十四話 魔獅子討伐戦
翌日の朝、夜更けまで話していた三人だったが元気そのものだった。
軽く朝食を済ませ、集まる。
「作戦はこう、私とソルがそれぞれ前衛を張り、クロードが私たちの援護、先に倒した方がもう一方に加勢する、クロード、背中は任せる」
「任せろ、ソル、腕前に期待しているぞ」
「期待には剣と盾で応えよう」
ソルのスタイルは典型的な騎士の戦い方を行うもので、右手に長剣を握り左手に盾を持っている。
盾で敵の攻撃を受け、剣で急所を狙うという対人戦を得意とする騎士の戦い方だ。
そしてソルの強さは軽い模擬戦で確認した。
クロードが戦って分かったのはソルは非常に盾を使うのが上手いということだ。
ただ受けて耐えるだけでなく、受け流し、打ち払いを臨機応変に切り替える。
剣の扱いも盾と同様で技巧派であり、特に突きが得意であることが分かった。
まさに理想的な盾役、いや、戦える盾役と言うのが正しいだろう。
「ソル、どっちが先に倒せるか勝負」
「勝負か、構わないがお金は賭けないぞ」
「何も賭けない」
「そうなのか?」
「ん、勝つか負けるかだけ」
「単純明快だな」
「その方がいい」
「同感だ」
「フェイ、ソル」
「何?」
「何だ?」
「自由に戦え、変に互いを意識しなくていい、俺が二人に合わせる、それと俺は二人が倒すと信じてる」
「ん」
「感謝する」
三人は警戒しながら廃村に入る、とはいえ周囲にはボロボロの家屋が建つのみで、魔獣の気配はない。
「奥?」
「おそらくな」
「広場に向かおう」
ソルの提案に頷き、村の広場へと向かう。
踏み固められた道を歩き、広場に出るというところでソルは止まり、腰を下ろす。
「あそこだ」
「ん、本当だ」
「見えてる、二匹か」
目印に立てられた風見鶏の下に二匹の獅子が寝そべっている。
「寝ているのか?」
「いや、そう見えるだけで起きているぞ」
「ん、先制」
「行くぞ」
フェイとソルは飛び出し、寝そべる魔獅子に襲いかかる。
接近する二人に気付いた二匹の魔獅子は起き上がり、咆哮する。
咆哮を正面から浴びた二人だったが怯まず、そのまま切りかかる。
先頭のフェイの大剣と魔獅子の爪がぶつかり、ソルの盾と魔獅子の牙がぶつかる。
なかなかの重低音が響き、二人と二匹は戦闘に突入する。
「はぁぁ!!!」
フェイは怪力に任せて、魔獅子を弾き飛ばす。
魔獅子は自分が弾かれたことに一瞬驚くが、身を屈めフェイへ飛びかかる。
フェイは剣の腹で受けて、踏ん張ると見せかけて受け流す。
受け流された魔獅子はそのまま翼を広げて、空を飛びフェイの周囲を旋回する。
「ん」
フェイが柄を強く握った瞬間、魔獅子の肩に矢が突き刺さり、衝撃で魔獅子は墜落する。
「大好き」
フェイは墜落した魔獅子へ大剣を振り下ろすも、辛うじて起き上がった魔獅子は一撃を躱す。
クロードは矢を番い直しソルの方へ目を向ける。
ソルともう一頭の魔獅子は激しい近接戦闘を繰り広げていた。
ソルが相手する魔獅子はかなり攻撃的で、爪牙の連打が凄まじいがソルは盾と剣で上手く捌いている。
「はっ!」
爪を盾で受け流しながら、ソルは踏み込み突きを放つ。
ソルの素早い突きは片方の腕を一瞬貫き、直ぐに引っ込む。
そして一瞬怯んだ魔獅子の顔面に盾を叩きつけ、吹き飛ばす。
盾の一撃を顔面にもらった魔獅子は怒り、飛び上がると低空を飛行しソルへ吶喊する。
クロードは矢を放つ。
それは吶喊する魔獅子の脇腹に突き刺さり、悲鳴をあげる。
盾で受け流そうと考えていたソルはそれを見て、横に跳んで、地面を擦る魔獅子を避ける。
ソルの視線は自然と魔獅子を追い、その先にいるクロードにも一瞬目が向く。
「クロード!!」
