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五十話 総団長と冒険者

東地区第三駐屯地、騎士団第三部隊の拠点であるこの建物の隊長室でノルドは難しい顔をしていた。


そんな時、隊長室の扉がノックされる。


「どうぞ」

「失礼します、衛兵隊との交渉が終わりました」

「報告ありがとう」


「隊長、なんでそんな変な顔をしているんですか?」

「いいや、総団長様がいつも通りの総団長様というだけだよ」

「まさか支援の要請を断られたのですか?」


「その程度だったらよかったんだけどね」

「何を言われたのですか?」

「怒らないと約束できるかい?」

「どんな無茶苦茶なことを言われたんですか、約束しますよ」


副隊長はノルドから一枚の羊皮紙を受け取り、その内容を読む。


「な、なな、なんですか、これ?」

「私が出した支援要請に対する総団長様の返答だよ」


「に、偽物ですよね?」

「残念ながら本物だよ」

「馬鹿な!、殺人事件は解決したって書いてありますけど!?」


ヴァネッサ総団長様の返答はこうである。


『殺人事件は解決するので、支援要請は不要、巡回を増員させる必要もなし。全ての第三部隊の隊員を待機状態にせよ、追って次なる命を下す』


「隊長、殺人事件は解決したと報告したのですか?」

「そんなわけないだろう、昨日の時点で分かったことを報告しただけだよ」

「それでは何故!?」


「総団長様の中で解決させるための布石を打ったということだろうね」

「えぇ?、昨日の今日でですか?」

「それしかありえない」


「しかし昨夜救出作戦を指揮していた総団長様にそんなことができるとはとても…」

「できるよ、総団長様は怪物だからね」

「怪物…」

「問題はこういう説明をすっとばした命令を総団長様がしてくる時は大抵忙しくなる」


「総団長様がそれほど凄い人だとは知りませんでした」

「仕方ない、総団長様自身がそう思われるように印象操作をしているからね」

「?」

「総団長様の本当の実力を敵に知られたら戦いにくくなる、それでも勝つだろうけど敵がこちらの力を過小評価して油断してくれるならこちらの被害を減らせる、あの人は勝ち方にこだわる人だ、そのためには謀略も情報操作もお手の物だよ」

「味方にもですか?」

()()()()()だよ」


「おっしゃっている意味が分からないのですが?」

「そのままの意味だよ、怪物の総団長様が率いる騎士団ほど恐ろしいものはない。あの人は自分の力から味方も守っているんだよ」

「ーーー」


副隊長は開いた口が塞がらなかった。


「不思議に思わなかったかい?、精鋭無比を誇る我らの総団長様に大層な異名がないことを」

「それは確かに…」


王立騎士団、北方のスクルド騎士団、王国で精鋭揃いの騎士団と言えばリベルタ騎士団と共に名が挙がる騎士団だが、かの騎士団の団長たちは王国では知らぬ者がいないほど有名だし、麾下の騎士も異名で呼ばれる者も少なくない。


