すてきな趣味ですね()
フリーズは片腕でルシャを抱え、何処となく浮き立つ足取りで森を進む。鬱蒼と茂る木々の隙間から見えていた空の面積が少しずつ増えていく。飲み込まれそうな闇が腰を据えていた空はそれを追いやるように白みが増していき、涼やかな風が朝の訪れを知らせる。
そんなさわやかな朝の程よい湿り気を堪能しつつ、空を見上げ続けていたルシャが顔を正面に戻す。
薄くなった木々の間から何やら趣味の悪そうなものが見え、ああ、まだ空を見ていればよかった、と思わず天を仰ぎそうになる。
それに気づいてか否か、フリーズは嬉々として口を開く。
「そろそろ着きますよ!今日から此処が貴女のお家です!もちろん!私の家でもあるのですけれどね!」
その声色とは対照的にルシャの気分は鬱々となる。どうやら、ちらりと見えたあそこを通るようだ。フリーズの足はひたすらに前へと進んでいる。
鮮やかな森の次は、どうやら石像の森らしい。
たくさんの石像が帯状に林立している。しかし、一つ一つが異なる生き物を模しているようで、見たことがありそうでなさそうなものばかりである。獣のような蟲のような、どうも区分し難いその生き物たちは、眼窩に赤く異質な石を嵌められ、いまにも動き出しそうな出立ちで時を止められている。
あえて共通点を見出すのならば、どの石像も必ず見慣れた部分を持っている点だろうか。長い年月を思わせる色鮮やかな苔が石像のいたるところに張り付いている中、人型の生物に共通する部位だけは冷ややかな肌を覗かせていた。
「...趣味が悪い」
「そうかい?我ながらここまでよく集めたと思うけれどね!いやぁ、集めすぎて置き場所には困りましたが、家の塀にするアイディアを思いついたときは天才だと思いましたよ!」
「気が狂いそう」
どうやら同居人らしい。知りたくもなかった事実に数刻前の自分を恨む。こいつは狂人の類のようだ。まあ、人であるかも怪しいが。
諦めて、改めて、塀の先に見えた建物へと目を向ける。
どうやらフリーズの家は大きな屋敷のようだ。煉瓦造りの重々しい風貌はどこか独特の空気をまとい、主人お気に入りの趣味の悪い塀など気にも止めない。塀を新調してあの様子ならば、この屋敷はさらに長い時間ここにあるのだろうと想像に難くない。しかし丁寧な手入れがされているのだろうか、崩れそうな危うさはなく、むしろどことない威厳が見て取れる。ほかにも誰かがいるのだろうか。仮に、石像たちが動き出し夜な夜な掃除をしているとしたら...考えたくもない。
「塀をこれに換えてから、圧倒的に侵入者が減ったのですよ!お守り的な役割も果たしているのですかね!」
ああ、知りたくなかった。
個人的には好き。