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なんとかする気持ち

いつもありがとうございます。

誤字報告、恐れ入ります。

今回、やや長めです。


 朝の教室は騒然としていた。

 登校してきた級友たちは、声をひそめて着席する。


 トモキの次に登校したシノブは、真黒な模造紙を見た瞬間、座り込んだ。

 口を押えて声を殺して、シノブは涙を流した。


 西口や戸田、ユウナは、憤りを隠さなかった。


「誰がやったんだよ!」


 西口は、唾を飛ばしながら怒鳴った。

 ユウナはシノブと抱き合って、「なんで、こんな……」と呟いた。



 戸田がかすれた声で言う。


「発表、どうしよう」


トモキの拳は震えていた。


 シノブの涙。

 ユウナのしゃくりあげる声。

 西口の怒り。

 戸田の絶望。


 こんな姿を見るために、やってきたんじゃない。


 一緒に考えた。

 一緒に歩き回った。

 そして。

 一緒に、笑った。


「いやだ!」


 思いもかけず、トモキは大きな声を上げた。


「こんなことで諦めるの、俺はいやだ!!」


 シノブがトモキを見上げた。

 ユウナの泣き声が止まった。

 西口の顔が変わった。

 戸田の目に光が点った。


「そうだ」

「まだ、時間はある」


 ユウナとシノブは涙を拭った。


「うん、模造紙、もう一枚貰ってこよう」


 ユウナとシノブが職員室に向かう。

 残った西口と戸田は、グラフや表の下書きを取り出す。


「間に合うかな」


 不安そうな二人。


「間に合わせよう」


 トモキは二人に言った。

 間に合う保証はない。

 だけど、なんとかするんだ。


 チャイムが鳴り、模造紙を抱えたユウナとシノブが、まっちゃんと一緒に教室に入ってきた。

 まっちゃんも、黒く塗られた模造紙を見て顔を歪めた。


「皆さん、おはよう。今日は元々、一時間目は発表の準備をする予定です。言いたいことはいろいろあるけど、まずはグループに分かれて、準備をしてください」


 まっちゃんは、トモキたちのグループに真っ先にやってきた。

 そして、いつもよりも硬い声で

「間に合いそうか?」

 と訊いてきた。


「グラフ書き直すのが、難しいかも」


 戸田が言う。


「発表原稿は出来てるから、サイアク模造紙なしでも」


 西口が答える。


 そう、発表自体は多分出来る。

 ただ、他のグループのように、写真やイラストを多用した模造紙がないと、きっと見劣りするだろう。


 トモキの隣で西口が言う。


「ゴメン。昨日俺が言ったこと、忘れてくれ」


 そうか。西口の将来もかかってるんだ。

 なんとかしないと。

 なんとか、俺に出来ることはないか。

 何かないか。


 トモキは何かないかと思いながら、ランドセルの蓋を開ける。

 発表用原稿を取り出そうとして、手に当たるものがあった。


「ああ!」


 トモキが再び声を上げた。

 その声は、さっきまでの暗いトーンとは明らかに異なっていた。


「まっちゃ、じゃなくて、松永先生! ほら、アレ、なんだっけ、写真を、ぱあっと出すヤツ!」


 トモキがランドセルから取り出した、デジカメを手に担任を呼ぶ。

 デジカメを見た西口も、「あっ」と声を出す。


「そうか、書き直さなくて、これならなんとかなる!」


「はいはい、佐藤さん、落ち着いて喋ろうな。で、何? 写真をぱあっと出す?」


「プ、プロジェクター!」


 シノブが正確な名詞を言った。


「プロジェクター?」

 

 まっちゃんの怪訝そうな声にかぶせて、トモキが言う。


「俺のデジカメ、取材に行った時から、図とか表とかをまとめるトコまで、写してある! 全部!」




 一時間目と休み時間をフルに使って、トモキ達はなんとか発表準備を終えた。


「ギリだったな」


 戸田がほっとした声を出す。


「やれること、やったよ、俺ら」


 西口はポンとトモキの肩を叩く。

 女子二人は、トイレに駆けていった。


 三時間目のチャイムと同時に、まっちゃんを先頭に、学年主任とコンピューター指導の先生が教室に入る。

 コンピューター指導の先生は、いつも低学年を教えているので、トモキたちとの接点は少ない。なんとなく若い先生をイメージしていたが、やって来たのは、トモキの祖父と同じくらいの、お爺ちゃんだった。


