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四十九話 帰宅と会話

フェイの長い夜は終わった、夜明けが近い時間にフェイは家に帰ってきた。


アヤヒメとオオツルは寝ているだろうが、クロードはどうだろうか。


起きていたら嬉しい、そんな思いを胸にフェイが扉を開けると、蝋燭の明かりに照らされるクロードが座っていた。


「ただいま」

「おかえり」


出迎えられたフェイは装備を脱ぎ、一目散にクロードに抱きつく。


「ちょっと疲れた」

「そうだろうな、お湯を用意したからこれで身体を拭いて、今日は寝よう」

「ん」


クロードの好意に甘えて、フェイはお湯に手拭いを浸して、絞り身体を拭く。


既にフェイは全裸であり、クロードは気にしない。


「寝てると思ってた」

「寝てたけどついさっき目が覚めたんだ」

「お湯、ありがとう」

「ああ、頑張ったフェイへのささやかなお礼だ」


「南地区で…」

「いや、後でいいよ」


報告しようとしたフェイの言葉をクロードは遮る。


「いいの?」

「ああ、別に喫緊で聞きたいことはないからな。フェイが身体を休めることが先決だ」

「クロード、好き」

「俺も好きだ」


身体を拭いたフェイが全裸のまま抱きついてくる。


「この感触をずっと楽しみたいが休める時に休もう」

「ん、楽しみは後に取っておく」


クロードから離れたフェイは寝室に移動し、着替えを取り、それを着る。


戻るとクロードがフェイが脱いだ衣服と下着を洗濯カゴに入れていた。


「寝るか」

「ん、一緒」

「喜んで」


ベッドはアヤヒメとオオツルが使っているので、蝋燭の火を消し、二人はリビングで寝袋を広げる。


「家主なのにベッドで寝れないとはままならないな」

「ん、ごめん」

「フェイを非難したわけじゃない、ただの愚痴だ、特に意味はないから」

「知ってる」

「はぁ、俺をからかってる余力があるならさっさと寝ろ、明日、いや、もう今日だが、忙しくなるぞ」

「ん、おやすみ」

「おやすみ」


二人は軽い口付けを交わし、眠りについた。


◆◆◆◆


フェイが目を覚ますと、隣にクロードはいなかった。


「フェイ殿、おはよう」

『ふぇい様、おはようございます』


その代わり椅子に座るオオツルとアヤヒメがいた。


「ん、おはよう。クロードは?」

「奴なら外で洗濯物を干している」


何故不満げに言うのかは分からないが、フェイは寝袋を畳む。


「二人は何してるの?」

「綾姫様に王国語の読み書きを教えていた」

『どうでしょうか、ふぇい様』


アヤヒメが見せてくれた羊皮紙には、王国文字でフェイの名前が書かれている。


フェイは文字を読むのが得意ではないが、自分の名前なのですぐに分かった。


「私の名前、ありがとう、アヤヒメ」

『うふふ、早くふぇい様と話したいです』


フェイに頭を撫でられたアヤヒメは嬉しそうに笑う。


「ん、頑張って」

「フェイ殿、綾姫の言葉が…」

「分からない。でも頑張ってるのは分かった」


それだけ言ってフェイは外へ出る。


小さな裏庭に出て、井戸から水を組み顔を洗う。


「ふぅ」


眠気を飛ばし、空を見る、太陽の傾きからして九の鐘が鳴り終えた頃だろう。


「おはよう、フェイ」

「クロード、おはよう」


洗濯カゴを抱えたクロードが川から戻ってきた。


「よいしょっと。眠れたか?」

「ん、元気一杯」

「それは良かった、洗濯物を干すのを手伝ってくれ」

「まだ眠いかも」

「気のせいだ」


クロードはフェイの戯言を流して、物干し竿に向かう。


フェイは唇を尖らせながらも、クロードを手伝う。


「頼んでおいてなんだが、随分と戦ったんだな」

「本来の目的を逸して大事おおごとに巻き込まれた」


フェイは騎士団の"タランチュラ"に潜入した騎士とその情報提供者の撤退戦と、それに巻き込まれたことによるいくつかの戦いを説明した。


「不運だったな」

「そんなことはない、面白い人間に会えたしクロードが欲しがってた情報も手に入れたよ、次いでに騎士団の協力も」

「ほぉ、それは凄い。面倒事に巻き込まれた甲斐があったことだな」

「ん、情報は多くない。"真紅の君(ルージュ)"は屋敷を一撃で真っ二つにできる魔法を使えることぐらい」


「尚更正面から戦う理由が減ったな」

「クロードはやっぱり狙撃スナイプで倒すつもり?」

「そうだ、よく分かったな」

「クロードと一緒に何度も戦った、強みは分かってる」


