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三十三話 言語の違いと通訳

助けた少女が目覚めたのは良かったのだが、クロードとフェイは少女の話している言葉が分からなかった。


「フェイ、まずこの子を落ち着かせるの先だ、貫頭衣を持ってきてくれ」

「ん」


フェイは部屋の中に干していた貫頭衣を持ってきた。


「訳が分からず不安だろうが、まずはこれを着てくれ」


クロードが指摘すると、少女は自分が裸であることに驚き、クロードの手から貫頭衣を奪い取る。


貫頭衣を着た少女とクロードとフェイは改めて向き合う。


「まずは自己紹介だな。俺はクロード、彼女はフェイ、分かるか?、クロード。フェイだ」


クロードが何度か、自分とフェイを指差して名前を言うと、少女はクロードが名乗っていることに気づいた。


「『名乗っているの?、くろうど、ふぇいと言うのね』」


クロードとフェイが頷いたことで、少女は笑顔になる。


「『良かった、私は神代綾姫と申します。お二人が私を助けてくれたのですよね、心より感謝します』」

「クロード、謝ってる?」

「分からない、それと名前の響きに聞き覚えがある、おそらくアヤヒメが名前でカミシロは苗字だ」


「分かるの?」

「ああ、おそらくアヤヒメが話しているのは極東ハイイーストの言語だ」

極東ハイイースト、もしかしてトウカなら分かる?」


「断言はできないが賭けてみよう」


依頼に出て不在かもしれないが、彼女の屋敷には使用人がいる、訪ねてみる価値はある。


「フェイ、アヤヒメのことは任せる」

「任された」


クロードは困惑した様子のアヤヒメに片膝をついて目線を合わせる。


「君を助ける、そのために力になる人間を呼んでくる、いきなり俺が出て行くのは不安だろうが困ったことがあったら、フェイに頼め」


アヤヒメにはクロードが言っていることが一言も分からなかったが、彼が真摯に話していることだけは分かった。


「『くろうど様が何を仰っているのかは分かりません、けれど手前様が悪人でないことだけは分かります、私はこの方と手前様を待ちます』」


アヤヒメはフェイの袖を掴む、フェイは無表情を崩して口角を上げる。


「納得してくれたみたいだな、安心しろ、フェイは人攫い如きには負けない」


クロードはローブを着て、弓と矢筒を持ち家を出た。


◆◆◆◆


トウカの屋敷はクロードが住む東地区と北地区の境目のような場所にあり、クロードの家からは少々遠いが、建物の上を走るクロードにはあまり関係がない。


十五分ほどで、クロードはトウカの屋敷に到着した。


屋敷というだけあってクロードの家より大きいが、それは彼女だけでなく彼女の仲間や使用人が住むからだとクロードは本人から聞いている。


トウカはただの冒険者ではない、極東ハイイーストでは士族シゾク、ここら辺で言うところの貴族の家出身だと本人が語ってくれた。


門を開けて、中に入ると庭で誰かが素振りをしていた。


「こんな朝っぱらから鍛練とは精が出るな、トウカ」

「む、この気配はクロード。このような朝方に何用か?」


運の良いことにトウカが庭先で鍛練をしていた。


「お見通しか、話があるんだがその前に着替えてきてくれ」

「相分かった」


屋敷に戻ったトウカは十分ほどで戻って来た。


「待たせて、済まぬ。して?」

「トウカにある頼み事をしたい」

「聞こう」

「昨日の夜獣人の少女を保護したんだ、ついさっき目覚めたんだが言葉が分からない」


「その子が話していたのは帝国語ゲオルグ南方諸国語シャルード連邦語ハイヤーのどれでもなかった、ただ彼女はカミシロアヤヒメと名乗った、聞き覚えはないか?」

「待たれよ、神代とは某の故郷で御三家と言われる家の家名、クロードの分かるように言うととても偉い」


「まじか」

「まじだ、その子は狐人であろう?」

「ああ、そうだ」

「ならば某の知る神代家に間違いない、神代家の人間は狐人族だ」

「カミシロ家のことはひとまず置いておく、トウカならアヤヒメの言葉が分かるってことだよな?」

「うむ、任せよ」


「良かった、トウカに通訳を頼みたい。貸し一つでどうだ?」

「構わぬ、某も何故神代家の人間がリベルタにいるのか気になる」

「助かる、ついてきてくれ」


クロードはトウカを連れて、彼女の屋敷を出た。


◆◆◆◆


「クロードの家に来るのは初めてだ」

「光栄に思えよ、フェイとアヤヒメを除けば三人目の来訪者だ」

「そこまで友人が少ないとは知らなかったぞ」

「うるさい、黙れ」


「フェイ、帰ってきたぞ」

「クロード、お帰り」


