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三十九話 オグメント商会と敵の正体

情報屋から情報を手に入れた翌日の朝、クロードの家の食卓はとても賑やかだった。


「『くろうど様が御作りになったこの汁物、とても美味しいです』」

「綾姫様はとても美味しいと言っている」

「当然、クロードの料理は最高」


「何故お前が誇らしそうにしているんだ?、作ったのはクロードだろう」

「私も買い出しを手伝った」

「雑用だろうそれは!」


「オオツルは?、クロードの料理、美味しい?」

「待て、今食べてみる」


フェイに促された大鶴はスプーンでスープを掬い、飲む。


「どう?」

「……美味しい」


捻りだしたような答えだったが、評価をフェイの予想していた通りだった。


「ふふん」

「だから何故お前が得意げな顔をする」


意外と言ったら失礼かもしれないが、オオツルはクロードの家に馴染んでいた。


「そしてクロード、私と綾姫様が褒めているというのに何を考え事をしている?」

「良いだろ別に、ここは俺の家だ。感想に関してはありがとうと言っておく」


「『くろうど様、このパンも美味しいです!』」

「パンが美味しいと言っている」

「何となく分かるよ、それはテレメールに言ってやってくれ」


「テレメール?」

「なんだ知らないのか?、近所のパン屋の店名だよ、東地区では結構有名だと思っていたが」

「刀華様は米を好んで食べる、パン屋なぞ知るはずもない」


トウカの故郷は小麦が生育しにくい環境らしく、その代わりに(コメ)を育てており、それが主食となっているそうだ。


米が経済構造の基盤になっているそうで、貴族が家臣に賃金を払う際、貨幣ではなく米で支払っているとトウカから聞いた時はさすがに理解できなかった。


家臣たちはそれを商店に持っていき、お金に変えると聞き一応納得はした。


「テレメールのパンはリベルタ(いち)だ、気が向いたら食べてみてくれ」

「頭の片隅には入れておこう」



「クロード、さっきは何を考えていたの?」

「オグメント商会に行く理由をどうしようかなと」

「理由がないと行っちゃダメなの?」

「ダメじゃないが下手に勘ぐられたくない」


「お金を貸すとか?、商人はお金が好き」

「それも考えたけど赤の他人に借金を申し込まれて了承する可能性は低い」


オグメント商会が余程お金に困っていたら可能性は上がるかもしれないが、少なくともこの手は使えない。


「いや、出資なら行けるか、情報屋から教えられたことにして」

「出資?」

「ああ、簡単に言うとお金をあげるんだ」


「それ、メリットある?」

「メリットは色々あるが今回は()()だけだから、どうでもいい、オプラに会える口実さえあればいい」


フェイの言う通り、商人は金に目がない、多少怪しくとも出資の話ならば一聞の価値はあると考えるはずだ。


「フェイ、昼前には帰るから、家のことは頼む」

「任せて」

「もし俺が帰ってこなかったから遠慮なくオグメント商会に乗り込んでくれ」

「そっちの方が得意」


口角を上げるフェイにクロードは苦笑いを零した。


◆◆◆◆


「ここがオグメント商会か」


情報屋から聞き出した場所へ行くと、何の変哲もない普通の建物が建っていた。


「あの、何か御用でしょうか?」


建物を見上げていると、建物から出てきた丁稚に声を掛けられた。


「ここはオグメント商会であってるか?」

「はい」

「それは良かった、お前の上司にシルバーの冒険者が出資したいから会長に会いたいと伝えてくれ」

「は、はい!、失礼ですが貴方のお名前は?」

「クロード・イグノートだ」


丁稚は建物の中に引っ込み、クロードも彼の後を追うように建物の中に入る。


商人と見られる人間はそれなりにいるが、建国祭が近いというのにこの程度の人数しかいないのは、気にはなる。


それと用心棒かもしれないが、明らかに堅気の人間ではない者が数人。


(この様子だとオグメント商会が"ウーゴス"の隠れ蓑である可能性は高いな)


周囲の様子からクロードは推察する。


(今の所主導権はこちらにあるが、それがいつまで有効かは分からない、楽観視は禁物だ。ここで敵の力量を測れればいいが)


近づいてくる気配に思考を切り上げると、番頭と見られる男が口を開く。


「貴方がクロード様でしょうか?」

「そうだ」

「誠に申し訳ありませんが、会長は忙しくお会いにはなれないそうです」


明らかな嘘だ、番頭は柔和な笑顔で取り繕っているがさっさと帰れと顔に書いてある。


そういうことなら作戦を変更するまでだ。


「出資は建前だ、狐人の子供を探してるんじゃないか?」

「っ!」


番頭に小声で伝えると、露骨に驚いた顔をする。


「な、何か知っているのか!」

「俺は会長にしか話さない」


クロードがそう伝えると、番頭は小走りで去る。


(これで主導権は失った、会長への面会が釣り合うといいが)


