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第二十一話

※本文には残酷描写が含まれます

 オリバーは大人しく捕縛され、残党もすでに騎士が抑えた。それを確認してから、室内にライラの剣を見つけたエリオスは部屋を出る。

 捕縛するしかないと分かっていても、やはりオリバーの手に縄がかかるところを見るのは辛い。


「姉上、こちらを……」


 エリオスから剣を受け取ったライラには、何も言わすとも、その気持ちが痛いほどよく分かる。

 守りたかった、守れなかった、何も出来なかった。


(私たちは、まだ幼く、弱い……)


 四家だ貴族だと尊ばれようが、その力は強力な面を持ちつつ、信じられないほど無力な面がある。

 力があるからこその絶望。それに立ち向かうだけの強さは、まだ無い。


「……エリオス。私、オリバーにお別れの言葉を言ってくるわ」

「はい、姉上。では私は、隊に指示を出していますので」

「うん、わかった」


 そうしてライラは、ちょうど部屋から出てきたオリバーのもとへ行った。


「あ、姉姫様。こちらは……」


 怪我を負った男たちが呻く凄惨な現場を背後にして、オリバーはライラの視界に入るのを防ごうと入り口を体で塞いだ。

 ライラもその意味を察し、そのまま入り口で立ち止まる。


「一言、お礼が言いたくて。ーー約束守ってくれて、ありがとう」


 ライラの言葉と笑みに、オリバーが思わずポカンとした、その時。


「うおぉおおおっ!!」

「「!!」」


 突如、捕らえたはずの一人の男が縄から抜け出して暴れ出し、近くにいた騎士に襲いかかった。

 不意をつかれた騎士は剣を奪われ、男は振り返った先の人物ーーライラに襲いかかった。



「姉姫様!」



 ーーああ、やはり罪を犯した者には罰が下る。普段ならこんな一撃、楽に振り払えるのに。



(さすがに両手を縛られてはな……)


 ライラを突き飛ばして庇ったオリバーの右目には、男の剣が突き刺さっていた。


「オリバー!!」


 そんな恐ろしい場面を間近で見せられ絶叫するライラなど目にもくれず、憎しみにかられた男は、ただその衝動に身を任せる。

 弱った獲物は目の前にいるのだ。残酷にも男はオリバーの目から剣を引き抜き、とどめをさそうと振り被った。


(駄目。駄目よ。ここはエリオスも、クルトも、間に合わない!)


 だから。


「ぐあっ!」

「ライラ様!」


 ライラが双剣の片割れを抜き放ち、男の腕に斬りつけた。数秒の差で駆けつけたクルトが男に飛びつき、今度こそ捕縛する。

 エリオスを筆頭に騎士たちが駆け寄ってくるが、大量に血を流すオリバーの右目が失われたのは、誰の目にも明らかであった。


「姉上、お怪我は!?」

「私は大丈夫よ。でも、でも……!」

「私は、これで、いいのです。姉姫様、ありがとうございます……」


 泣いてはいけない。彼は犯罪者。

 でも、優しかった。大切な弟を慕ってくれた。誓いの通り、私を命をかけて守ってくれた。

 そんな今にも泣き出しそうなライラを支えながら、エリオスは呆然としていた。

 ライラの危機をオリバーが救い、その危機をライラが救った。武器を持つ相手に立ち向かうなど、いくら訓練していても、ライラは騎士ではないのだ。あまりの出来事に、エリオスは顔面蒼白になる。


