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三十一話 救助と助けたい

クロードとフェイはソルとヴァネッサからの依頼を達成し、二日と半日の時間を掛けてリベルタへ戻ってきた。


戻ってきた時には既に日が暮れかけていたので、依頼の報告は翌日にすることにした。


ソルとヴァネッサ、リネットの三人と別れたクロードとフェイは酒場で晩飯を済ませて、家路を歩いていた。


「《黒刃鷹ゼーレ》、王獅子レグルス、裏社会の抗争と続いて今度は魔女ウィッチか、フェイと一緒にいると楽しくて仕方ない」


「楽しい?」

「ああ、フェイは違うのか?」

「ん、クロードと一緒に冒険するのは楽しい」


「だよな、冒険する為に冒険者をやってるんだ」

「クロードは何で冒険者になったの?」


「特に何か大層な理由があるわけじゃないぞ、元々は金を稼ぐ為に冒険者になったんだ」

「そうなんだ」

「ああ、師匠ろくでなしの元を飛び出して生きていくには金が必要だった、冒険者が稼げるのは知ってたからな」

「最初からリベルタに?」


「いや、リベルタに来たのは冒険者になって一年後くらいの時だ」

「どうしてリベルタに?」

「商隊の護衛依頼で来て、そのまま住み着いた。依頼に事欠かないリベルタを気に入ったんだ」


「私もこの街は好き、故郷と全然違うけど似てるところもある」

「例えば?」

「強い奴が偉い」

「確かに冒険者にそういう気質の連中が多いことは否定しないけど」


リベルタに住んでいる人が全員が脳筋というわけではない、それこそリベルタを治めるリベルタ侯爵は武闘派ではなく、力より言葉を重視する文治派の名領主らしい。


「建国祭では貴族区も解放されるから行ってみるか」

「貴族が住んでる場所?、何があるの?」

「建国祭の一番の目玉であるパレードが見れる」


「パレード?」

「バカでかい山車がいくつも出て劇を披露しながら街中を移動するんだ、フェイも見れば驚くぞ」

「面白そう、興味ある」

「祭りは一週間あるから、いつ行くのかはまた後で決めよう」

「ん、楽しみ」


話をしているうちに家に到着し、扉を開けようとしたらフェイが止まった。


「フェイ、どうした?」

「匂いがする」

「何?」

「ちょっと待ってて」


鼻をひくつかせたフェイは家の裏に回り裏門を開けて外へ出る。


クロードの家の裏には小さな運河が広がっており、洗濯や水浴びに使用されるものだ。


「クロード」

「どうした?、!!」


フェイに呼ばれたクロードが裏門から運河に出ると、フェイが意識を失ったずぶ濡れの少女を抱きかかえていた。


フェイに近づいたクロードは少女の脈を測る。


「脈はあるが弱い、今すぐ体を温めないと、フェイ、家へ」

「ん!」


クロードは家へ戻ると、ベッドの下から毛布を取り出す。


「濡れた服を脱がして毛布で包んでくれ」

「分かった」


少女の服を脱がそうとしたフェイは、一瞬手が止まる。


少女には獣耳が生えており、お尻から短いが三本の獣尾が生えていた、これは紛れもない獣人の狐人族の特徴であり、そして少女が来ていたのは奴隷が着る麻の貫胴衣だった。


(この子はもしかして逃亡奴隷?、でも首輪がない)


