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送り火  作者: Toshiro take
6/10

6

「何だよ、祟りって…」

大の字になって寝転がっていた了は、空を見上げながら言った。

「訳わかんねぇよ。」

了が呟くのを、牧野は膝を抱えながら聞く。またしばらく沈黙が流れる。今度は牧野が口を開く。

「どうする?一回浜崎が行った通り、あの家に帰る?」

牧野は寝転んだまま応えない。牧野も了の考えていることは分かっていた。

ー他の人に言うことなんて、ない。期待してたのなら残念。

浜崎の言葉が頭で再生される。突き放したような口調だった。

「何もないってそりゃ無いだろ…!」

震えた声で了が呟く。牧野は何も言わなかった。何も言えなかった。了がどんなに一年間苦しんできたのか、分かるとは言えないまでも、喧嘩した時に少しは感じた。どんなに辛く、どんなにもどかしい思いをしただろう。その結果があの言葉では、あんまりだ。

ーそれなのに、俺は。

ちょうど今日、この上の神社で放った言葉を思い出す。

ーお前らがそんなんだから、浜崎はここを出て行ったんだよ。

今更ながら後悔した。何と想像力の、思いやりの欠けた言葉だったのだろう。牧野は顔を膝につけ、目を閉じた。放った言葉は取り返せない。

「ごめん」

結局出て来た言葉はそれだった。これでは何を謝っているのかも分からない。顔を上げて、何か付け足そうと思ったら、了がそれを遮った。

「…お前は本当に、美智子の死に関係なかったのか?」

牧野は静かに頷いた。今度は嘘じゃない。了はハッと笑いながら言う。

「じゃあ、お互いに一回ずつやらかしたってことだな。」

牧野もつられて笑う。

「一回どころじゃねえだろ。」

二人とも、むくりと起き上がった。スーツは汗びっしょりで、気持ち悪かった。牧野は了に手を貸し、立ち上がる。

「で、どうする。いつまでもここにいるわけにもいかねえだろ。」

それを聞いて了は、瓦礫で塞がれた前方を見る。動かしてどうこうできる規模でもなく、少しでも動かせば一気に崩れそうである。

「とりあえず家に帰らないことにはな…」

そう言っていると、了のポケットで電話が鳴り始める。

「母さんだ。」

そのまま電話を取ろうとしたので、牧野は了を肘で小突いた。

「音声。スピーカにして」

了は頷き、音声をスピーカにする。通話ボタンを押すと、

「了!今どこにいるの!」

急に電話から大声が流れたので、二人とも耳を塞いだ。堀木母の声だ。

「大切な儀式の途中に、あんたって子は…!!今すぐ帰って来なさい!今どこ!?」

激しく怒った様子だった。爆発があったんだから、息子を心配するのが先じゃ無いのかと思ったが、黙っていた。

「母さん、ごめん。今神社の下に…」

電話はしばらく音を発しなかった。しばらくして、震える声で堀木母は言い出す。

「あんた、もしかして…さっきの爆発…」

「母さん?」

「あんた、なんてことを…!」

「違うよ、別に俺がやったとかじゃ…!」

次の瞬間、堀木母は電話の向こうで怒り狂って叫び出した。了も必死に弁明するが、堀木母は聞く耳を持たない。怒りすぎてもはや何を言っているのか聞き取れなかったが、最後に言った言葉はかろうじて聞き取れた。

「覚悟していなさい!今警察呼ぶから!」

そう言ってブツリと電話を切った。

「母さん!くそっ」

了は憎々しげに携帯を戻した。堀木母の怒り様は、親が子を叱るそれではなかった。まるで、心から憎んだ相手を罵るような口調であり、完全に了を傷つけるための言葉選びだった。

「すげえ怒ってたな。警察呼ぶって…マジか?」

了はため息をついた。

「あの親ならやりかねない。父さんは母さんの言いなりだしな。」

「どうする?大人しく捕まるか?それとも…」

言い終わらないうちに、瓦礫の向こうから声がした。咄嗟に牧野は口を閉じる。

「この向こうにいるのか?おーーーーーい!戻れ、ガキども!」

堀木家にいた親戚の声。それも、一人じゃない。何人も来ている。複数の懐中電灯の光が近づいているのが見えた。

「逃げる。俺はこのままじゃ終われない。祟りだとか訳わかんねぇ事言ってるあいつの、美智子の目を覚ましてやる。」

了はまっすぐな目で牧野を見つめて言った。牧野も頷く。よしっと了は小さく呟く。

「まだ走れるか?牧野。」

「ああ。いける。」

「階段上がって、森の中に逃げるぞ。街に出たら確実に捕まる。」

二人は、階段を駆け上がり始めた。海の遙か向こうで、警察官を乗せたであろうフェリーが走っていた。


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