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十九話 裏取りと腹案

「ここだ、ここが奴らが言っていた"ラポール"だ」


クロードとフェイ、そしてカミラとその部下は一度脇道に逸れる。


「ボス、どうしますか?」

「情報の裏を取りたい、パリスがここにいるかも重要だ」

「それは俺がやろう」


クロードが手を挙げる。


「お前が?」

「ああ、あんたらは目立つ。俺は身軽に動けるし何より目立たない、必要なのは情報の裏取りとパレスの所在だな」


「あと裏切り者の居場所もだ」

「ニール」

「ボス、これは必要な情報です」


「分かった、頭の片隅に置いておくがあくまで優先するのは裏取りとパレスの所在だ」

「ああ、それで構わない」


「娼館に入るの?」

「ああ、ただ客としてじゃない」


クロードはフェイに笑いかけると、建物の壁を登り一気に屋上へ辿り着いた。


さすがに"タランチュラ"も屋上には見張りを配置していなかった。


隣の建物の屋上からラポールを観察する。


四階建ての建物で、格子窓越しに娼婦のような人たちがそれぞれの個室にいるのが見える。


(麻薬の製造所の隠れ蓑というだけでなく、娼館としても運営してるのか)


クロードは建物に入る方法を考えながら、建物の裏が見える位置に移動する。


「裏口が一つ、外からは入れないだろうな、格子窓を破るのは賭けになるな」


娼婦が驚いて大声でもあげたら敵に気付かれる可能性がある。


クロードは娼婦の個室をじっくり見る、決して出歯亀をしているわけではなく、とある条件に合致する部屋を探している。


「あそこか」


クロードは一つの部屋に目星をつけ、弓を取りだし絶妙に力を抜いて矢を撃つ。


全力ではないクロードの矢は格子窓に綺麗に弾かれて、地面に落ちる。


一見すると無意味に見えるが、クロードの目的は格子窓の破壊ではない。


格子窓に何かが当たった音が聞こえ、疑問に思った娼婦が窓を開ける。


クロードはそれを待っていた、開けられないなら開けさればいいのだ。


窓を開けた部屋へ飛び込む。


「えっ?」


驚く娼婦をクロードは押し倒し、口を塞ぐ。


「むぅ!?!!!?」

「落ち着け、俺は君を傷つける気はない。静かにしてくれれば何もしない」


暴れていた娼婦だったが、クロードに諭されて暴れるのを止める。


「今から手を離すがもし大声を出す気なら止めて欲しい、君を傷つけないと約束する」

「(ふるふる)」


娼婦が何度も頷くのを確認して、クロードは手を話す。


「貴方は誰?」

「ただの通りすがりだ」

「ただの通りすがりが窓から入ってくるの?」

「そうだ」


クロードは答えながら、格子窓を閉める。


「突然押し入って済まない、事情があってな」

「事情?」

「話すつもりはない、実は君と取引をしたくて押し入らせてもらった」

「取引ですって?」

「君は"タランチュラ"を知ってるよな?」


"タランチュラ"の名前を出すと、女性の顔が変わる。


「知ってるけど」

「俺の質問に答えてくれたら相応の対価を支払う」

「相応の対価って?」

「金だ」


クロードは銀貨が詰まった皮袋を取り出して、中身を少し見せる。


「答えてくれたら全部やる」

「それは本当?」

「嘘をつく理由はない、答えないのなら別の奴に…」


「待って!、答えるから行かないで」


クロードは引き止めてくる女性を見て、自分の読みが当たったことを悟る。


(やはり金好きか、分かりやすくて助かる)