これには関しては賭けだが、敵を見定めなければ戦う準備すらできない。


慌てて戻ってきた番頭に会長が会うと伝えられ、応接室に案内された。


「お前がシルバーの冒険者か」


オプラ会長はいたっての普通の男だった、特徴と言えば恰幅がそれなりにあるぐらいで、とてもアヤヒメを遠い極東から運べるほどの財力があるようには見えない。


「さしずめお前の救世主と言ったところかな?」

「何?」

「困っているんだろ、せっかく手に入れた子供を逃がしてしまって」

「ちっ、いくら欲しい?」


「そう話を急かすな、お前の上司に会わせろ」

「上司だと?」

「いるだろ?、逆らったら殺される怖い上司が」


「…あの方に会ってお前になんの得がある?」

「それはお前には関係ない、俺は子供の情報を渡す、あんたは上司に会わせる、それだけだ」


オプラは睨むようにこちらの意図を読もうとしてくる。


「どこで私たちが狐人の子供を探していると知った?」

シルバーの情報網を甘く見るな」


嘘は言っていない、現実としてアヤヒメはクロードの家の裏で見つけたのだから、情報網に引っかかったと言えなくもない。


「私にあの方とお前を会わせる力はないぞ」

「それならこの話は無しだ」

「そもそもお前があの子供の情報を持っているといるという確証がない」


「名前はアヤヒメ、ヤトガミの御三家(ごさんけ)の子女、髪は金髪で三本の尻尾が生えている」

「っ、お前の要求は呑めん、私からあの方へ連絡する手段がない」


「それは嘘だ、それならお前はどうやって子供を捕まえたと報告する?」

「ぐっ、これは善意の忠告だ、何を考えているか知らんがあの方に関わるのは止めろ、多少腕に覚えがあっても何もできずに死ぬのがオチだ」


どうやらオプラは自分が巻き込まれることを危惧しているようだ。


(敵の全容が見えないな、馬鹿な振りでもしてみるか)


「何を怯える必要がある?、どんな強かろうが所詮人間だ、殺せる方法はある」

「馬鹿め!、お前は何も知らない!、あの方は人間ではない!、吸血鬼ヴァンパイアだ!」

「なるほど」


ようやく敵の正体を知ることが出来たが、もう少し知る必要がある。


魔女とは違い吸血鬼ヴァンパイアの知識ならばクロードの人並み以上に持っている。


吸血鬼ヴァンパイアという種族には位階が存在する、真祖ヴァーミリオンを頂点としているのは知られた話で、人間の血を吸えば吸うほど吸血鬼ヴァンパイアは強くなる。


夜に生きる吸血鬼ヴァンパイアは下位であれば日光に当たるだけで塵になるが、上位の吸血鬼ヴァンパイアは日光に当たっても弱体化はするものの塵となることはない。


吸血鬼ヴァンパイアという種族は強い、不老であり、人の血を吸うだけあって血液を自在に操作できるが故に戦い方が読めない。


クロードも吸血鬼ヴァンパイアと戦ったことはあるが、かなり手ごわかったのを覚えている。


吸血鬼ヴァンパイアだとしても殺せる」

「ふざけるな!、あの方はただの吸血鬼ヴァンパイアではない!、真祖ヴァーミリオン直系の眷属だぞ!、お前如きに殺せるものか!?」


真祖ヴァーミリオン直系というのにはさすがに驚いた、真祖ヴァーミリオンの血を分けられた眷属は吸血鬼という種族の中でも最上位の存在だ。


相対するときはかなりの準備をする必要がある、オグメント商会に来たのは正解だった。


「助かったよ」

「何!?」

「お前の口が羽のように軽くてさ!」


クロードが矢を地面に投げると、突然の閃光がオプラの目を灼く。


「ぐわぁ!?」


咄嗟に悲鳴を上げたオプラが目元を覆うとすぐに、光は収まる。


「はっ」


目の前にいたクロードがおらず、応接室のドアが開いていた。


クロードが逃げた、オプラは激怒し応接室を出る。


「誰かいないか!!」

「会長、どうされましたか?」

「どうされましたかだと!?、今すぐシルバーの冒険者を探せ!」

「し、しかし既に他の捜索に人手を割いている状況で…」

「あの冒険者が知っている!、草の根を分けてでも探せ!」

「は、はい!」


オプラに怒鳴られた番頭は慌てて、指示を出しに行く。


「くそ、ふざけやがって、あの冒険者…」


鋭い痛みが頭に走った瞬間、オプラの意識が途切れた。


「しばらく寝ててくれ」


オプラを気絶させたのはもちろんクロードだ。


彼は逃げたわけではなく、あの閃光の中で扉を開け逃げたように見せかけただけだった。


開かれた扉を見た人間はそこから逃げたのだと判断して、背後にしゃがんでいたクロードに気づかなかった。


「さてと」


オプラは吸血鬼との連絡手段を持っている、それを手に入れる必要がある。


オプラの身体を探るがそれらしいものはないが、代わりに鍵を手に入れる。


気絶したオプラを放置して、クロードは応接室を出る。


そのまま隣の執務室に入る、人がいないのは気配を探って確認済みだ。


執務机の方へ移動し、鍵がついた引出を躊躇なく開ける。


「裏の顔が"ウーゴス"か、その読みは間違えてなかったか」


裏帳簿と裏名簿を適当に流し読みしたクロードは、装飾のついた手の平サイズの箱を見つける。


「うっ」


箱を開けると中から漂ってきた鉄錆の臭いにクロードは顔を顰める。


中に入っていたのは鮮血の結晶で、まず間違いなくこれが連絡手段だ。


「使い方は分からないがそれは追々だな」


クロードは箱を背嚢へ入れ、鍵を閉める。


そして応接室に戻り、オプラをソファーに寝かせると鍵を元に戻す。


そして応接室の窓を開ける。


「預けるならどこがいいか」


鮮血の結晶は追跡される可能性を考えて、どこかに預ける必要がある。


候補を考えた結果、クロードは世界一安全な場所を思いつく。


「アレシアに預けよう」


クロードは最強の冒険者に会うべく、応接室から今度こそ出ていった。

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