3.
「お姉ちゃんどこ!?僕お薬買ってきたよ!」
ライルが息を切らせながら大きな声でリーナを呼ぶ。
怪我人の手当てに集中していたリーナははっと我にかえり、急いでライルを呼ぶ。
「ライル、こっちよ。静かにこっちにいらっしゃい」
周りに人がいないか確認しながら、手招きをする。
「ライルえらいわ、いい子。お薬と余ったお金をおねえちゃんにちょうだい。」
「はい、あのね、怪我したならこれ使ってって薬屋のおばちゃんがくれたよ」
それは包帯だった。
いつも薬を売り買いに行っている薬屋のおばさまはオマケをしてくれたり、余った料理をお裾分けしてもらったりとよくしてもらっていた。
そんな薬屋のおばさまに感謝の気持ちと、今まで姉の後ろを生まれたてのひよこみたいにちょこちょことついてきていた弟ライルが1人でお使いができるほどまで成長したことに感慨深いものを感じながらも、手際よく手当てをしていく。
ひどい怪我だったため、手当てが終わるのに一時間ほどかかってしまった。
その間ライルには近くで薬草採取の続きをしてもらっていた。
先ほどの薬を買ったせいで今日の分の母親の薬代と今日の夕食代がなくなってしまった。
手当が終わればリーナも一緒に薬草採取に戻るが、今日この怪我人をどうするかが悩ましかった。
危険生物が出る確率が低いとしても、出ないとは言い切れないし、動物も夜は肉食獣が活発になる。
このまま放置すれば危険であることは間違いない。
また、この時期日中は暖かいとしても夜はそれなりに冷え込んでしまう。
そんなところに意識不明の重症人を放置すれば命の危険あることもわかっている。
だが、ただでさえ城壁の穴は小さくその中を通らせるとなるとこの重傷を負っている女性に負担をかけることになるし、背負っていくのも困難であることは容易に想像がつく。
たとえ負担なく王都の中に入れたとしても人人を運んでるだけで注目を集めてしまうだろう。
そうなればこの女性にもリーナ達にもいい結果をうまないだろう。
「どうしよう、、、。あ、あそこなら、、、、。ライル、ここでこの女の人見ててくれる?危ないからここから離れちゃダメよ。お姉ちゃん調べないといけないことがあるから待ってられる?」
「うん大丈夫だよ!僕お留守番できる!このお姉さんのことも守って待ってる!」
元気よくライルはそう返事をすると意識のない女性のそばにちょこんと座り込む。
そんなライルを見て笑みがこぼれる。
純粋なライルをずっと見ていたいが、のんびりしすぎると日が暮れてしまう。
そう考えるとリーナはある場所まで記憶を頼りに走り出す。
そのある場所とは、
リーナは今年17歳になる。
ライルとは12歳離れている。
2人の母親であるレオナはライルが生まれ、体調を崩すまで国王の寵愛を一身に受けていた。
そうライルが生まれるまでの12年間は毎晩のようにレオナとリーナが住んでいる狭い一室に足を運んでいた。
リーナが物心つくまではよかった。
だが、リーナが5歳になる頃にはレオナがリーナをクローゼットの中に押し入れ、呼ぶまで出て来てはいけないと言われていた。
初めの数年は夜遅かったこともあり、クーゼットの中で眠ってしまい、気がつけば朝なんてことが当たり前だった。
だが、ある日、なぜか眠れなく、いつものようにクローゼットの中へ母が押し込めた後も目が冴えたままだった。
そしてなぜ母は毎晩クローゼットの中に入れるのだろう、もしや母は自分に内緒で美味しいお菓子を独り占めしているのではと考え、こっそりクローゼットを抜け出して覗きにいってしまったのだ、母レオナの部屋を。
そこにいたのは一才の服を脱ぎ捨てたレオナといつも冷たい雰囲気でリーナに笑顔のひとつも見せたことのない恐怖の象徴であった国王が母親をくみ倒していた。
しかも母親は「やめて、お願いもう許して。私を解放して」と懇願していた。
その光景を見てしまったリーナはたまらず部屋を抜け出し、城を抜け出し、森に入っていた。
この時には興味本位で城を抜け出して遊びに王都の街中を歩き回っていたので、城壁の穴の場所も知っていた。
ただ、まだ幼いリーナへレオナは危ないから森には入ってはいけないと言い聞かせていたため、今回の衝動的な行動で初めて森の中に入った。
無我夢中で走っていたため、危険生物が出現する奥の方まで来てしまっていた。
周りは不気味な雰囲気が漂っており、それに気がついた時にはかなり奥の方まで来てしまっていた。
周りからは獣がうめくような鳴き声や草木だ擦れる音のみでなおさら恐怖を煽る。
そんな時洞穴を発見したのだ。思ったより深い洞穴みたいでリーナのいる場所からは最奥まで見えない。
とにかく獣達から身を隠すことができる場所が必要だと、洞窟に近づいてみる。
入口からそっと覗いてみると月明かりで微かだが見える。
どうやら魔物や猛獣などの類は見えない。
とりあえず夜が明けるまでここで身を隠すことにした。
不思議なことに周りはうめき声や獣同士が争い合う声が聞こえるが、ここには一才獣達は近づかず、無事夜を越すことができた。
その後城に戻ったが、心配した母親にこっぴどく叱られ、それ以降はむやみとその洞穴に近づくことはなかった。
近づかなくなってから数年後、薬草の書かれた本を読んでいると、見覚えのある薬草が載っていた。
それは洞穴の周辺に大量に生えていた物だった。
その薬草とは獣除けで使われるヤングイル草だった。
その薬草は魔物、猛獣が嫌う植物であった。よく冒険者達が野宿する際に使われるもので、それが生えていたことによってあの日リーナは無事危険な森の奥で生き残れたのであった。
先ほど思いついたのがその洞穴であった。もし今でもその洞穴があり、獣除けの薬草が生えていればなんとかそこに女性を匿えないかと考えたのであった。
遥か彼方の記憶を頼りにひたすら走る。
「はあはあ、あった、、、、」
記憶と相違ない洞穴がそこにあった。
少し屈めば人1人余裕で入れそうな穴をくぐり、中を見る。
そこには何もなかったが幼い頃の恐怖と心細かったあの時の記憶と変わりはなかった。
洞穴を出て周辺を見るとそこにはやっぱりヤングイル草がたくさん生えていた。
これだけ生えていれば獣は寄ってこないだろう。
「うん、ここなら大丈夫かな。あとは暖を取れる毛布や起きた時に食べられるものがあった方がいいかな。お金厳しいけど、一度城に戻って使えそうなものを持ってくるか。」
1人で結論を出し、2人の元へ戻る。