2.
バギア王国では、王位継承権争いの最中であった。
愛妾の子供であるリーナ・バギア・ランクルートは第3王女とその弟ライル・バギア・ランクルート第4王子もその権力争いに巻き込まれていた。
正妃を母にもつ第1王子派と側妃を母にもつ第2王子派で派閥争いが激しくなってきていた。
また、リーナとライルは母が愛妾というだけでまともな食事や待遇を受けることができなかった。
そのためリーナとライルは城を抜け出し、採取した薬草を売って、そのお金で質素ながらも食料を買ってその日を凌いでいた。
「お姉ちゃん今日お肉食べたい」
今年5歳になるライルは姉のリーナにいう。
「お肉かぁ、、、買えるかなあ。じゃあ、今日はいつもより少し奥まで入ってちょっと貴重な薬草を売ってみよっか!そのお金で今日は奮発してお肉買っちゃお!」
「やったあ!僕頑張る!」
第3王女と第4王子という立場である以上少なからず予算が割り振られてるはずだが、全て悪質な使用人達に着服されていたため、常に食べる物にすら困っている状態であった。
「でもまずはお母様のお薬買ってからね」
リーナ達の母親のレオナは、平民であったが、国王が視察に行ったところその美貌を見初められ、その日に無理やり召し上げられてしまった。
その時にリーナができてしまった
リーナとライルは、レオナの美貌を受け継ぎ、まだ幼いながらも綺麗な顔立ちをしていた。。
だが、レオナは今ではラオンを産んで体調を崩してしまい寝たきりの生活になってしまった。
それが原因で王はリーナ達の母親に興味を失くしてしまい邪険にされるようになってしまった。
また、王位継承権を持っている王子、王女を少しでも少なくしようと日々後宮では毒殺や暗殺などが飛び交っている。
リーナ達も例外ではなく、専属の信頼できる護衛や侍女などがおらず、自分の身は自分たちで守るしかなかった。
そんな危険な場所に幼いライルを残しては危ないと母から言われ、少なからず危険はあるが、後宮よりは安全だと毎日城を抜け出し街にライルを連れていってた。
だが、森に入るには一度王都を出なければならない。
その際に検問所を通らなければならないが、リーナ達は勝手に外出することが許されていないので、そこを通ることができない。
もし通って身分がバレると警備が厳しくなり、二度と外に出ることができなくなり生きるために必要な食糧の調達ができなくなってしまう。
そうなると困るのでいつも2人は検問所から少し離れたところの城壁に華奢な人が1人通れるような穴が空いていて、そこから森へ出入りしている。
いつものようにその小さな穴を通り森に入る。
あまり奥まで行ってしまうと危険な魔物や動物がいるため、貴重な薬草はあるが初めは浅いところで薬草採取をする。
「お姉ちゃん僕こんなにとったよ!」
ライルは小さめのカゴにいっぱい入っている薬草をリーナに見せる。
幼いながらも元々物覚えが良いライルはすぐに薬草とそうでないものがある程度見分けがつくようなっていた。
「すごいわ、ライル。これくらいあればお母様のお薬を明日の分まで買えるわ」
対してリーナはライルの二倍くらいはあるであろうカゴが既にいっぱいになっていて二杯目に入っていた。
浅いところで取れるものは基本風邪薬とかにしかならないようになものしか生えておらず、売っても大した金額にならないが、今回は運が良かったのか薬草がたくさん生えている場所を見つけることができたようだ。
不意にライルの動きが止まった。
「ライル?」
「・・・・」
ライルの返事はない。
リーナは弟の異変に気付き近づく。
「お姉ちゃん!こっちに何かある!」
そう言って急にライルは立ち上がり走り出す。
「待って!ライル!1人で先行かないで!」
リーナも慌てて後を追う。
小さい体故に小回りが効くため、リーナをどんどん離して先に行ってしまう。
「・・・。」
とうとうライルが立ち止まりリーナもやっとの事で追いつく。
「はあ、はあ、はあ」
息を整え、ライルの視線の先を見るとそこには、
「きゃあ!」
血だらけの人間が倒れていた。
そして周りには見たことのない四角く大きな物体と荷物らしきもの。
「ひどい、、、この傷は魔物に、、?」
それにしては爪で引っ掻かれたような傷も噛まれたような傷もなく、どちらかというと打撲や鋭いもので切られたようなものや、金属の破片のようなものが刺さっていた。
出血はかなりしているようだが、微かに呼吸しているのがわかる。
またこの人の荷物らしきものには小さな傷が何箇所かあったが、破損等なさそうであった。
「こんな傷跡は見たことないわ。金属片が刺さっているってことは人にやられたのかしら・・・」
人間にやられたとしたらこの人は犯罪者や、命を狙われるような立場の人というようなことになる。
そんな人と関わったということが相手に伝わってしまうとリーナ達も狙われてしまう可能性が高くなってしまう。
リーナだけならいいが、まだ幼い弟や体の弱い母親までも巻き込んでしまうという可能性が、リーナの行動を妨げていた。
そんな時ふと母親の言葉を思い出した。
「困っている人がいたら手を差し伸べなさい。怪我をしている人がいたら手当てをしてあげなさい。お腹を空かせている人がいたら食べ物を分けてあげなさい。いつか必ずその人はあなたが困ったときに助けてくれるはずだから。」
レオナはいつもこの言葉をリーナとライルに言い聞かせていた。
「・・・・。ライル今から薬屋に行ってこの薬草を売ってきて。それでもらったお金で切り傷用のお薬を買ってきてちょうだい。ローブはしっかり被って顔を隠していくのよ」
「うん!僕お使いできるよ!待っててね!急いで行ってくるから!」
心配な気持ちはあるが、重症人を置いて離れるわけには行かない。
走るライルの背中を見送って、リーナは倒れている怪我人をもう少し城壁より離れたところにはこぶ。
そうなると必然的に森の奥に入るしかなくなってしまう。
だが、城壁に近い場所だと人目につきやすく、リーナ達の正体も、倒れている人に怪我を負わせた人にも気付かれてしまう可能性が高くなってしまう。
それならまだ奥の方といっても、いつもの薬草採取エリアよりも少しだけ奥に行き、危険な魔物が出ないエリアで応急処置をすることにした。
枯れ葉を枕がわりにして怪我人を寝かせる。
その後、怪我人の荷物も一緒に移動させる。
「おっも、、これは一体なんなのかしら、、、危険なものじゃなければいいのだけれど、、、」
高さが膝あたりまでの木が生い茂る場所を選び、出血がひどい箇所の止血をするために来ていたワンピースの裾を破り応急処置をしてライルを待つ。
手当てをしていく中で、怪我人の性別が女性であること、そして彼女の荷物の形状、そして彼女が着ている服装は今まで城内部でも、王都でも皆ことがない物だった。
「この人は一体何者なの、、、?」
一抹の不安を抱えながらも目の前の怪我人に手当てに集中するのであった。