 発表はシュンやアイカのグループから始まり、学年主任とお爺ちゃん先生は、うんうん頷きながら、メモを取っている。


 一つの発表が終わると、まっちゃんが、主任とお爺ちゃん先生に質問をふる。

 それに対して発表したグループのリーダーが答える。

 その質疑応答も、評価に入るという。


 いよいよ、トモキたちの番になった。

 後ろの黒板に白い模造紙を貼り、教室のカーテンを閉め天井のライトを消した。


「僕たちのグループは、住んでいる地域にある、二つのスーパーマーケットを調査しました」


 最初は西口が喋る。

 それぞれのスーパーの写真がプロジェクターから映し出される。


「買い物をする時に、チラシを見て来る人が、何人いるか、お店の外で聞き取りをしました」


 ユウナやシノブが、聞き取りをしている写真が続く。


「結果、駅前のスーパーでは、チラシを見て買い物に来ている人が二十人中、五人。チラシの代わりにスマホのアプリを利用して、安売り商品を買いに来た人は、三人でした」


 駅前にあるスーパーの特徴はユウナが、近くのスーパーの特徴はシノブが、それぞれ発表する。

「住宅地の近くのスーパーでは、チラシを見て来る人が、二十人中、十二人でした。この土地に密着しているスーパーの方が、チラシの効果は高いと思います」


 最後のまとめは戸田が行う。

 グラフと表が映し出される。

 内容は、駅前のスーパーで、一番買われているのは、お惣菜であり、住宅地のスーパーでは、肉や魚、野菜といった具材が買われている。駅前のスーパーに立ち寄るのは、仕事帰りの人が多いため、家に帰ってすぐに食べられるものが買われやすく、住宅地のスーパーでは、自宅で料理をする人が多いのではないかというグループ全体の推測だった。


 発表は、あっという間に終わった。

 お爺ちゃん先生から、質問があった。


「なんで、スーパーを調べようと思ったの?」


 西口が、ちらっとトモキを見た。

 トモキは唾を飲み込んで答えた。


「住んでいる場所の特色と、生活について学ぶ、というテーマだったので、オレ、いや僕にとっては、スーパーって自分の生活に、スゴく身近だった、からです」


 フォローするように西口が付けたす。


「この辺は、都心で仕事をしている人が多いので、駅前で買い物を済ませる人が何を買うか、興味がありました」


 お爺ちゃん先生は、にこにこしながら、うんうん頷いた。





 グループ発表の結果は、その日のお昼休みの校内放送で行われた。


「五年一組の代表は、『サッカークラブチームの実態』です」


 学年主任の声であった。


 トモキも他のメンバーも、鼻から息を吐いた。

 やり切った感はあるが、代表になれなかったのは残念である。

 それでもみんな、拍手を送った。


 シュンがガッツポーズを取った。

 その横のアイカは笑顔だったが、あまり嬉しそうには見えなかった。


「以上、五年と六年の代表が決まりました。ここで、特別賞の発表があります。では、コンピューターを教えに来てくださっている、豊田先生から発表していただきます」


 へえ、特別賞なんてあったんだ。

 そんな声がちらほら聞こえる。

 トモキもそう思った。


「今回の皆さんの発表、どれも素晴らしかった。小学生が自分たちでテーマを決めて、調べ方も考えて、しっかりとした結論まで出している。僕は大変感動しました」


 お爺ちゃん先生は、一回言葉を切った。


「特別賞は、五年一組の『わたしたちの街のスーパーマーケットの調査』にあげたいと思います!」


 トモキたちの教室はシーンとなる。


 トモキには、お爺ちゃん先生が言った内容が、よく分かっていなかった。


 パチパチと、まばらな拍手が起こる。

 まっちゃんが白い歯を見せて言う。


「良かったな! おめでとう!」


「やったああ!!」


 戸田が叫ぶ。

 シノブとユウナがまた抱き合った。


 西口がトモキに飛びついた。


「やったな、お前のデジカメのおかげだ! トモキ」


「う、うん。よかった。よかったな、よかった」


 

 大きな拍手が沸き上がる。

 よかったよかったと呟きながら、いつしかトモキは泣いていた。



文字数の関係で、エピローグが一話分だけ続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハラハラどきどきして、手に汗握って。 シノブちゃんの口を押えて声を殺して、という描写で、おさえてた涙が溢れてしまいました。 グループメンバーの憤りや絶望が、ものすごく伝わってきて、どう…
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