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第八話

(今日はエリオスの意外な話も聞けたし、これはこれでよかったな)


 エリオスのこと然り、お勧めの店然り。やはり現地の人に話を聞くと、色々と知ることが出来る。知らないことを知ることは、とても楽しい。

 その晩、夕食の時間を前に、ライラは一通の手紙をグレーテから手渡された。近所に住む伯爵夫人から、二日後のお茶会への招待状だった。


「せっかくの御誘いだもの。うん、行こうかな」

「了解いたしました。では、そのようにご返事いたしますね」

「よろしくね」

 

 誘ってくれた伯爵夫人は、とても話上手な人だ。大公領に帰るまでの楽しみが、また一つ増えた。

 ライラはグレーテに返事の手紙を託すと、夕食のために部屋を出た。


「お、ライラ。ちょうどいいところに来たな」


 ライラが夕食のために食堂に入ると、そこにはすでに二人の姿があった。

 夜遊びや個人行動が多い貴族にとって、家族揃っての食事は少ない。それは権力と財力を持つ上級貴族であるほど顕著な傾向にある。

 しかしオスト家は、昔から出来るだけ家族揃って食べるのが当然であり、エリオスが王都で暮らすようになってもそれは変わらない。むしろ滅多に会えない家族だからこそ、数少ない機会を大切にしている。

 それはこうした食事の場は貴重な家族交流の場であり、重要な情報交換の場でもあるからだ。


「あら、父上。何かあったんですか?」

「いやいや、あったと言うかこれから起きると言うか……」

「?」

「父上は今日、ベルンハルト様とお会いしていたのでしょう。何かお聞きになったのですか?」


 運ばれてきた温かいスープを飲みながら、エリオスが言った。その指摘にアドルフが嬉しそうに笑う。


「当たりだぞ、エリオス。あのな、お前たち。クルトは覚えているか?」

「勿論よ。……まさか、クルト殿に何かあったの?」

「まあな。エリオス、明日から頑張れよー? あの坊っちゃんはかなり手強そうだ」

「……は?」


 アドルフの哀れみを含んだ言葉に、エリオスはスプーンをテーブルに置いて、父をじっと見つめた。


「『正式な出仕はまだ早い。が、ノルト家の男子が自ら望むとあれば、騎士として勤めないわけにはいかない』とのノルト公のお言葉だそうだ。よって、明日から蒼の騎士団に仮入隊だと」


 その言葉に、エリオスは絶句した。なんだそのハチャメチャな入隊理由は。あれだけ入隊させないと言っていたくせに。


「……殿下の、許可は」


 何とか声を絞り出して問うも、その声に力強さはない。答えが予測できているのだろう。


「明日からとなれば、当然あるだろう。あの狸ジジイたぞ? ただ、ランスの許可は昨日とったとよ」

「くそっ、ランスの野郎っ……!」


 アドルフの言葉に、エリオスが低い声で唸った。この反応を見る限り、エリオスはクルトの情報を何も伝えられてなかった、ということだろう。


「もう、ランスったら……。なんで言ってくれないのかしら」

「言い忘れか暇潰しの二択ですよ、姉上。今回は後者に決まってる、なにせ第二部隊の人事は俺の管轄ですからね。あの野郎、団長権限で無理やり押し通しやがったな……!」

「……。その、今度会ったらちゃんと一言、言っておくわね」

「ええ、一言と言わずにみっっちりとお願いします」


(ランスの野郎、絶対に明日、朝イチでぶん殴る!!)


 エリオスの背後には、どす黒いものがメラメラと燃えたぎっていた。


「ははは、俺に感謝しろよエリオス。前情報があるのと無いのじゃ、心構えがかなり違うだろう?」

「ええ、今回は素直に感謝します、父上。あいつの勝手な行動はよくある事とはいえ、事態が大きすぎますからね」

「エリオス、大丈夫?」

「姉上、ご心配には及びません。クルト殿は良い方です。問題は全てどこかの色惚け男ですから」


 エリオスは怒りに手を震わせ、落ち着こうとして飲もうとした紅茶のカップが、受け皿とぶつかり合ってカタカタと音を立てている。

 何とかお茶を口にした後も、エリオスの目は据わったままだった。


「……クルトは本当に問題なしか?」

「当たり前です。以前お会いしたとき、それは自身で判断しました」

「ほう。……クルトが外遊に行っていた理由をよく考えろよ」


 その言葉にエリオスはビクッ、と音を立てて固まった。


「大丈夫ですよ、父上。ええ、大丈夫ですとも。クルト殿は少し口下手ですが、非常な優秀だ。それだけです」

「そうかぁ? ま、明日になれば嫌でも分かる。楽しみにしておけ」


 ――ちくしょう。

 そう思いながらも、エリオスはアドルフに何も言い返すことは出来なかった。


「……そう言えば姉上、明日のご予定は?」

「私? 明日は特に無いわ。明後日はお茶会のお誘いを頂いたから、そちらに行こうと思ってるけど」

「あ、俺は寝てるぞ。もう出歩くのは嫌だからな」

「「父上」」


 アドルフの引きこもり宣言に、子供たちから容赦のない、キツイ視線が向けられた。その白い目と無言の圧力に、流石のアドルフも言葉に窮したのであった。


「わ、分かったよ。そうだ、俺も明後日からは誘いも受けるから。な? だから明日くらい休ませてくれよ」

「……まあ、ベルンハルト様中心とはいえ、少しは出て歩かれたようですし。これで今年の『実は大公もう死んでる説』はもう回避できるか……」

「やだ、エリオスったら。それ発端はうちの使用人だったやつじゃないの! ーーでも約束ですよ、父上。王都はあと数日だけなんですから」

「へいへい」


 そうして賑やかに夕食を終えた後、ライラはさっそく明後日の準備を初めていた。

 お誘いをくれた伯爵夫人は所作や衣装の美しさでも有名な人物だから、お茶会に集まる人々も同じように洗練された人々のはず。手を抜くわけにはいかない。

 普段は男装などの動きやすい服装を好むライラとはいえ、年ごろの乙女であることに変わりはない。そうと決まれば、俄然、準備に熱が入る。


(グレーテに頼んだリボンは見つかったかしら)


 そこに、扉をコンコンとノックする人物があった。グレーテだ。


「姫様、失礼します」

「グレーテ、あのリボンはあった?」

「はい。それと、このリボンに合わせるのでしたら、この前つくられた空色のドレスはいかがでしょう? 伯爵夫人は緑色を好まれるとのことです。ですから……」

「そうね、同じだと困るし。そうするわ」

「では、宝飾品などは私どもがいくつか見繕っておきます。明日、ドレスと合わせましょう」

「分かった。お願いするわ」


 こうしてグレーテ一押しのドレスを着ることにして、ライラは今日の用意を終える。

 その後、就寝前の身繕いを手伝っていたグレーテが、ライラの柔らかな髪をブラシで梳かしながら言ってきた。


「そうだ。姫様、明日は若君のお帰りが遅くなるとの事です。先ほど使用人たちに伝令がありました」

「そうなの。エリオスは最近、仕事が大変みたいだものね。……まあ、明日は特別だけれど」

「あら、何かご存知なんですか?」

「ええとね、新入隊員の方が来るのよ。けどランスが決めたことだから、知らなかったんですって」

「……。ああ、それは若君も大変そうですね……」


(明日、何もなければいいけど……)


 使用人すら理解しているランスの無茶ぶりに、エリオスはどこまで耐えられるのか。

 ライラはそれだけが心配だった。

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