フェイは椅子に座らせたアヤヒメに水を飲ませていた。


「お邪魔する」

「トウカ、いらっしゃい」


「トウカ、その子が例の子だ」


トウカより先にアヤヒメの方が反応する。


「『手前様は夜刀神の武士もののふでありますか、かような土地に居ようとは』」

「『お初にお目にかかる、神代家の姫君、某は藤森刀華と申す』」

「『藤森!?、御三家の家名を持つ武士が何故ここに?』」


「『某のことはいい。某は貴女が何故ここにいるのか、その事情を通訳して欲しいとクロードに頼まれた、教えて欲しい、一体何があったのか』」


アヤヒメはクロードの家の裏に流れ着くまで、経緯を語った。


幼いアヤヒメは人攫いに攫われた理由を良くは知らなかった。


無理もない、アヤヒメの年頃の貴族は家に閉じ込められ、世間知らずであることがほとんどだ。


そして彼女はなんと一年の時間を掛けて、このリベルタにやってきた。


「『世界がひっくり返ったと思いました、ご飯はまともに食べれずどこへ行くのと聞いても誰も答えてくれない、心が壊れそうでした』」


「『それでも昨日、この街に着いたら初めて牢屋の馬車から出されました、その時偶然私を見張っていた男が仲間に呼ばれて、一瞬目を離しました。その後はもう無我夢中で、気付いたらくろうど様とふぇい様が仲睦まじく洗濯物を干していました』」


「『話してくれてありがとう』」

「『は、はい』」


「なんだその何か言いたげな様子は?」

「いや、それは誰も家に招かないと思っただけに候」

「は?」


「トウカ、アヤヒメはなんて?」

「自分を運ぶ人間は何回も変わり、リベルタへは一年掛けて来たと、そしてリベルタに到着し牢屋から出された時に見張りの隙をついて逃げたと言っていた」


「人攫いの情報はなしか?」

「ない、アヤヒメは何も知らぬ」

「それは少し厄介だな、敵はアヤヒメを狙ってるのにこちらは知る手段はない」


「それでも敵はアヤヒメが生きてることを知らない、死んだと思って諦めるかも」

「楽観視はダメだ、死体が見つからないなら生きてると判断して探すだろう、わざわざ運河を船で下ってまで探すような連中だ」


アヤヒメから敵の情報を得たかったが、何も知らないならそれでもいい、ある程度予想はしていたことだ。


「フェイ、これだけは決めておこう。アヤヒメをリベルタへ連れてきた人攫い組織を見つけたら潰す、買い手もだ」

「買い手?」

「わざわざ一年の時間も掛けて遠い極東からリベルタまで運んだってことは、アヤヒメを買いたがる人間がいるってことだ」


「おそらくそいつは権力と大金を持つ人間だ、アヤヒメを人攫い組織を潰されてもそう簡単には諦めないだろう、だから潰す」

「同感、最後まで助ける」


「某も協力させてくれぬか?」

「こっちとしては助かるが、冒険者の活動はどうするんだ?」

「この頃大きな依頼が続いた故、皆には休養を言い渡している、ただし某に休みは合わぬ」

「暇なだけだろ」


「クロード、それは言わぬが花であろう」

「はいはい、お前の助力は素直に助かる。今度酒でも奢ろう」

「ほほう、奢りで飲む酒が一番美味だ」


「トウカはお酒好き?」

「フェイ、酒は命の水であるぞ?」

「そうなの?」


「酒好きの戯言を真に受けるな」

「戯言とは失礼な」


「そんなことより俺たちは依頼の報告の為にギルドに行くんだが、アヤヒメを連れていきたい」

「それは何故なにゆえ?」


「ヴァネッサ、リベルタの騎士が私たちの依頼人」

「アヤヒメを攫った連中を知っているかもしれない」

「承知した、某も同行しよう」


「その前にアヤヒメの服がいる、こんな格好じゃ目立つ」

「確かにそうだな。フェイ、任せていいか?、金は預ける」


クロードは銀貨が詰まった皮袋をフェイに渡す。


「それでアヤヒメに必要なものを買ってやれ」

「おお、クロードは太っ腹だ」

「うるさい、トウカも二人について行ってくれ」


「クロードは?」

「俺は先に依頼の達成報告をしてくる、ヴァネッサには話を通してギルドで待ってる」


「ん、お願い」

「早く来ないと報酬は全部俺が貰うぞ?」

「それをやったらクロードでも許さない」

「はは、やれるものならやってみろ」

「怒った」

「おい、拳を握るなら家が壊れるだろ!?」

「知らない」


「『くろうど様とふぇい様はとても仲が良いですね』」

「『クロードの一友人としては彼に心から気を許せる人がいて、嬉しい限りだ』」


目が見えなくとも分かる二人の仲の良さにトウカは頬を緩めた。

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