旅立ちは忙しなく、尚華やかに一人でに
よろしくお願いします
行かなくちゃ。本能が、そう告げる。
この穏やかな島を離れ、どこかへ向かわなければならない。
そんな衝動が、身体の、心の内から湧き上がり、溢れ出す。
何の為に。どうやって。
停滞する思考と進み続ける肉体が乖離する。
誰かに引きずられていくように、葉のない木々の森を進む。意思が働かないこの状況には少々不服はあるものの、何故か別れを惜しむように周囲の景色を眺めている。まあ、足が止まることはなかったけれども。
気づけば見慣れた木の根本に膝をつき、手を這わせては何かを探っている。土が手につくことも厭わず、頻りに地面を触れている様子は傍観すれば滑稽なことだろう。湿り、踏み固められた土には所々苔がのっていた。ありふれていて、この島の一部とも言えるその色は置かれた絵具のようでどこか懐かしい。まじまじと見るのは一体いつぶりのことだろうか。
ほんの少し、されど確実に周囲よりも柔らかくなっているところに触れた時、ある種の確信を得たように手は地面を掘り始めた。そこに何かが埋まっていると知らなければ掘る者もそういないであろう。そんな場所を蟲のように。
しばらく掘り進めるとようやく探し物は見つかったようで、手は周囲の土をどかすようにそれを取り出した。
途中、急な行動を心配したハル兄様が駆け足で迫ってきたものの、目的に気づいてか、傍観するように足を止めた。近付きすぎず、かといって離れすぎるわけでもなく、私の視界の縁からこちらを覗くその目は見慣れた日常を見ているようで、得体のしれない恐怖が歩み寄ってきたように思えた。
軽く土を払われた棒のようなそれは暴かれ、曇天色の瞳を開く。
その覆いは手から離れて宙を舞う。空になった手は、それを持つもう片方の手を握る。その動きは作業のごとく、流水のごとく手馴れていて、疑問符と同時に感嘆を覚えたことは不覚だったが、違和感と不安がそれを押し流してしまう。
それは、自然の摂理のように。世の理のように。
生身の刃を抱え込み、感覚を味わうように抱いて、突き放す。
そのまま勢いに身を任せるように、手の中にあったそれは解放される。
その美しい放物線をなぞるように私の中身も解放されてゆく。ほかの器官さえも引きずり出してしまいそうなその勢いに負の感情も引き抜かれ、ただ驚嘆の感情と結論に至った思考、その驚きに悲鳴を上げる身体だけが残された。
焦燥がリズムを作り、鮮やかな門出のファンファーレを演出する。
放物線の端を木の根があきれたように回収する。
その姿を視界の隅に歪ませながら、私は門出の意志を口にする。
その言葉を待っていたかのように、白い空は闇に蝕まれ、すべての感覚が溶け落ちていった。