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エピローグ

ここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございます!!

誤字報告、感謝申し上げます。

感想や評価、お待ちしてます。


 お爺ちゃん先生こと豊田先生は、有名大学の名誉教授という肩書を持っていた。

 その肩書の重みは、トモキたちにはよく分からなかったが、とにかく偉い人だということは感じた。学年主任がペコペコする位なのだから。


 なんでも豊田名誉教授は、スーパーなどのお客さんの動きを、日本で初めて分析した人だそうで、今回のトモキたちの発表は、彼のツボにはまったものだったらしい。特に、「チラシを見て買い物に来た人の数」は、良いデータだったとあとで聞いた。


 発表が終わった次の日の放課後、トモキたちグループメンバーは、まっちゃんから教室に残るように指示された。

 クラスのみんなが帰ったあとに、まっちゃんがやって来た。


 その後から、アイカが胸の前で手を組みながら入ってくる。


「佐々木さんが、君たちに言いたいことがあるそうです。ほら、佐々木さん……」


 アイカは頭が膝につくくらい、体を折り曲げた。


「ごめんなさい!! 模造紙を黒く塗ったの、わたしなんです」


 誰かがひゅっと息を呑む。

 トモキは特別驚かなかった。

 なんとなく、そうかなと思っていたのだ。


 アイカは頭を下げたまま、謝り続けた。

 途中から、ぽたぽたと、床に雫が落ちた。


 カタンと音がする。

 シノブが立ち上がり、すうっとアイカの側に行く。


「どうして、あんなことしたの?」


 シノブの声は、アイカを責めてはいなかった。

 アイカは顔を横に振りながら、ただ、ゴメンと言った。

 シノブはアイカを真っすぐに見つめる。


「アイカちゃん、お見舞いに来てくれたじゃない。私が入院してた時」


 アイカはキョトンとする。


「お花を、持ってきてくれたね」


 アイカは無言で頷く。


「嬉しかった。丁度、特別治療室から、普通の病室に戻ってきた時だったし。まだ、ベッドに寝たままだったけど」


 アイカは鼻をすする。


「あの時ね、もともと花瓶に活けてあったお花、少ししおれていたの。そしたら、アイカちゃん、『ハサミ借りるね』って、萎れたお花の茎を、ちょっと切ってくれて、自分が持ってきたお花と一緒に活けてくれたの」


 アイカも何かを思い出したような表情になる。


「そしたらね、萎れたお花、ピンってなって、もう一度上を向いたの。それを見た時、本当に嬉しかった。私ももう一度、学校に行けるんじゃないかって!」


 アイカは目を閉じる。アイカの目尻を涙が流れる。


「だから私、今ここにいる。学校に戻って来れた。私を励ましてくれたの、アイカちゃんだよ。そんなアイカちゃんが、理由もなく嫌がらせするなんて、私は信じない」


「あいちゃーん!」


 叫んだアイカは、シノブの胸に顔を埋めた。

 泣きながらゴメンを繰り返すアイカを、誰も責めなかった。

 アイカは誰かに頼まれたのか、誰かのためにやったのだろう。


 アイカを使ってふざけたことを行った張本人は、廊下で教室の様子をうかがっていた。

 アイカの泣き声とシノブの話を耳にした彼は、俯いてその場を離れた。


「今は話せなくてもいいよ。話せる日がきたら、そっと教えてね」


 アイカに向かって微笑むシノブは、まるで陽だまりのような温かさに満ちていた。思わずトモキは見とれてしまう。


 そういえば、アイカはシノブを『あいちゃん』と呼んだ。

 シノブの苗字は相川だから、『あいちゃん』なのか。

 シノブは『アイカちゃん』と呼んでいる。


 ここに至って、トモキはハッとする。

 消しゴムにかけたおまじない、トモキはアイカを想って、『アイちゃん』と百回書いたのだが、消しゴムが選んだ相手は、アイカではなかったのだと。




 幾たびか、季節が巡る。


 トモキは中学生になっていた。

 小学校の隣にある、市立の中学校に進んだ。

 五年生の時のグループメンバーも、結局皆、同じ中学校に進学した。


 あの発表が豊田名誉教授に認められたため、西口と戸田は時々豊田先生の研究室に通い、大学生らと一緒に、何かの研究に参加している。二人の口振りだと、中学校の勉強よりも面白いらしい。


 ユウナは中学でテニス部に入り、一年生の時からレギュラーになっている。いつもこんがりといい色に焼けている。


「おはよう」


 トモキが教室に入ると、シノブがトモキを見上げて声をかける。

 トモキの背丈は、今ではシノブより五センチくらい高い。

 

「持ってきたよ」


 トモキはカバンから、姉の買った雑誌の切り抜きを取り出す。


「ありがとう! ああ、やっぱり可愛い!」


 それは読モ特集記事である。

 アイカが目にブイサインを作って映っていた。

 彼女は小学校を卒業すると、モデル事務所に所属した。


 可愛いを連呼するシノブも、小学校の時よりも顔の輪郭がしまり、メガネを替えてからは、瞳がくっきりと見える。


「なんだよ、アイツ、結構可愛いかったんじゃん」

「関取とか、呼べないじゃん、もう」


 中学生になってから、ケンタやヨウイチはそんなことを言っていた。


 シノブの話では、病状が良くなってきたので、強い薬を減らすことが出来たそうだ。

 顔がぱんぱんに丸かったのは、薬の副作用だったのだ。


「今日、部活行く?」


 トモキがシノブに訊く。

 二人は写真部に入った。


「うん! 今度シュン君の試合撮りに行くから、打ち合わせしないとね」


 あの発表のあと、シュンはいきなり、坊主頭になって登校して来た。そしてスポーツの盛んな私立中へと、一人進学していった。


 ところで、トモキとシノブは、隣の席同士である。

 だから、授業中、トモキはこんなセリフを言ったりする。


「ねえ相川さん、ちょっと消しゴム貸してくれる?」



 了



子どもは本業の対象です。

ネガティブな現象も発生していますが、子どもたちの持つ潜在能力は、大人の想像を遥かに越えていると思うことが、よくあります。

この国に生を受けた子どもたちは全員、幸せに健やかに成長して欲しい。

そんな気持ちで書かせていただきました。

お読みくださいました皆様、評価を下さった皆様、厚く御礼申し上げます。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。いろいろなところを転々として読ませていただきました。 みんなの心の変化。 トモキが最初の時より明るくなってましたね。 いろいろなことを乗り越えて強くなる絆。 短い連載でも、それ…
[一言] 黒塗り事件を騒ぎ立てなかった先生。 スーパー調査を評価したお爺ちゃん先生。 こんな先生が、こんな指導者が、現実世界にもいたら。 生身の小学高学年。ちょっと吉田としさんの作品を思い出しました。…
[良い点] 主人公トモキ君の、五年生ならではの心のひだが丁寧に書き込まれていて、すごく読みごたえがありました。登場する子どもたちが、みんな、大人のミニチュアでもなく、さりとて、天使やお人形のような「子…
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