女性の部屋は高そうな調度品が多い、客から貢がれたものだろうがお金が好きなのは間違いない。


クロードは一度皮袋を背嚢へ戻す。


「パレスという男を知ってるか?」

「知らない」


「背が高くて武器を持ってる大男だ」

「それは知ってるかも」

「今日ここで見たか?」

「見てない」


「それではミラという女はどうだ?」

「それは知ってる、私たちのまとめ役をやってる女」

「今日は見たか?」

「あいつはいつもお気に入りの男を侍らせて上級部屋ハイルームにいる」


上級部屋ハイルーム?」

「貴方、童貞?」

「そう見えるか?」


女はこの変な男をからかおうとしたのだが、クロードに平然と返されてしまった。


「…見えない」

「娼館に詳しくないだけだ、それで?」

「上級部屋は金払いの良いお得意様が使う部屋よ」

「どこにある?」

「三階の東の角」


「この娼館に地下室はあるか?」

「地下室?、聞いた事ないわ」


クロードは一瞬俯き、背嚢から再び銀貨の詰まった皮袋を取り出す。


「これを渡す前にもう一つだけ聞きたい、最近新入りが入ったか?」

「新入りって"タランチュラ"にってこと?」

「そうだ」

「一介の娼婦が知ってると思う?」


「つまり知らないと?」

「ええ、知らないわ」

「そうか」


クロードは銀貨の詰まった皮袋を投げると、女性は慌てて受け取る。


「ちょっと…!」


顔を上げると格子窓が開き、クロードは既にいなかった。


◆◆◆◆


去り際に矢を回収したクロードはフェイたちに合流する。


「おかえり」

「ただいま」


「随分早く戻ったな」

「この依頼を長引かせるつもりはない。情報の裏取りは取れた、パレスはいないがミラはいる、三階の東の角部屋だ」


「麻薬製造所は?」

「話を聞いた娼婦は知らなかったからおそらく地下だろう」


「裏切り者のことは聞けたか?」

「少なくともここにはいない、それ以上ことは何も」


「そうか、製造所のことはミラに聞いた方が良さそうだ」

「どうやってこの娼館を仕切る奴を捕まえるの?」


フェイの疑問にクロードが二本の指を立てて答える。


「選択肢は二つだ、正面突破か、隠密か、俺は正面突破を提案する」


フェイは特に驚かなかったが、カミラたちは驚いていた。


「理由を聞いてもいいか?」

「理由は二つある、一つは隠密は難しいこと、人が多い娼館の中で五人の人間が気付かれずに動くのまず無理だ、二つ目は"タランチュラ"の人間がほとんど娼館の中にいないことだ、侵入した時気配を探ったが建物を歩いている人間はごく少数だ」


「地下か」

「正解。敵は少ない、目標の居場所も分かる、俺とフェイで敵を陽動すればあとはあんた達だけでも行けるだろ?」


「お前たちが囮に?」

「ああ、どっちにしろ、中に居る奴らは倒す必要があるし俺とフェイだけの方が機敏に動ける。だよな、フェイ?」

「ん、戦闘員の相手は私とクロードに任せて、その間にミラを捕まえて」


「分かった、一つ、二人に提案したいことがある」

「なんだ?」「?」

「製造所のことを聞いたあとはミラのことを餌に使いたい」


「餌って言うのは?」

「パレスとベンをおびき寄せるためのだ」


「やり方は何となく想像はつくが俺たちの許可はいらないだろ?」


クロードたちは"タランチュラ"の拠点である麻薬の製造所を破壊できれば充分なのだ。


「お前たちの目的は分かってる、だが"タランチュラ"は大きな組織だ、拠点一つと幹部一人を潰したところで確実に力を削げると思うのか?」


カミラの言動からは自分とフェイを引き込みたい意図が透けて見えるが、言っていることは理にかなっている。


「フェイ、どうする?」

「カミラ、私たちに協力して欲しいなら、報酬を提示するべき」


「報酬だと?」

「そう、冒険者はタダ働きしない」

「これはケネスさんからの依頼の範疇のはずだ」

「それを決めるのはそっちじゃなくてこっち」


「…報酬というのは金か?」

「それが無難な選択肢」

「いくらだ?」

「うーん、成功報酬で金貨四十枚」


「なっ!?、金貨四十枚だと!?」

「いくらなんでも…!」


「妥当だと思う」


一人当たり金貨二十枚、シルバーブラックを雇うなら妥当な金額だが、カミラたちが納得するかは別の話だ。


「俺たちを雇うなら金がいる、単純な話だ」

「分かった、払おう」


「ボス!」


カミラは反目する部下たちを睨んで黙らせる。


「お前たちの実力を考えれば妥当、いや、むしろ安いくらいだ」


そういえばカミラは提示された金額には驚いていなかった。


「パレスとベンの殺害、それが私の依頼内容だ」

「分かった」


「よし、交渉成立だ」

「ん」


フェイとカミラは握手を交わす。


「それじゃあ作戦の概要を話す」


クロードとフェイはカミラの腹案を聞いた。

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