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プロローグ
ーー女が叫んだ。
「お願い、この子を助けて!」
産み月に近づいた、だいぶ膨らんだ腹で男に縋る。産まれた瞬間に死ぬ運命のこの子を救うには、この男の力を借りるしかないとわかっていたからだ。
高貴な身でありながら、髪を振り乱して叫ぶ女は、まるで気がふれたかのようだ。
そんな女に対し、男は言葉を濁して目を逸らした。
「……俺は……」
「お願いよ。この子は生きてる、生きてるのよ! ……お願い。貴方しか、私に頼れる人はいないの……!!」
女の身を切るような叫びに、男も覚悟を決めたのだろう。一つだけ大きく息を吐いて、真っ直ぐに女を見た。
「……俺に出来ることは、限りがある。だが、その子がーーなら、必ず救おう。何があろうと、必ず俺が守る。それは天地神明に誓う」
「本当に……? ありがとう、ありがとう! 大丈夫よ、この子は彼が私に授けてくれたんだもの。必ずこの子はーーよ」
そして女が涙を流した二月後。
世間から隠されて産まれた子供は、二人が望んだ通りに、いや、それ以上の姿で産まれ落ちた。
その子供は家族はもとより、国の運命をも大きく変えることとなるーー。