「それなら騎士団から借りたのは広い演習場か?」

「ヴァネッサが東地区の演習場を貸してくれた」


フェイは地図をクロードに渡す。


「ここか、罠に嵌めるにはちょうどいいな。問題はどう狙撃するかだ、こればっかりは実際に演習場へ行ってみないと分からないな」

「ん」


クロードが言っていることは正しいのだが、一つ問題がある、クロードは"ウーゴス"に追われているのだ。


「東地区と言えば帰り際にヴァネッサが変なことを聞いてきた」

「変なこと?」

「昨日の昼間、街中で"ウーゴス"の戦闘員を殺したかって」


瞬間、洗濯物を干していたクロードの手を止まる。


「クロード?」

「フェイ、アヤヒメがヤトガミって国の大貴族の人間だってことは覚えているよな?」

「ん」

「それを踏まえて、自分の子供が攫われた大貴族の当主はどうする?」


クロードの質問に、フェイは頭を悩ます。


「んー、取り戻す為に人を派遣する?、けどここは遠い異国、無理じゃない?」


「普通は無理だ、そこで大貴族という部分が大事になる。スティレ王国では大貴族と呼ばれる五人の貴族家は王家に次ぐ力を持つという、それは経済力や領地の広さもあるが、人材の厚さも理由の一つだ」

「人材…」


「カミシロ家がアヤヒメを取り戻す為に王国語を話せる人間を救出部隊として送り込んでいる可能性が高いということだ」

「そんなこと…」

「ないとは言い切れない、現にヴァネッサはそう考えてる」


「そうなの?」

「ああ、だからフェイを通して俺に"ウーゴス"の戦闘員が殺せたなんて情報を伝えてきたんだ。殺したのは救出部隊の人間だろうな。目的は情報を手に入れるためってところだろう」


「あいつは俺たちに救出部隊の件を片付けさせるつもりなんだよ」


「片付けるって?」

「最良の選択肢はアヤヒメを引き渡すことだが、"真紅の君(ルージュ)"に目をつけられたら面倒だ。この手は使えない。理想は救出部隊の連中に連絡を取ってこっちの事情を伝えることだが…」


「"ウーゴス"に追われている状況で無闇に街を歩けない、探すのも現実的じゃない。どうするの?」

「俺としては無視したいが、このままだと救出部隊の連中は騎士団と戦うことになる、それをアヤヒメは望まないだろう」


騎士団は街の治安を乱すものを許さない、とはいえ東地区を守る第三部隊のノルド隊長は話の分かる男だ。


「元々今日は"ウーゴス"を潰すために駐屯地に行く予定だった。ついでに救出部隊の件も片付けよう」

「できるの?」

「できる、救出部隊の人数は不明だが優秀な人間が揃ってるはずだ。優秀な人間の思考は読みやすい、特に選択肢が少ないこの状況ではな」


フェイはたまにクロードの頭を覗いてみたくなる。


そもそもの話がリベルタの騎士団を纏める総団長であるヴァネッサと同じ目線で考えられているというのが異常なのだ。


優秀な冒険者の括りを逸脱しているとしか思えない思考速度と発想力、経験則、フェイは感服する他ない。


「クロードは凄い、私はそんな風に考えられない」


「そんなことはない。一番大事なのは獲物の気持ちになることだ、俺は獲物を射抜くために戦うが獲物だって黙ってやられてくれるわけじゃない。獲物との生死を賭けた殺し合いだ」


「俺からすれば野兎と"真紅の君(ルージュ)"、そのどちらも本質は同じだ。こちらが考えるのはどう射抜くのか、それだけだ」


洗濯物を干し終わったクロードは、洗濯カゴを手に持つ。


「俺からすればフェイの方が凄いぞ。いったい昨日は何連戦したんだ?」

「大きく分けたら三連戦?」

「驚きだな、そんなに戦ったのに数時間眠っただけでもうピンピンしてる」


「敵は強くなかった」

「敵さんが泣いちまうぞ」

「泣けばいい」


「それはともかく相手が雑魚でも戦えば人は疲れる、それを三連戦、一日中寝たってフェイを誰も責めないと思うぞ」

「そうなんだ、故郷では三日間寝ずに戦ったこともあるから、私は人一倍体力がある?」


「獣人の平均値を知らないから確証はないけど、恐らくそうなんだろうな」

「いいこと」

「そうだな、頼りにしてるよ」

「ふふ、任せて」


「さっきも言ったけど騎士団の駐屯地に行こう」

「二人で?」

「ああ、なるべく早く片付けたいからな。アヤヒメはトウカに任せる」

「彼女なら信頼できる」

「同感だ」


二人は準備のために、家の中に戻った。

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