Ⅲ
「君は一体、誰? なんでここに居るの・・・」
由利はもう一度同じ質問を繰り返した。しかし少女は、背を向けたまま首だけ振り返って、ただ静かに笑うだけで、由利の問いには答えない。背中の白い羽は、今は小鳥のするように畳まれて下方に向って閉じている。
「もしかして、言葉がわからない?」
見るからに日本人離れ、いや人間離れしていると言った方がいいかもしれないその姿に、果たして彼女が人語を解するのかと思うのも無理からぬところだった。
「と、とにかく何か着るものを・・・。そのままじゃ目のやりどころに困る」
そう言って立ち上がった由利は、クロゼットの中にある衣装ケースから大きめのTシャツを取り出し、少女の前に戻って来て差し出した。
「ほら、とりあえずこれ着て」
少女は怪訝な顔をして、座ったまま由利のことを見上げている。それを見て、確かにもし彼女が天使ならば、服を着ない方が逆にスタンダードなのかもしれない、とも思ったが、恥ずかしそうに背を向けているところをみると、一概にそうとも言い切れない。
だが何より、このままでいられたのでは、由利の方が困ってしまう。裸の美しい幼女、それだけで目のやり場に困る。まともに顔も見られやしない。
――俺、ロリコンじゃねえし
仕方なく由利は、畳んであったTシャツを広げ、後ろからゆっくりと近づき、頭からそっと被せた。驚いた少女は振り向いて腕をバタバタさせた。その瞬間、少女の小さく膨らみかけた胸が由利の目に飛び込んできた。
「わぁ~~、ばか、暴れんな!!」
慌ててTシャツの裾を引っ張り、首を通して下まで下げた。シャツの襟から顔だけ出し、両腕はシャツの中に入れたまま大人しくなった。
左右の腕をシャツの上から掴んで袖口から引っ張り出してやり、その場に立たせると、思った通り由利でも大きいXXLサイズのTシャツは、少女の膝上まで長さがあった。背中の羽は少し生地を盛り上げてはいるものの、上手い具合にシャツの中に納まっている。とりあえずこれで落ち着いて話ができそうだ。
少女にも由利の意図がわかったらしく、Tシャツを摘まんで嬉しそうに微笑んだ。
「ウチには女の子の服とかないし、とりあえずこれで我慢してくれるかな」
「ありがとう・・・」
少女が初めて声を発した。
「あれ? 君、言葉がわかるの?」
「今、思い出した」
ポツリと呟く。
「今?」