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四十二話 情報共有と付け入る隙

自分を追う人間が増えたことを露ほども知らないクロードは、約束通りの時間に家へと帰ってきた。


「ただいま」

「おかえり」


帰還したクロードをフェイが出迎える。


「つけられていないだろうな?」

「そんなヘマしねぇよ」


クロードはオオツルへ悪態を返しながら弓と矢筒を背もたれにかけ、椅子に座る。


「オプラとは会えた?」

「会えた、想像よりも良い収穫だったよ」

「分かった?」

「ああ、アヤヒメを狙ってるのは"真紅の君(ルージュ)"と呼ばれる吸血鬼ヴァンパイアだ」


吸血鬼ヴァンパイア


フェイは無表情で頷き、オオツルは驚きに目を見開く、アヤヒメは言葉が分からずオオツルに翻訳を求める。


「強い?」

「ああ」

「《黒刃鷹ゼーレ》より?」

「《黒刃鷹ゼーレ》より」


フェイが口角を上げる、それは無意識にでてしまったものだ。


「笑ってるぞ?」

「ん?、無意識、魔女の時は中途半端だった、敵の吸血鬼なら遠慮はいらない」


戦場は慎重に選ぶ必要があるとクロードは思った。


「いつ倒しに行く?」

「三日後だ」

「分かった、敵の居場所は?」

「分からない、だがその代わりに使えそうなアイテムを手に入れた」


クロードはオプラの執務室から盗んだ鮮血結晶のことを説明する。


「吸血鬼を呼び出せる?」

「おそらくな」

「確実じゃない、大丈夫?」

「使えなかったら使えなかったで次善策を用意するまでだ」

「アヤヒメを囮にするのは危険だと思う」

「吸血鬼に狙われ続ける方が危険だ」


クロードの言うことは正論だが、危険であることに変わりはない。


「あくまで次善策、アヤヒメを囮するのは最後の手段だ」

「私は反対」

「それは考慮するが、俺がさっき言ったことも忘れないでくれ」

「忘れてない、それでも囮は危険、吸血鬼はアヤヒメを守りながら殺せる相手?」


今度はフェイの方が正論だった、クロードは腕を組む。


「折れて、クロード」

「強情だな」

「そういう所も好きでしょ?」

「確かに好きだがそれとこれは別だ」


「むぅ」

「聞いてくれ、俺に策がある。吸血鬼は手強い相手だが、長く生きる歴戦の吸血鬼なら付け入る隙はある」

「付け入る隙?」

「ああ、長くなるからまた後で話そう、まずは昼飯が先だ」


「ん、分かった」


◆◆◆◆


昼食を食べる小休止を挟んで、クロードとフェイは寝室で向かい合っていた。


決してやましいことをするわけではない、今から話す会話の内容をオオツルに聞かれたくないだけだ。


「フェイ、アレシアのことは覚えるか?」

「地下で会った冒険者、覚えてる」


「あいつに鮮血結晶を預けたんだが交換条件にある作戦への参加を要求された」

「ある作戦?」

「残骸遺跡の攻略作戦だ」


「残骸遺跡?」

「説明する」


「冒険者の仕事は覚えてるよな?」

「魔獣の討伐」

「その通りだが他にもある、それが遺跡探索だ」


「遺跡探索」

「そう、古代の遺跡に入りお宝を持ち帰る、簡単に言うとそんな感じだ」

「魔獣と戦わない?」

「そんなことはないが、魔獣以外の敵の方が多い。遺跡の防衛設備らしい」


「防衛設備?」

「魔獣じゃなくて鉄の化け物に襲われる、俺たちは不法侵入してる身だから襲われるのは当然なんだけどな」

「なるほど」


「残骸遺跡はリベルタの冒険者が総力を挙げて攻略できなかった遺跡だ」

「それは…」


フェイの目からも見てもリベルタの冒険者は強者揃いだ、そんな彼らが協力しても攻略できなかった残骸遺跡がどれほどのものなのか、フェイには想像できなかった。


「二年前俺も彼奴らも今より弱かったとはいえ、当時銀シルバーだった爺さんたちが参加して、アレシアもいた、それでも攻略できなかった」

「先達?」


「俺とトウカ以外はそうだ、グレイシア、ボリス、エドモンドの師匠たちだ、爺さんたちは残骸遺跡の敗戦がきっかけで引退しちまった」


リベルタ全ての冒険者の敗北、そう言われるのは何も多くの冒険者が死に攻略が失敗しただけが理由ではない。


攻略作戦に参加し、生き残った冒険者も怪我や衰えを理由に一線を退いた。


これに心を砕かれた冒険者も多かった。


「ギルド上層部で第二回をやろうって話が出てるんだと」

「クロード、すごく嫌そう」

「勘違いしないでくれ、残骸遺跡にリベンジしたい気持ちはある、問題は勇者(ゴミ)だ」


フェイもクロードの言動に慣れたので、自動的に脳内変換される。


「俺は勇者が嫌いだ、攻略作戦の時はヘマしたくせにそれを冒険者のせいだとほざきやがった、だから半殺しにした」

「ボコボコ?」

「ボコのボコだ、おかけで勇者に媚びへつらう奴らには嫌われるし王都には近づけない、本当に迷惑だ」


スティレ王国を代表する人間である勇者を半殺しにした張本人が言う台詞ではないが、それを指摘する者はいない。


