフリーデ様の伝説を知りたいなら見てみることを勧めるわ」
「クロード、付き合って欲しい」
「別に構わないぞ」
アレシアの依頼を聞いた矢先にとは思うが、それだけエルフリーデという英雄が有名だと言うことだろう。
「ありがとう、ボリス」
「ええ、祭りを楽しんでちょうだい、また近いうちに会いましょう」
手のひらを振ってボリスは山車の観覧に戻った。
「近いうちに会いましょうって?」
「残骸遺跡のことだな、この分だとリベルタの銀全員に声が掛かってるな」
「全員に声が掛かるって珍しいの?」
「銀全員がリベルタに揃ってることが珍しいんだ、長期依頼を受けてリベルタから出払ってることも多いから」
ただそんな銀たちでも建国祭の時期はリベルタに戻ってくる、アレシアは良いタイミングを選んだと思うが。
「見ての通りアレシアは真意の読めない奴だからな、今回の依頼はイレギュラーとして、第二次残骸遺跡攻略作戦では報復以外の思惑がありそうなんだよな」
「アレシアは敵?」
「その可能性は低いな、アレシアが俺たちに喧嘩を売る利点はない」
「それなら気にする必要はない、アレシアが何を考えているにしろ、私たちと敵対しないなら放っておく」
「一理あるな」
「考えすぎるのは良くない、警戒するのはもちろん大事だけど、依頼を達成するのが良い冒険者って言ったのはクロード」
「確かにな、俺は俺の仕事をするだけか」
アレシアに冒険者たちを率いろと言われたせいで、思考が沼にハマっていたようだ。
「ありがとう、フェイ」
「ん、クロードの力になったのなら良かった」
その後北広場に到着した二人は、すぐに仮説劇場を見つけることができた。
運が良い事にちょうど劇が始まるところだった。
二人は長椅子に隣合って座る。
「時は動乱の時代、対立する王国と帝国の間にリベルタはあった」
ステージ上に現れた男が、饒舌に物語の始まりを語る。
「ある時王国軍がリベルタを手に入れるべく、軍隊を差し向けた」
全身鎧を着て長槍を持った兵士役の役者たちが、槍を構えてリベルタと思われる都市の模型に迫る。
「その軍隊を率いるのは常勝将軍と謳われたメリザンド!」
壮麗な鎧の衣装を来た女優が大きな王国旗を振るう。
「彼女が率いた軍隊はまるで流水のように滑らかに動き敵を濁流に呑み込む、メリザンドの力によりリベルタは窮地へ追い込まれる、人々は絶望に打ちひしがれた。その時!」
盛大な音楽と共に、都市の模型の影から、長期と短剣を持った女優が飛び出し、華麗に舞い、兵士役の役者たちを打ち倒す。
観客からも歓声が上がる。
「一人の英雄が現れる、その名はエルフリーデ!、彼女の氷は兵士を凍てつかせ、炎は軍勢を退けた!」
氷を模した青白い紙吹雪が降り注ぎ、炎を模した赤色の紙吹雪が、波のようにメリザンド役の女優を包むが、ステップを踏んで紙吹雪の中を抜ける。
「メリザンド!、私という剣がある限りリベルタは何人も侵せぬと知れ!」
「見事だ、リベルタの英雄よ、ここは退くとしよう」
「エルフリーデの氷炎に恐れをなしたメリザンドは兵士を連れ、逃げ去った!」
司会が囃し立てると、エルフリーデ役の女優が勝利を宣言するように剣を掲げる。
「我が名はエルフリーデ!、リベルタに栄光をもたらす英雄だ!」
観客は一斉に拍手を送り、クロードも周りに習って拍手を送る。
一度幕がおり、場面が切り替わる。
その後も司会の説明と女優が演じるエルフリーデの台詞と共に、活躍が上演される。
帝国の皇帝の懐刀である騎士王アーサーと一騎打ちを繰り広げたり、王国の勇者と友誼を結び、共に魔獣王ヘルシャイムを打ち倒したりと、輝かしい伝説が語られていく。
「リベルタの英雄エルフリーデに敵なし!、そう誰もが思った」
司会のトーンが落ち、幕が上がるとリベルタの模型にいくつもの炎の装飾がついていた。
「リベルタに暗雲が訪れる、双蛇竜の軍勢が空を黒く埋めつくし、リベルタを燃やし尽くす」
「立ち上がるエルフリーデとその仲間たちだが、竜王は強く、仲間を次々と倒れていく」
傷ついたメイクをした役者たちが、リベルタの模型の前で、倒れ伏す。
これがアレシアが言っていた南地区が壊滅した魔獣侵攻のことだろう。
「済まない、皆、私はリベルタを愛している、竜王よ!、貴様にリベルタは渡さん!」
「覚悟を決めたエルフリーデは単身で双蛇竜に挑む!」
漆黒の竜の模型が裏に人でもいるのか、爪や尻尾が動き、エルフリーデ役の女優と戦いを演じる。
数秒ほどの攻防を経て、エルフリーデは竜の心臓を貫き、竜の爪がエルフリーデを貫いた。
双蛇竜と英雄は相打ちとなり、倒れたエルフリーデに仲間が駆け寄り、英雄の勇姿を称える。
「エルフリーデ、英雄の中の英雄である彼女を我々は永遠に語り継ごう」
幕が一度降り、再び幕が上がると役者たちが現れ、観客への感謝を言い終えると、演劇は終わった。
「フェイ、どうだった?」
「エルフリーデは凄い英雄、リベルタの皆が好きな理由が分かった」
「そうみたいだな、そのエルフリーデが死霊になってるとは」
死霊になるということは、死ぬ直前に尋常ではない想念を抱いていたことになる。
そしてその想念が強ければ強いほど、死霊は強いとされる。
「この演劇の半分でも本当のことだったら、エルフリーデは強敵だな」
「眠らせる、英雄の死後は安らかであるべきだから」
「ああ、受けた依頼は達成する、それが冒険者だ」
「ん」
頷いたフェイとクロードは、仮設劇場から立ち去った。




