Ⅸ
「さっき俺、この前、祖父さんの葬式に行って来たって言ったよな? その祖父さんってのが、昔、刑事をやっててさ。俺が中学くらいの頃、聞いた話だ」
矢田部は由利の前にゆっくりと胡坐をかいて座り直し、話を続けた。
「当時、刑事なんてなんだかすごくカッコよく思えてさ、面白い話してくれってせがんだりしてな。実際の警察の仕事なんてテレビや漫画みたいに派手なもんじゃないって、言いながら、まあ、それでも孫が喜びそうなこと、いろいろと話してくれたよ・・・
で、その話てのがさ、祖父さんが刑事になって二、三年の頃だて言うから、今から四十年くらい前の話だな。始まりは美人女子大生の失踪事件だったそうだ。
とある建設会社のお嬢さんで、親が借りた高級マンションに、なに不自由なく一人暮らしをしていたそうだ。まあ、当時最先端をいっている女の子だったんだろうな。
そんな子がある日突然行方不明になった。急に連絡が取れなくなって、心配した家族が警察に捜索願を出した。で、担当したのが俺の祖父さんだったというわけだ。
捜査員たちはまず、当時彼女が付き合っていた美大生の彼氏に目をつけて尋ねて行った。その男の家も裕福で、同じように立派なマンションで一人暮らしだったそうだよ。祖父さんたちが訪ねて行くと、最初は嫌がっていたが、渋々部屋に上げてくれた。
室内は散らかっていて、男の一人暮らしでろくに掃除もしていならしく、其処此処に果物や野菜の屑が落ちていたそうだ。
その男の話では、もう半月以上彼女とは会っていない。別れたということだった。別れた理由を聞くと、言いにくそうに、他に好きな人ができたからだと答えた。
捜査員たちはすぐに別れ話がもつれて、この男が何かした、――まあ、殺したとか?――のかもしれない、と疑ったそうだが、いきなり令状もなしに部屋を調べるわけにはいかない。その日はそのまま帰ったそうだ。ただ一つ気になったことに、帰り際、浴室から変な声が聞こえたらしいんだな」
そこまで語って、矢田部は残りの缶コーヒーを一気に飲み干した。
「えっ? じゃぁ、その子を風呂場に監禁して・・・」
「いや、人じゃなく、鳥の鳴き声のようなものだったそうだ・・・。聞くと、珍しい鳥を飼っているとだけ答えたらしい」