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 由利健人が不用品回収のバイトを始めて三か月ほど経った頃、このバイトを紹介してくれた大学の先輩、矢田部に、遺品整理の仕事の方も手伝わないかと誘われた。なかでも高額報酬の、孤独死や自殺、殺人事件などがあった、いわゆる事故物件と呼ばれる部屋の荷物の整理だそうだ。


「なあ、やるだろう?」

「いやあ~、俺、流石にそういうの、ないっすわ」

「なに? 健人って、霊とか見える人なの?」

「いや俺、霊感とか全然ないですけど・・・。でもそれはキツイっすよ」 

「そっか。じゃあ決まりね。どうせお前、水曜は大学、講義なくてヒマなんだろ?」

「ええ~~」



  ****



「ここの大家に、部屋に残っているモノは全部持って行ってくれ、って言われたけど、売れそうな物はほとんどないなぁ」

 バイトの当日、早速仕事を始め出した矢田部が、クロゼット、備え付けの収納や引き出しを、次々開け放ちながら言った。


「なんだか、ガランとした感じっすね。めぼしい物は遺族とかがもう持って行ったんですかねえ・・・」

 由利がぐるりと部屋の中を見まわしながら言った。

「いや、昨日の大家の話だと、まだ若いのに両親は死んじゃっていなくて、保証人になっている親戚にも遺品の引き取りを拒否されたんだってさ」

 矢田部がクロゼットに掛かっている数少ない衣類を物色しながら答える。


「そうなんすか? 残ってる服とか部屋の感じだと女の人ですよね? なんだか気の毒っすね」

「殺人事件らしいからなぁ・・・。まあ、そんなに親しくもなければ、余計なことに関わりたくないって気持ちも、わからんでもないけどな」

「うえ~、殺人事件って、マジっすか?」


 由利が部屋の中を改めて見廻した。その時、部屋に入ってすぐ、開け放っておいた窓から、ふわりとレースのカーテンを揺らし、初夏の風が吹き込んで来た。

「ああ、マジらしい。でもなんだか変な事件みたいで、警察も首を傾げてるんだとさ」

「変?」

 由利が矢田部の方を振り返った。


「うん。遺体がなかったんだと。なんでも大家が連絡して警察が来た時、床には少量の血痕と、数本の骨しか残っていなかったそうだ・・・」


 そう言いながら、不意に脅かすように大きな声で、矢田部が由利の目の前のフローリングの床を指さした。

「ほら! ちょうどその辺だよ!!」

「えっ? うそ!!」

 叫んで二三歩後ろに飛び退き、指さされた辺りの床を見つめる。その傍にある、小さなガラステーブルの上の、鉢植えの胡蝶蘭の花が静かに風に揺れていた。

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