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二十三話 在庫処分と薬屋

"フォルティア"と"タランチュラ"の抗争が大勢を決し、"フォルティア"の勝利が決まった時には既に朝日が貧民街を煌々と照らしていた。


貧民街にやってきた"タランチュラ"の戦闘員は死んだか捕虜となり、リーダーのパレスと裏切り者のベンも虜囚の身となる。


クロードとフェイはカミラから報酬の金貨を受け取り、貧民街を去ったので、その後の顛末は後から知った。


まず"フォルティア"は勝利したもののかなりの損害を受けた、故に"タランチュラ"とは捕虜を解放することを条件に手打ちにしたそうだ。


感情に翻弄されず客観的に物事を判断したカミラはやはりリーダーとして優秀だとクロードは改めて思う。


ちなみにだが裏切り者のベンとその部下たちがどうなったかは知らないが、今後も知らない方がいいだろう。


"フォルティア"の未来がどうなるかは誰にも分からないが、クロードとフェイはケネスの依頼は達成したと判断した。


◆◆◆◆


数日後、二人はケネスの店を訪れ、全てを話した。


「色々言いたいことはあるが、まずはありがとう、俺の古巣を救ってくれて」

「依頼だからな」

「礼は受け取る」


「先のことは分からないが依頼は達成でいいのか?」

「ああ、あとのことは彼奴らが自分たちでやることだ。お前たちに頼んだのは手助けだからな、依頼は達成だよ」


ケネスは机の下から外側に反っている剣と短剣を取り出す。


「それは?」

「追加の報酬だ、この小太刀コダチはクロードに、短剣はフェイにだ」

「武器には困ってないぞ」


「まぁ、聞け。元々はこの二本は鋳潰すつもりの剣だったんだ」

「鋳潰す?、これをか?」


試しにケネスが小太刀コダチと呼んだ剣を鞘から抜いてみると、水面のように波打つ模様がクロードの頬を照らす。


「その模様、トウカの剣にも付いてた」

「そいつは刃紋ハモンだ、それがあるのがカタナの特徴の一つだな」


「カタナは極東の武器で極東の鍛冶師にしか打てないと聞いたが。ケネス、打てるのか?」

「ああ、そのトウカの依頼のお陰でな。かなり苦労した上に未だ本物には程遠いが一応カタナと呼べる代物は打てる」


「この小太刀はその依頼の折に打ったものだ」

「何故ここにある?」

「トウカには長さが中途半端だと言われた」


「どういうこと?」

「トウカが言うにはあいつの故郷ヤトガミではカタナは長さによって用途が違うそうだ、例えば彼奴が腰に差してる二本のカタナは長い方が太刀タチで短い方が脇差ワキザシと言うんだ、それで…」


