Ⅴ
少女にTシャツを被せた後、何度もここでジッとしているように言い聞かせ、落ち着きなく由利は買い物に出て行った。
一週間前の高額バイトの金がまだ残っていたので、まずは駅前のスーパーで、女の子の服を上から下まで一式買い揃えた。しかし、あえて売り場のおばちゃんに、妹の服を買いに来たと言い、見繕ってもらったのだが、逆に明らかに不審な眼で見られてしまった。
帰りにはコンビニで何か食べ物をと思い、立ち寄ったのだが、
――天使って何食べるんだ?
ハタとそう考えてまた困ってしまった。おにぎりや弁当はイメージが違う。
――やっぱりパンか・・・
菓子パンやクロワッサンなど、洋風なものをいくつか籠に入れレジに向った。
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「君、名前、なんて言うの?」
部屋の真ん中に据えた、小さなこたつテーブルに向き合って座り、由利が少女に尋ねた。
「ミカ・・・」
そう答えた少女は、さっきコンビニで買って来たクロワッサンに、おいしそうにかぶりついている。
「そう、ミカちゃんって言うんだ」
「お兄ちゃんは?」
食べながらミカが上目遣いで由利に尋ねた。
「俺? 俺は由利健人・・・」
「けんと!」
由利が言い終わる前にそう呼んで、ミカは嬉しそうに彼を見てまた微笑んだ。
――うっ、か、かわいい・・・。幼女を愛でる趣味などないが、流石にこれはかわいすぎるだろ!!
「あ、いや、そんなこっちゃない。君、どこから来たの? どうしてここに居るの?」
ミカは首を傾け、少しの間上を向いていたが、
「う~~ん、わかんない!」
と、大きな声で答えた。
「えっ!? なんで? じゃあ、お家はどこ?」
「ここ!!」
今度は間髪を入れずに答えた。
「はっ? 何を言って・・・」
「だって、ミカ、ここで生まれたんだもん」
「なんだって!?」
会話は終始噛み合わないまま食事を終え、次に買って来た服をテーブルに並べて見せた。
「よくわかんないけど、一通り買って来たから、これ着てみて」
ミカは並んだ服や下着をいちいち手に取って見ていたが、やがて、
「ミカ、着たことないからよくわかんない。けんとが着せて!!」と言った。
「えっ!? いやいやいや、なに言っての、そんなのダメだってば!」
結局、手伝いながら一緒に服を着せてやった。できるだけ見ないようにとは思うものの、時折覗く白く透き通るような肌、華奢な腕に細く美しい脚、チラチラと視界に入って目の毒だ。
――本当に天使みたいだ。いや、それにあの翼・・・。やっぱり天使なのか? 俺の部屋に天使が舞い降りた!?