ソルの切羽詰まった声にクロードが疑問を抱く前に、全身が影に包まれる。
クロードを近くの家屋ごと巨大な影が粉砕する。
「クロード!!」
ソルの焦る大声に魔獅子を両断して仕留めたフェイは遅れて気付く。
クロードと家屋を潰したのは巨大な影の正体は、体高が五メートルを越える巨体の魔獅子だ。
フェイとソルを睥睨する魔獅子だったが、足元から矢と共に人が飛び出す、矢はソルが戦っていた魔獅子の脳天を貫く。
「その図体で不意打ちか、死ぬかと思ったぞ」
「クロード!」
「ソル、俺はそんなに貧弱じゃないぞ」
フェイはすぐにクロードの隣に立つ。
「びっくりした」
「俺もだよ」
「ガァァァァァァァァ!!」
咆哮をあげた巨体の魔獅子が一直線に突っ込んでくる。
クロードは下がり、フェイが前に出るがその前にソルが先に出る。
振り下ろされる魔獅子の前足を盾で受ける。
衝撃で地面が陥没するがソルは潰れず健在で、フェイは大剣を振り上げ、翼の付け根を狙う。
それを察した魔獅子はその巨体に似合わず、俊敏に動き後肢を捻り、蹴りを放つ。
フェイは大剣で受けるも大きく後退を強いられる。
前足の攻撃から脱したソルは魔獅子の懐に潜り込み、左後足を切り裂く。
「グルルゥゥ」
ソルに狙いをつけた魔獅子の脇腹に矢が突き刺さり、爆発する。
「グルゥァ!?」
衝撃と肉が焼ける痛みに魔獅子は悲鳴を上げ、怯む。
その隙に戻ってきたフェイと方向転換したソルが斬りかかる。
「「はぁぁ!!」」
フェイは片翼を切り落とし、ソルは先程の斬傷をさらに切り広げ、左後足の自由を奪う。
さらにクロードの矢が片目を潰す。
「フェイ!、決め手だ!、ソルは援護!」
「ん!」
「任せろ!」
三人が決めにかかる中、全身の痛みに憤慨する魔獅子は残ったもう片方の目でクロードを捉える。
ソルは魔獅子の口の中に炎がチラつくのが見えた。
同時にフェイも気付き、狙いが自分たちではないことを察する。
「俺か!」
「皆!、私の後ろへ!」
クロードは反射的に前へと走り出し、ソルの背にフェイと一緒に滑り込む。
防げるのか防げないのかなどの問答をしている暇はなく、クロードとフェイは騎士を信じた。
魔獅子の口から火炎の息が放たれらそれに対しソルはただ盾を構える。
「ぐぅうう!!!」
地面に伏せた二人は盾を構え、正面から火炎を受けるソルの姿を目にする。
このままでは押し流されると直感的に感じた二人はソルの背中を押す。
「ソル、耐えろ!」
「頑張って!」
「あぁ!!、騎士は倒れない!」
実際には数秒ほどだったのだろうが、三人には永遠にも思える時間が過ぎ去り、炎が消えるとソルは地面に膝をつく。
「ありがとう!」
「感謝!」
クロードとフェイはソルの守護から飛び出す。
全て焼き尽くしたと思った魔獅子は驚く。
「フェイ!」
「ん!」
フェイが先行し、クロードは矢筒から漆黒の矢を取り出す。
「これはただの矢じゃないぞ」
クロード自らが《黒刃鷹》の剣羽根を加工して作った矢である。
それを弓に番え、引き絞る。
狙うはフェイを狙う前足。
フェイは自分を踏み潰さんとする前足を無視し、漆黒の大剣を大上段に構える。
「《黒穿矢》」
漆黒のオーラを纏う矢が放たれ、魔獅子の前足を消し飛ばす。
「"天撃"!」
フェイの渾身の斬撃が、魔獅子を文字通り真っ二つにし地面を大きく斬り裂き、その奥にある家屋をも破壊した。
「ん、切れ味が凄い」
想像していなかった惨状にフェイは目を瞬かせる。
クロードに打った時以来の本気の一撃だったが、威力があの時の比ではない。
剣が違うだけでここまで変わるのかとフェイは改めて剣を打ったケネスに内心感謝する。
魔獅子が絶命したことを確認し、フェイは血払いを済ませ大剣を鞘へ納める。