「コダチはメインウエポンにもサブウエポンにもならない中途半端な武器ってこと?」

「お、おう、その通りだがよく分かったな」

「トウカはそのタチをメインに、ワキザシをサブとして使ってた、それは多分間合いの問題」


「間合い?」

「ん、間合いは人それぞれだけどトウカには攻撃の間合いと防御の間合いがあった」

「?、どういうことだ?」


「えっと、つまりトウカは攻撃の間合いより防御の間合いが内側にあるから自分の間合いへ敵を引き込める」

「!!、なるほど、それを成すのに適した武器がタチとワキザシで、コダチが中途半端って言うのはそういう事か」


トウカの二つの間合いに適さないのが、このコダチという武器なのだろう。


「それで鋳潰すとか言ってるのか」

「非常に悔しいが使い手がいないのではこいつが存在する意味はない」

「コダチは分かった、短剣の方は?」


クロードはコダチを鞘へ戻し、短剣を手に取り顔を顰める。


「重いな」

「分かったか、それは素材のせいで短剣にしては重い、フェイの大剣と同じ素材だな」

「重いわけだ」


「それはフェイの大剣を打った時に余った素材で打ったものだ」

「それでか、フェイには似合いそうだ」


「ん、クロードの短剣より重い、こっちの方が私向き」


フェイはクロードから受け取った漆黒の短剣を軽々と振り、鞘へ納める。


「話を戻すと、どっちも使い道がないからお前たちに貰って欲しいってことだ」

「言いたいことは分かるが、俺は武器に困ってない」


「別に無理に使えとは言ってない、ただ小太刀は長さの割に軽く斬れ味がある、腰に差せば邪魔にはならいだろ?」

「どれだけ貰って欲しいんだよ」

「いいじゃねえか、タダでやるって言ってんだ、この世にタダより安いものはねぇぞ?」


「在庫処分しようとしてるくせに恩着せがましく言うな」


クロードはケネスの手から小太刀を奪い取る。


「貰えるものは貰っとくよ」

「ん、ありがとう」


「気にするな、せっかく永久に割引してやるんだ。お前たちには長くこの店を利用してもらいたいからな」


新しい武器を手に入れたクロードとフェイは、ケネスの店を出る。


店の看板を閉店中から開店中へと戻し、通りを歩く。


「フェイ、寄りたいところがあるんだが構わないか?」

「いいよ、ついて行く」


「どこ行く?」

「リネットって名前の薬師がやってる薬屋だ」

「薬屋?、なんの用で?」

「前にフェイを助けた時に使った回復瓶ポーションを覚えてるか?」

「覚えてる、それを買いに行くの?」

「買いに行くというか、受け取りに行くんだ、もう金は払ってる」


「先払い?、品物がないのに?」

「それはこれから受け取りに行く高位回復瓶ハイポーションのせいだな」


クロードは小太刀を左腰に差し、話を続ける。


「フェイは高位回復瓶ハイポーションの効能は覚えているよな?」

「すごかった、クロードに負わされた致命傷が治った」

「そんなすごい回復瓶ポーションが簡単に作れるわけがないわけで、素材を取り寄せるのに相当な金がかかる、俺が払ったのはそれだ」

「作るためのお金がそのまま購入金ってこと」


「そうだ」

「ちなみに幾ら?」

「聞かない方がいいぞ」


クロードが真顔でそんなことを言うので、フェイは顔を青くする。


「金貨百枚?」

「もっと払った、ただこれだけは俺の持論だが死んだら金はなんて幾ら持ってても意味はない、もしもの時に備えるのが良い冒険者だと俺は思うぞ」

「言いたいことは分かる、でも生きるのにもお金は必要」


「俺がそんな無計画な奴に見えるか?」

「見えない」

「大丈夫だ、確かに痛い出費だが生活に支障が出るほどじゃない、これでもそれなりに蓄えはある」


「とにかく約束の期限は過ぎてる、もう完成してるはずだ」


◆◆◆◆


目的の薬屋はケネスの店から徒歩十数分という場所にあり、それほど遠くはない。


店が開店しているのを確認して、二人は店に入る。


「む、変な匂い」

「薬の匂いだな、ここは回復瓶ポーション以外にも色んな薬を売ってるから」


店の奥を覗くと先客がおり、店主で薬師の老婆と誰かが話していた。


「先客?」

「みたいだ、少し待とう」

「ん」


暇なので二人は店内を物色する。


「薬がたくさんある、粉薬に丸薬、これは塗り薬、効能は色々、値段はまちまち」


フェイは面白そうな薬を手に取る。


「クロード、見て、精力剤があった」

「見せるな、俺には必要ない」

「クロードがすごいのは知ってる」


唇を舐めるフェイはあまりに魅力的なので、クロードは目を逸らす。


「店頭に置いてる精力剤なんて大した効能はないと思うけどな」

「クロード、侮るのは良くない」

「買わないぞ」

「ふふ、冗談」


フェイは精力剤を棚に戻す。


「それでは材料が足りないということか?」

「足りないという表現は正確じゃないね、"ルシアの花"は生息域が特殊でそう簡単に手に入らないのさ」

「どういう意味だ?」


薬師の老婆と先客の会話が聞こえてくる。


「オールレイル山脈は知ってるね?」

「通称"飛竜の巣"、腕利きの冒険者でも簡単には立ち入れない危険地帯だと聞く」

「その通り、"ルシアの花"はその危険地帯の山頂にしか咲かない貴重な花という訳だ」


「リネット殿でも無理なのか?」

「老婆に何を期待してるんだい」

「父から若い頃はどんな危険地帯にも喜んで飛び込み希少な素材を持ち帰る凄腕の冒険者だと」

「何十年前の話をしてるんだい、ババアに期待し過ぎだよ」


「お願いだ、リネット殿。私とソルは何でもする、何か方法はないか?」

「方法はあるよ」

「本当か!」

「冒険者に依頼すればいいんだよ、望みは薄いだろうけどね」


幾ら報酬が高くとも危険地帯に喜んで飛び込む冒険者はそうはいない、元冒険者であるが故に老婆は冒険者の考えをよく知っていた。


「もし冒険者に依頼を受けてもらえたらリネット殿はついてきてくれるか?」

「当たり前だよ、お前は"ルシアの花"がどんな花で具体的にどこに咲いているのか知ってるのかい?」

「恩に着る!」

「報酬分の働きはするよ」


どうやら先客は帰るらしい。


何度もリネット婆に頭を下げる先客とクロードとフェイはすれ違う。


「よう、婆さん、例のものを受け取りに来た」

「できてるよ」


リネット婆は二本の小瓶を机の上に置く。


「助かる」

「金を貰ってる以上手は抜かないよ、そっちの娘は初めてだね」


「フェイ・バルディア・ルー、冒険者」

「リネット・フェルマ、薬師だよ」


「このガキと組んでるのかい?」

「ん、相棒」

「あんた、このバカを口説き落としたのかい、やるね」

「良い男、捕まえた」

「はっ!、こいつを良いなんて言えるあんたの肝っ玉は随分と図太そうだね、そういう奴は嫌いじゃないよ」

「ありがとう」


「ん?、それはどういう意味の礼だい?」

「貴女の作った回復瓶ポーションがあったから、今の私がいる」


フェイの言葉にリネット婆は一瞬言葉を失うがすぐに笑顔になる。


「精々感謝しな」

「ん、そうする」

「ふん、回復瓶は渡したんだ、商売の邪魔だからさっと帰りな」

「言われなくてもそうするよ」


礼は言えた、二人は笑みを浮かべて店を出た。

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