 そうしてオリバーには応急処置を施し、最初の地下室を目指して騎士団は歩き始めた。

 案内役でもあるオリバーは、あまりの痛みに一人で歩ける状態ではなかったため、騎士団の一人が肩を貸して歩いていた。

 その途中、急にオリバーが近くにいたライラに、再び感謝を告げてきた。


「先ほどは、ありがとうございました。命のご恩は、命にて必ずお返し致します」

「え?」


 ニコリと笑うオリバーに、ライラは何か聞き間違えたかと思った。

 何故ならオリバーは、ほぼ処刑が確定している。この恐ろしい計画の全てを話したとしても、減刑の余地はほとんどない。せいぜい縛り首が打ち首に変わるだけだろう。

 だから、この言葉はおかしい。


「オリバー……?」

「貴女に会えて良かった」


 そこまで言ったオリバーは、突然肩を貸していた騎士団員に体当たりした。


「えっ?」

「待て!」


 オリバーの狙いにいち早く気付いたクルトが、素早い反応を見せるが間に合わず、一瞬の差で下水道の隠し扉をくぐり抜けられてしまった。ガチャン、と鍵のかかる音が響き渡る。

 まさかのオリバーの逃亡に一同面食らい、思わず立ち尽くしてしまう。


「オリバー!! なぜ逃げる?! 騎士らしく正々堂々と裁きを受けろ!」


 隠し扉に向かって叫ぶエリオスに、オリバーの返事があった。


「隊長、あとは右に右に進めば出口です」


 続いた声は、いつも明るいあのオリバーの感情が消えていた。


「俺は事件の真相など何も知りません。捕らえられたところで、何も話せない。――何も役に立てない。だからまた、いつかお会いしましょう」

「オリバー、お前……!」


 エリオスを嘲笑うでも、自分のこれからを悲観するでもない、オリバーの乾いた声。

 言葉の終わりとともに、隠し扉の向こうからは、オリバーがここを去っていく足音がしていた。その音にエリオスは扉を叩くが、頑丈な扉はびくともしない。


 こうしてオリバーは、今度こそ本当に逃亡者となってしまった。

 信じがたい出来事を目の当たりにして、エリオスに呆然と立ち尽くす。


「エリオス……。エリオス、行かなきゃダメ。あなたが進まなければ」


 耳に届いたライラの言葉に、エリオスは振り返った。

 その視線の先には、信頼する部下たちがいる。


(……そうだ。俺は『隊長』なんだ。こんなところで立ち止まってはいられない)


「……はい、姉上」


 こうして陰鬱とした空気のまま、エリオスたちは下水道を進み、最初の地下室を抜けて地上へ戻ってきたのであった。



 ライラが地上に出た途端、金糸雀が衝突するような勢いで突っ込んできた。片割れのグレーテの気持ちが伝わり、ライラを心配してくれたのだろう。

 また、エリオスは地上で待機していた隊に男たちを引き渡し、グレイの保護も引き継いでもらう手続きを行う。

 その間、グレイがライラのもとへ走り寄ってきた。その顔にはもう恐怖も悲しみもない。


「同じ顔だね! エリオスさんが二人?」

「ふふ、びっくりした? 最初に会った私はライラ。双子で、エリオスの姉よ」

「エリ……じゃないや、ライラさん、女の人なの? ライラさんって凄いね! 僕見てたよ、最後に悪い人やっつけるところ!」


 ライラだけでなく、騎士たちに囲まれてようやく「助かった」と実感したのだろう。少年の口はとても饒舌だ。興奮気味に、ライラや騎士たちの活躍を語る。

 その途中、エリオスがやってきた。


「グレイ、君にいくつか質問があるんだが」

「なぁに? えーと、エリオスさん!」

「君は王都の出身か? 親は?」

「俺、フォルクスの町の生まれだよ。まだ三歳の妹がいるんだよ。だから早く帰りたい!」

「そうか。それなら後で送らせよう。それと……」

「あっ、ギル!!」


 いきなり大声をあげたグレイのもとに、一匹の猫が走り寄ってきた。まだ小さな、灰色の子猫。


「……カタワレは、無事なようだな。何よりだ」

「うん! 俺、頑張ってギルだけは逃がしたんだ……っ!」


 己の半身を抱きしめて、グレイはボロボロと泣き始める。カタワレも無事、家にも帰れる。恐ろしいことは、ようやく終わりをむかえた。

 その少年の姿を見て、騎士たちは職務に励んだ甲斐があったと、改めて実感していた。


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