頭を振ったフェイは疑問を横に置いて、服を脱がし毛布で包みベッドに横たえる。


その間にクロードは追加の毛布を持ってくる。


「これでもっと包もう」

「手伝う」

「助かる」


さらに三枚の毛布で少女を包む。


「フェイ、この子を見ててくれ。蠟燭に火を着けてくる」

「ん」


一度外に出たクロードは燭台に蠟燭を差し、地面を置くと背嚢から火打石と打ち金を取り出す。


火打石に打ち金を打ち付けると激しい火花が散り、蠟燭の心に火が付く。


「火種を作らなくても直接を火を着けられるのはやっぱり便利だな、火石(ファイヤストーン)と呼ばれるだけはある」


燭台を手に立ち上がろうとしたクロードは運河を下る気配に気づく。


燭台を置いて火打石と打ち金を背嚢に戻したクロードは弓を持って裏門から外に出る。


「船?、人数は四人か」


松明を持つ人間を乗せた船が運河を下ってくる。


船に乗る男がクロードに気づく。


「よう。兄ちゃん、こんな夜更けに何してるんだい?」

「それはこっちの台詞だ、何故こんな夜更けに小さい運河を船で下っているんだ?、良い大人四人組が冒険者ごっこをしてるなら止めはしないが」


「なんだと手前「ははは、兄ちゃん、面白いことを言うね」」


怒ろうとした男の言葉を最初に話かけてきた男が遮る。


「実は人探しをしててよ、獣人のガキを見かけなかったか?」

「獣人のガキ?、見てねえな」

「そうか、ならいいんだ。邪魔して悪かったな、兄ちゃん」

「気にするな」


クロードは去っていく男たちの船が消えるまで、見つめやがて見えなくなると、燭台を回収し家へ戻った。


「クロード、大丈夫?」

「問題ない、これで部屋を温めよう」


クロードは燭台を机の上に置き、少女の顔を覗く。


「唇が紫色だ、これはまずい」

「クロード、何がまずい?」

「ボリスが言っていた、水に人間が長時間浸かると体の熱が奪われて死に至る。その兆候として唇が紫色になると聞いた」

「どうする?」


「人肌を使うしかない、フェイが温めるんだ」

「やってみる」


クロードはフェイが脱ぐ間にクロードも装備を脱いで、身軽になってから、獣人の少女の毛布を一度取り、一枚を少女とベッドの間に挟み、二枚の毛布を重ねる。


「クロード、脱いだ」

「ぶっ、何で全裸なんだ!」


振り向いたクロードは何故か全裸のフェイにツッコむ。


「クロードが脱げと言った」

「確かに言ったけど助かった時に隣にいる人が全裸だったら驚くだろ!、下着を着けろ」

「分かった」


下着を身に着けたフェイは少女と一緒に寝っ転がり、クロードはその上に二重に重ねた毛布を掛ける。


「冷たい、井戸水並」

「その子を救えるのはフェイだけだ」


クロードは床に散らばったフェイの衣服を丁寧に畳み、鎧と大剣、短剣を片付ける。


さらに居間へ戻り少女が着ていた貫頭衣を広げて、水気を払う。


「逃亡奴隷か、もしくは人攫いの被害者か、さっきの奴らは十中八九あの子を探してたな、四人の人間が船に乗ってまで探しに来たのは気になるが」


こういう言い方はあれだが、たかが奴隷や攫った人間を探すにしては過剰な人数だ。


あの運河はここら辺に住む人間が使う生活用水路で、船が通ることはまずない。


「どっちみち騎士団に丸投げがすればいいか、こういうのはあいつらの専門分野だ」


ちょうど騎士の知り合いが出来たところだ、ヴァネッサならば相談すれば助けてくれるだろう。


色々と考え事をしながら、クロードが戻ってくると部屋の中がほんのり暖かくなっていた。


「お帰り」

「ただいま」


フェイと言葉を交わしたクロードはもう一度少女の顔を覗き、脈を測る。


「脈が弱いのは変わらずだが唇の色が少し戻ってきた」

「本当?」

「ああ、予断は許さないが続けてくれ」

「ん」


クロードは近くの椅子を持ってきて、ベッドの前に座る。


「それにしてもよく分かったな、家の裏に少女が倒れてるなんて」

「匂いがした、同じ獣人の匂い」

「そう言えば言ってたな」


「さっきの奴らはこの子を探しに来た?」

「おそらくな」


「クロード、私はこの子を助けたい」

「?、今やってるだろ」

「そうじゃなくてこの子が無事に家へ帰れるように助けたい」


「そういうことか。正直に言うとその子を家へ帰すのは大変だぞ」

「分かってる、クロードは私を助けた時助けた責任を取ると言った、私もそうしたい」


フェイの目と声音は真剣そのもので、クロードは忍び笑いを零す。


「フェイ、まさか俺が断るとは思ってないよな?」

「思ってない」

「即答してくれて良かった。フェイがやりたいようにやればいい、俺はその隣を歩くまでだ」


「ありがとう、クロード、大好き」

「それもフェイのことが大好きだ」


「フェイはそのまま寝ろ、俺も寝る」

「さっきの奴らがこの子を取り戻しに来ない?」

「その可能性は低いな、その子が運河に飛び込んで逃げたのなら死体を探すのが普通だ、まさか俺たちに助けられて生きているとは想像できない」


「確かに」

「それに安心しろ、仮にここは()の家だ、防犯には気を使ってる」

「ーーー」


「フェイ?」

「いや、何でもない」

「そのなんでもないはなにかあるなんでもないだろ」

「俺の家って言った」

「言ったけど?」


「俺たちの家じゃないの?」

「それはシルバーの家って意味で言ったんだ、決して俺個人の家という意味で言ったんじゃない、ここはもうフェイの家だ」

「うふっ、知ってる」


「気持ちを悪い声を出すな」

「酷い、ちょっとからかっただけなのに」

「もう寝ろ、おやすみ、フェイ」

「ん、おやすみ」


クロードは蝋燭の火を吹き消した。


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