「総団長様の深謀遠慮は私たちには理解できない、私は隊長としてあの人の手足として動くだけだよ。それじゃあ副隊長、部隊各員を駐屯地に集合させてくれるかな」

「はっ!」

「疑問はあるだろうけど、リベルタを守るという一点において総団長様ほど頼もしい人はいない、それだけは分かって欲しいな」

「分かっています、納得は難しいですけど隊長の命令には従います」

「ありがとう」

「感謝されるようなことではありません、私は隊長の部下ですから」


頭を下げた副隊長と入れ違いで、騎士が入室してくる。


「報告します、殺人事件に関して知っていることがあると二人の冒険者が面会を求めています」

「来たか」

「はい?」

「いや、何でもない。応接室に通してくれ、後から行く」

「はっ!」


◆◆◆◆


ノルドが応接室に入ると、クロードとフェイが立って待っていた。


「ノルド隊長、こうして面と向かって話すのは初めてですね」

「そうだな、クロード・イグノート、《弓剣アルソード》と呼んだ方がいいかな?」

「どっちでもいいですよ、それと敬語は苦手なので止めていいですか?」


「か、構わないが自分から言うのか」

「あんたから言おうが俺から言おうが結果は同じなんだからどっちでもいいだろ」

「ーー」


クロードの暴言じみた言葉にノルドは頬を引き攣らせるが、特に何も言わずソファーに座る。


「座らないのか?」


ノルドは自分が座ったのにも関わらず、立ったままの二人を疑問に思う。


「武装を解くのが面倒だからこのままでいい、なぁ、フェイ?」

「ん」

「そうか、君たちがそういうならいいんだ」


「ヴァネッサから聞いたか?」

「は、は?」


総団長様を呼び捨てにしたこと、その言葉の内容が理解できないことのダブルパンチでノルドは一瞬混乱する。


「ヴァネッサから知らせは届いたかと聞いている」

「部外者に話せることではない」


「届いたんだな、それじゃあ俺たちが来た理由も分かるな」


なんでこいつは上から目線なのだろうか、不思議なのはそこに見下す意図はなく、純粋に分かっていると思って言っているのだ。


クロード・イグノート、噂通り、いや噂以上の生粋の冒険者だ。


「コホン、殺人事件の犯人を知っているのか?」

「いいや、ただ犯人を見つけだす方法は知ってる」

「なに?」


自然とノルドの目線が鋭くなる。


「私たちが知らない情報を持っているな?」

「ああ、あんたは事件の裏にあるごたごたをついさっき知ったばかりだろ、差があるのは当たり前だ」


殺人事件は遠い異国から誘拐された貴族の子女を救出しに来た部隊が起こしたものであると、別の文書にて総団長から教えてもらった。


ノルドはクロードがさらっとこちらの事情を言い当てたことに驚きながらも、ヴァネッサがクロードたちに殺人事件の解決を任せるつもりだということを改めて理解する。


「ヴァネッサの思惑に乗ってやる代わりに”ウーゴス”を潰して欲しいんだ」

「それがここへ来た目的か」

「その通り、殺人事件を解決するには奴らが邪魔なんだ。やってくれ」

「騎士団にとってリスクが高い」


「そんなことはない、騎士団ならば楽勝だ。証拠はオプラの執務室の鍵付きの引き出しに入ってる」

「何故それを?」

「ーー」


クロードは肩を竦めるに留める、それを見たノルドは追及することを止める。


「殺人事件はどう決着をつけるつもりだ?」

「犯人の領外逃亡、犯人は”ウーゴス”の戦闘員で仲間を裏切り事件を起こしてすぐに逃げたことにする、それなら騎士団の面子は潰れないだろ」

「分かった、真犯人の件が片付いたらすぐに報告しろ」

「それはもちろん、明日には報告できると思うぞ」


「そんなに早いのか」

「ああ、九割九分の確率でな、”ウーゴス”は明日逮捕してくれ」

「明日?、何故日時を指定する?」

「なるべく敵を自由にさせたくないからだよ」


言いたいことは言ったとばかりにクロードはフェイを伴って、応接室から出ていった。


「はぁ、総団長様も冒険者も振り回してくれるよ」


溜息を吐いたノルドはしばしば天井を見上げた。



「クロード、用事は終わった?」

「ああ、これで”ウーゴス”の件は片付いた、予定より簡単に終わったことに関してはヴァネッサに感謝しないとな、別の仕事を押し付けられたが」

「どう解決するの?、最善手は使えないって言ってたけど」


「次善策は正面から交渉することだ、アヤヒメはこちらの手中にあるし、道理と奴らの置かれた状況を説く、交渉が破談したらフェイの力を借りるしかない」

「それは問題ないけど、肝心の救出部隊の人にはどうやって会う?」


「フェイは駐屯地を監視している人間に気づいたか?」

「ん、遠目に観察してた」

「騎士団の駐屯地を監視する勢力は現状では一つしかない」

「救出部隊」


「そう、一人しかいないことを鑑みるに救出部隊はかなりの少数だな。多くて四人、少なくて二人ってところか」

「単騎の可能性は?」

「ないな、大貴族が娘を助けるためにたった一人を送るということはあり得ない、埒外に優秀ならば単騎もあり得るがそれなら殺人事件など起こさないよ」


クロードの言葉はとても説得力があり、フェイは感嘆と共に頷く。


「犯人もその居場所も分かっている事件だ、さっさと解決しよう」

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