「何故殺さなかった?」

「殺さない方が苦しむと思ったからな、今思えば殺した方が良かったかもな」

「具体的に何をした?」


そこまでクロードが言うのならばフェイとしても勇者が何をやらかしたのか、気になる。


シルバーの冒険者が門番を攻略中に、敗走した勇者ゴミカスはよりによって後詰めだった俺たちへ鉄獣ビートの大群を押し付けやがった、オマケにそれに呼応した機構鉄蛇マシンナーガに乱入されて、門番を倒しかけていたシルバーの爺共が引く羽目になった、さらに撤退中に勇者クソカスが逃げた原因の鉄馬騎士ケルスナイトに追撃された」


フェイには勇者がやらかしたせいで、敗走したことが理解できた。


「鉄の化け物の脅威がどれほどなのかは分からないけど、クロードは褒められるべきだと思う」

「ん?、今の話の何処に俺が褒められる要素があったんだ?」


「ある、勇者は自分の役目を果たせなかった、クロードは果たした、だから褒められるべき」

「俺、説明したか?」

「説明しなくても分かる、クロードの役目は退路の死守、お陰で撤退できた」

「それは俺だけの役目じゃなかった」


「それにクロードなら戦線が壊滅しないように指揮をして、先達たちに撤退の報を伝えたはず、後方が揺らいだら前方で戦う人間は孤立するから」


もしあの時後方が壊滅したら、門番とやら戦っている先達たちが挟撃に合う、クロードの功績にフェイは説明されなくても気づいていた。


「クロードは偉い」

「フェイに褒められるとは俺も捨てたもんじゃないな」

「寝てもいいよ?」


フェイは自分の太ももを指差す。


「お言葉に甘えて」


特に断る理由もないので、クロードはフェイの膝枕を堪能する。


「第二次攻略作戦にはフェイも参加して欲しい」

「当然戦う」

「フェイが一緒なら負ける気がしない」

「嬉しい、いつ?」


「もうしばらく先だろう、最短でも二ヶ月後だ。まぁ、俺達にはその前に片付けないといけないことがあるけど」

「さっき言ってた歴戦の吸血鬼の付け入る隙って?」


「おっ、上手く話が繋がったな」

「クロード」

「悪い、フェイには師匠っていたか?」

「三人いた、剣の先生ガルト、体術の先生ガルト、座学の先生ガルトの三人」

「剣、体術でもいいが、そのガルトは強かったよな?」


「私の方が強い」

「剣や体術を習い始めた頃の話だ」

「その時は確かに強かった」

「何故だと思う?」

「積んだ戦闘経験の数が違うから」


「その通り、だから長生きしてる奴は強い。くぐり抜けてきた修羅場の数が違うからな。でも吸血鬼は違う」

「どういうこと?」

「吸血鬼は繁殖能力を持たない種族なのは知ってるか?」

「知ってる、吸血された人間が吸血鬼になる」

「吸血鬼にするか否かは選べるし、正確には上位の吸血鬼しか吸血した人間を吸血鬼にはできないが今はどうでもいいな。俺が言いたいのは強い吸血鬼ほど戦闘経験を積んでいないってことだ」


「奴らは生まれながら強い、それだと戦闘経験を積むことができない。格上と戦う経験が得られないからだ。おまけに繁殖せず一個体が長生きするから吸血鬼には確立された戦闘技術が存在しない」


真祖ヴァーミリオンは千年生きると聞く、その眷属である"真紅の君(ルージュ)"もそれに近しい年月を生きているはずだ、もし千年間武に身を捧げたというのならば、クロードたちに万に一つの勝ち目もないが、吸血鬼はそういう種族ではない。


「つまり?」

「ただ強いだけだ」

「それなら戦いようがある」

「フェイもそう思うか」

「ん、クロードは吸血鬼に詳しい」


師匠ろくでなしに仕込まれた、理由は忘れたが吸血鬼によく襲われたらしい、それで知識を手に入れたそうだ」

「運がない」

「それでも生き残るから化け物なんだよ」


クロードは師匠のことをろくでなしと罵倒するが、当然のように実力は認めている。


「ただ"真紅の君(ルージュ)"の実力を知らないのは大きな不安要素だ、フェイに探りを頼みたい」

「具体的に?」

「"真紅の君(ルージュ)"は南地区に潜んでいるはずだ、俺たちには闇組織の友人がいるよな?」


「”フォルティア”」

「あいつらから情報を集めてきてくれ、"真紅の君(ルージュ)"の情報ならなんでもいい、"真紅の君(ルージュ)"でひっかからなかったら吸血鬼で当たってみてくれ」

「ん、分かった。クロードは?」


「俺は動けない、情報と引き換えに”ウーゴス”に追われてる、吸血鬼を片付けるまで家から出られない」

「不便?」

「大丈夫だ、短い休暇と思えばいい、"真紅の君(ルージュ)"の討伐策を練るよ。ただ食料の調達をフェイに頼みたい」

「それぐらいやる」

「頼む」


「今から行く」

「もうちょっと堪能させてくれ」

「ん、いいよ」


しばらくクロードはフェイの膝枕を堪能した。

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