Ⅷ
その日は土曜だったので、由利はミカを連れて近所のスーパーまで買い物に行ったのだが、帰りに酷い雨に遭ってしまった。
「何だよ~、家を出る時は陽が射していたのに・・・」
六月も末のこととて、梅雨の最中、念のため一本だけ持って出た傘も、この降りでは二人で入るとほとんど役には立たなかった。
「うわあ~、シャワーみたいだね、けんと!!」
ミカは濡れるのも構わず傘から顔を出し、どんよりした雨雲から無数の線となって落ちてくる雨の粒を見上げている。
「こら、何やってんだ、濡れちゃうぞ!」
何度注意しても、面白がってミカはやめなかった。ミカの子供っぽい様子に、自分も濡れながら、由利も苦笑するしかなかった。
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「ミカ、すぐに風呂に入りな、風邪ひいちゃう」
そう言いながらも、天使が風邪をひくものかどうか、由利にもまったく見当がつかなかったのだが。
「けんとも濡れちゃったでしょう。一緒に入ろう!」
「ば、ばか、またそんなことを。そういうのはダメって言っただろう」
「なんで? 前にいっしょに入ったじゃない。ミカは平気だよ・・・」
最初に由利の部屋に現れた時、ミカは裸の自分を恥ずかしがって背を向けていたのに、今ではあまり気にしなくなってしまった。
初めて風呂に入る時、どうやって洗えばいいのかわからない、と言うので、一緒に入って教えたのだがどうやらそれ以来、由利に見られても恥ずかしがらないようになってしまったようだ。
「俺が困るんだよ」
「なにが?」
由利は自分の顔が少し赤くなっているように感じて少々動揺した。そればかりでなく、ミカと一緒に風呂に入った時のことを思い出し、あらぬところまで反応しそうになり、ますます動揺してしまった。
「いや、まあ、その、いろいろと・・・」
「ふ~~ん、ヘンなけんと!!」
そう言いながら、ミカはその場で服を脱ぎながら風呂場へ歩いて行った。
「こら! 服を脱ぎながら歩くな!!」
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しばらくの間、由利は背後にミカの浴びるシャワーの音を聞きながら、ぼんやりとしていた。
そこに、突然、風呂場の方から目も眩むまばゆい光が発散してきて、驚いて振り返った。
体にバスタオルを巻いた、見知らぬ少女が一人。
慌てて出てきたのか、髪も身体も濡れたまま、水滴が滴っている。
「君は・・・」
「けんとぉ~ ミカ、大きくなっちゃった・・・」
蝶がさなぎから羽化するように、ミカは一瞬で十三、四歳、中学生くらいの姿に変わっていた。わずか二週間ほどで五、六才ほど成長してしまったことになる・・・。