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二十一話 演技と尻拭い

アレシアとの出会いを忘れて地下から戻ったクロードとフェイは、女を連れたカミラたちと出くわす。


「お前たちか」

「そっちも成功したみたいだな」


クロードは後ろ手に掴まれた薄着の女を見て言う。


誘うような目で見られたクロードは困惑するが、とりあえず無視して顔を上げる。


「そこは地下への入口だよな?、まさか…」

「ああ、麻薬製造所は破壊した」


「なんですって!?」


大きな声を上げたのは拘束された女で、信じられないという顔をしている。


「ありえない!、あそこは相当数の部下で守っていたはず!」

「弩は少し面倒だったな」


本音を言うと製造所を破壊してほとんどの人間を倒したのはアレシアだが、クロードは教えつもりは無い。


「お前!、自分が何をしたか分かっているの!?、こんなことをして"タランチュラ"が黙っているなんて大間違いよ!、必ずお前たちを皆殺しにするわ!」


色々と騒いではいるがクロードはとりあえず無視して、カミラへ目配せを送る。


「どうする?」

「任せろ」


カミラは部下へ指示を飛ばす。


「トッド、行け。製造所を破壊したのならこの女に用はない、その地下室にでもぶち込め」

「ボス、殺さないんですか?」

「必要ない、このバカ女に私たちを殺せる力はない」


カミラはミラをたっぷりと挑発し、罵声を吐く彼女を気絶させて地下室に放り込ませる。


クロードは地下室の扉を閉めずに部屋を後にし、さらにラボールからも出る。


「なかなか演技が上手いな、カミラ」

「ん、迫真」


「茶化すな、本番はこれからだ。マット、ニール、先に戻って家の防備を固めろ、貧民街でパレスたちと裏切り者を迎え撃つ」

「「はい!、ボス!」」


「グレイン、先に戻ったトッドと連携しうちの組員を配置させろ」

「はい!」


カミラの指示を受けた部下はそれぞれすっ飛んで行った。


「クロード、フェイ、二人には黒き剣(ブラックソード)の相手を任せたい」

「別に構わないが相手は暗殺者で複数人いる、仲間が死んだことも知っているし、正面からは来ないだろう。迎え撃つのは困難だぞ」

「それなら遊撃を頼みたい、お前たちならできるだろう?」


カミラの言葉にクロードは一瞬考え、フェイに聞く


「フェイはどう思う?」

「遊撃って何するの?」

「簡単に言えば特定の持ち場がなく戦場を自由に走って戦況が悪そうなところに適宜介入することだ」

「土地勘がないと難しいと思う」

「同感だ」


「貧民街の地図なら見せられるぞ」

「それは有り難い、遊撃として敵の目を引けば暗殺者たちを釣れるか?」


可能性としては五分五分だろう、カミラの口ぶりから"黒き剣(ブラックソード)"は名が通った暗殺者集団で、状況判断ができる人間がいるはずだ。


そういう人間がクロードとフェイを見れば、すぐに仲間を殺した二人だと気付くだろう。


敵の数は最低三人、分かれる可能性も視野に入れると。


「分かった、俺とフェイは遊撃しよう。それとカミラ、確実に暗殺者はお前を狙う」

「分かってる、油断はしない」

「いや、終わり際に気を付けろ」

「あ、ああ、分かった」


カミラは一瞬理解が出来なかったが、とりあえず頷いた。


◆◆◆◆


カミラたちが貧民街に撤退し、迎撃の準備を始めている頃、気絶から目覚めたラポールのミラは辛うじて生きていた数人の部下を連れて、怒り心頭で"タランチュラ"の事務所に殴り込んだ。


