表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

悪意の色

いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。

誤字報告、恐れ入ります。

感想や評価、ありがたく頂戴します。

 トモキたちのグループワークは、順調に進んだ。


 トモキとシノブは、トモキの母がパート勤務をしているスーパーへ「取材」に出かけ、母の同僚たちと顔見知りになる。

 取材で聞いた内容はシノブがメモを取り、トモキはデジカメでいろいろな角度から写真を撮った。カメラを扱うのは、元々好きだった。

 シノブはそのスーパーの常連さんで、パートのおばさんたちから可愛がられていたため、『ここだけの話』をたくさん聞き出せた。


 取材に行き来する道中、トモキはシノブと話す機会が増えた。


「相川さんも、受験するの? 中学」


 シノブは薄く顔を赤くしながら答える。


「ううん。このまま市立の中学に行く予定」


 体の問題があるからと、シノブは付け加えた。何かあったら、すぐに誰かに迎えに来てもらえる距離がいいのだと。


「佐藤くんは?」


「同じだよ。フツウに市立中。『受験なんて、お金がもったいない』って、かあちゃんに言われた」


 シノブは笑う。

 その笑顔が可愛いと、最近トモキは思う。思うが誰にも言っていない。

 『関取』と揶揄される女子のことを可愛いなどと言ったら、周りの男子から何を言われるか分からない。


 アイカは、やっぱり可愛いと思う。

 フリルやリボンがついているパステルカラーの服装は、女のコっぽいし、アイカが体操着になった時は、胸や脚をつい眺めてしまう。

 ただ、シュンの話をトイレで聞いてからは、無理に距離を縮める気はなくなっていた。


 十月の初めの頃、グループワークの内容をまとめて、クラス内で発表を行うことになっていた。

 五年生の学年主任の先生や、コンピューターを教えてくれる先生も発表を見にくるそうだ。

 それぞれのグループは、模造紙に調べたことをまとめ、あらかじめ教室内に掲示する。


「クラスでさ、一番良い発表したものが、五年の代表になるんだって」


 模造紙にまとめた表を貼りながら、西口が言う。


「へえ。代表になったら、何かあるの?」


 トモキが訊くと戸田が答えた。


「五年と六年の代表になったら、市の大会に持ってって、発表するらしいよ」


 ユウナが声を弾ませる。


「選ばれるといいね! ウチラ」


 数日後、教室の後ろに、すべてのグループの模造紙が掲示された。


 アイカとシュンのグループは、市内のサッカー競技場の写真と、J1リーグ選手へのインタビューで構成されていた。


「俺のお父さん、クラブチームに知り合いがいるんだ」


 シュンはアゴを上げて言う。

 シュンと仲の良い男子たちが、周りに集まって、「スゲー」とか「決まりだな」とか言っている。

 アイカもシュンの横で、にこにこしている。


 ただ、トモキにはシュンのグループの出来が、それほど良いとは思えなかった。

 スタジアムの写真はどこかの雑誌と同じアングルだし、選手へのインタビュー内容は、スポーツ新聞の記事みたいだ。

 小学生が知りたい内容とは、違うような気がする。


「トモキ、どう思う? シュンたちの発表」


 戸田に訊かれてトモキはそう答えた。


「佐藤くんだったら、選手の人たちに、どんな質問してみたい?」


 シノブに訊かれて、トモキは素直に答えた。


「そうだなあ、『野球部とサッカー部、どっちがモテますか』とか……」


 トモキのグループのメンバーは皆笑う。

 やり切った、今ある力を出し切った者たちの笑顔だった。


 シュンがちらっとその様子を見ていたが、トモキは気付かなかった。


 帰りのホームルームでは、明日の三時間目に学年主任らがグループ発表を見に来ると、まっちゃんが言っていた。


 トモキが帰ろうとしたら、昇降口で西口に声をかけられた。


「ちょっと、いいか?」


 トモキが頷くと、西口はいつもより真面目な表情でトモキに言う。


「俺さ、今回の発表、クラス代表に選ばれて、市の大会まで行きたいんだ」


「それは、どうして?」


 西口の眉に力が入る。


「俺、中学受験するんだけど、行きたいのは市立の六年制なんだ。ていうか、そこしか受けない。授業料安いから。市立の六年制は小学校時代に、何か表彰されていると有利になるんだ。俺、運動も絵とかも、表彰されたことなくってさ」


 実はトモキは、クラスの代表になるとかは、あまり気にしていなかった。

 みんなで意見を交わしながら、何かを作り上げていく過程が面白かった。

 ただ、熱心に取材内容をまとめていた西口がそう思っているのなら、少しでも力になりたいと思った。


「わかった」


 トモキが言うと、西口の表情が和らぐ。


「じゃあ、明日」

「うん、がんばろう」


 翌日、トモキは早めに登校した。今朝はまだ、シノブも来ていない。

 正直、グループのメンバーで足を引っ張るとしたら、自分であるとトモキは自覚している。

 だから、分担している発表内容を、模造紙を見ながら練習しようと思っていた。


 教室の戸を開けて、教室の後ろを向く。

 七つのグループの模造紙が、後ろの壁を埋めている。

 トモキたちの模造紙は、窓に一番近いところに貼ってある。


 そこまで歩いていった瞬間、トモキは目を疑った。


 トモキらのグループが貼った模造紙が、真黒な一枚の紙に変わっていた。

 墨かペンキか分からないが、みんなで作った発表用の模造紙は、黒い色で塗りつぶされていた。


「うああああああ!!」


 トモキは我知らず叫んでいた。


 みんなの努力が、熱意が、笑いが、黒く変性していた。

 未来への希望までが、悪意の色で消されてしまったのだ。


近年、公立高校が中学部を増設し、六年制の学校に変えていたりします。

トモキらの市でも、そのような六年制の学校がいくつかあり、授業料は安いため倍率が非常に高いです。

次回、完結。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今の子どもさん達は、かなり早い時期から中学受験の対策をするとは聞いていたけれど、大変だなあ。 授業のグループ研究にも影響したりするんですね。 担任の先生も、対応難しそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