Ⅶ
由利とミカの奇妙な共同生活が始まった。
本来なら今すぐにでもミカを警察に連れて行くべきなのだろうが、由利にはそれができなかった。もし、このままミカを警察に連れて行ったりしたら、真っ先に自分が誘拐犯だと疑われるだろう。
けれどもミカの保護者が見つかるはずはないから、その疑いは直ぐに晴れるだろうが、彼女の背中の羽をどう説明すればいいのか? 何をどう言ったところで、自分の言葉など誰も信じてはくれないだろう。
由利にはその後の展開が全く想像できなかった。
そんな由利の想いをよそに、ミカはすぐに彼に懐いてしまった。
毎日毎日可愛らしく身を寄せてきてはあどけなく言葉を交わし、時には子どもらしく、遊び半分で由利の手を取って眺めたり、それを頬に当てたりした。
「ほら、ねっ! けんとの手、あったかいよ。えへっ・・・」
ほとんど無意味なその仕草が、いちいち子供っぽくもあり可愛らしく、またふとした瞬間に見せる、本能的な女らしい所作、それらのギャップに、由利は次第にミカに心惹かれていった。
大学の講義やバイトのある時は、この部屋に一人残して行くのだが、そんな時ミカはなんとも言えない表情で寂しがった。
そうして帰ってくると、「けんと、遅~い!!」と言ってふわっと浮き、すぐに由利の首に両手を廻し、嬉しそうに抱きついて頬ずりしてくる。
そう、彼女は天使、その翼は衣服で隠されてはいても、ミカは翔ぶことができるのだ。
――やべえ~~、このままじゃ俺、ほんとにロリコンになっちまうよ・・・
休みの日はミカを連れてあちこち出掛けたりもした。傍目には仲の良い兄妹に見えたかもしれない。
彼女に似合う服を探したり、評判のスイーツを食べに行ったり、遊園地にも連れて行った。由利の部屋で生まれたと称するミカにとって、見るものすべて、何もかもが新鮮らしく、どこへ連れて行っても満面の笑みで喜びを表現した。
そんなミカとの楽しい日々が、由利の毎日を彩っていたある日、再び驚くべきことが起こった。