「おいコラ!、パレス!、今すぐ出てきなさい!、出てこないなら今すぐ殺してやるわ!」


ミラがわーぎゃーと騒いでいると、何人もの部下を釣れた大男が出てくる。


「出来ないことを抜かすな、尻軽女」

「黙りなさい!、どういうこと!?、"フォルティア"は潰したんじゃないの!?」


「バカな弟がしくじったんだよ」

「どうしてくれるのよ!?、お陰で奴らに麻薬製造所を破壊されたわ!」

「キャンキャン喚くな、そいつは気の毒だったな」


「あんたのせいでしょ!?」

「知るか、守れなかったのはお前の責任だろ、俺に擦り付けるんじゃねぇ」


「…武装してどこへ行くの?」

「バカな弟の尻拭いをしに行くんだよ、邪魔するつもりならてめぇもぶっ殺すぞ!」


パレスに恫喝されたミラは腰を抜かし、それを一瞥したパレスは外へ出る。


「お、おい!、パレス、これは契約外だぞ!」


今度は数人の部下を連れた細身の男が追いかけてくる。


「契約外だ?」

「そうだ!、僕の役目は"フォルティア"の監視網に穴を開ける、それだけのはずだ!」

「"フォルティア"は健在なのに何を言ってやがる、お前の目的は"フォルティア"に成り代わることなんだろ?、健在じゃ困るだろうが!」


「そ、それはその通りだが…」

「古巣を裏切ったくせに生意気だな、ベン。てめぇの仕事は"フォルティア"を潰すのに協力することだ、異論を受け付けねぇぞ」

「わ、分かった、協力する」

「それでいい」


鼻を鳴らしたパレスはチラリと引き連れる戦闘員を数える。


「三十人か」


本来ならばかなりの数であり、"フォルティア"が損耗していることを考えれば攻め落とすには十分な数だが。


「おい、てめえらのお仲間は全員死んだのか?」

「おそらく」


パレスの背後を歩く黒衣の男が答える。


「連絡はない、お前の部下が見た白い女獣人にやられたのだろう」

「ちっ、"フォルティア"にベンも知らない味方がいたとはな」


敗れて逃げ帰ってきた者たちの話を聞いたパレスは真っ先にベンを問い詰めたが、彼は何も知らないと言った。


ベンが知らない味方ならば特に問題はないが、それが"黒き剣"の暗殺者を殺し、"タランチュラ"の戦闘員たちを敗走させるほどの力を持っていると話が変わってくる。


「騎士崩れか、冒険者か、何にしても我々に任せろ」

「頼むぞ、その白い女獣人さえいなくなれば数の多いこっちの勝ちだ」


「言われるまでもない、我々の黒き剣は目標の息の根を止めるまで止まることはない」


そう言い残し黒衣の男は雑踏へ消える、それを追う二つの影に誰も気付かなかった。


◆◆◆◆


一方で迎撃の準備を進める"フォルティア"の本拠地である孤児院の屋根の上に、クロードとフェイの姿があった。


「クロードってもしかしなくても高いとこ好き?」

「好き嫌いよりも癖だな、戦う場所を知る時は高いところに登る方が効率的だ。高いところは好きだけど」


「やっぱり」

「いいだろ別に、弓使いは皆好きだよ」

「主語が大きい」

「うるさい、正論を言うやつに地図は見せないぞ」

「横暴」


ふざけながらもクロードは貧民街の地図を広げる。


「貧民街は結構入り組んでるな」

「地の利はこっちにあるけど裏切り者がいるから、それは帳消しで数の差でこっちの方が不利」

「カミラは上手くやってるが数の差はどうしようもないな、幸いなのは士気が高いことか」


カミラのボスとしての力量は本物だ、部下を上手く使い的確に指揮し、部下からの人望もある。


彼女がボスでなければ"フォルティア"は援軍のお陰で助かっても組織は瓦解していた可能性が高い。


「大局はカミラに任せて、俺たちは俺たちにできることに集中しよう」

「ん、あの時と同じでいく」

「あの時って《黒刃鷹ゼーレ》か?」

「そう、私が正面でクロードが隠れて援護する」


「二人で一緒に戦った方が良くないか?」

「それでもいいけどクロードの言う通りなら、正面から戦うのが苦手な暗殺者が正々堂々戦うわけない、必ず不意をついてくるはず、凄腕の暗殺者が相手ならクロードに隠れて援護してもらう方が私は戦いやすい」


そもそも弓師は正面から戦うものではないし、フェイが言うことは全面的に正しい。


やはり戦闘眼に関してフェイは超一流と言える。


「分かった、それで行こう。フェイは正面から戦い俺はそれを隠れながら援護する」

「ん、決まり」

「よし、行こう、敵は待ってくれない」


クロードとフェイの二人は孤児院の屋根から降りた。


孤児院に戻ると、ほとんどの人間がおらずカミラと数人の部下だけがいた。


「カミラ、準備は終わったのか?、これは返すぞ」

「おっと、終わった、お前たちは?」


クロードは地図をカミラに投げ返す。


「もう出る、確認するがお前の目的はパレスと裏切り者のベンを殺すことだな?」

「そうだ」

「分かった、留意しとく。あんたらの幸運を祈る」

「大丈夫、カミラたちは強い」


カミラは頼もしい二人の冒険者の背中を見送る。


「あいつらに頼り切りはしない、これは"フォルティア"と"タランチュラ"の抗争だ、ケジメをつけ裏切り者たちにその代償を支払わせるぞ」

「「はい、ボス」」


カミラは腰に差す剣を強く握った。

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