最愛の息子、最悪の息子
お久しぶりです。
リアルが忙しくなかなか更新できず申し訳ありません。
自身も話を忘れていたので再度読み直し、とりあえず別視点から書き始めることとします。
いつも通りよどみなく扉が開き、見慣れた自室へと戻ってきた。しかし、見慣れた光景はいつものように安心感を与えてはくれず、逆に思考の渦をより強めていく。
自分の息子の成長スピードは想像以上であった。いや、想像よりも異常であったのほうが正し言い方かもしれない。明らかに幼子のできる芸当では到底ない。私ですらあの増幅術を行えるのかどうかは怪しいし、戦争を幾度となく他国と行ってきたがそこでもあそこまでの使い手とは会ったことがない。
正直エルが教請をさぼっているから、今の実力では貴族としてなっていないと諭し教請を受けてもらうプランだったのだ。それが明らかに今のまま戦争に出陣しても通用するほどの強さになっている。我が国の貴族は十二歳で誰もが初陣を経験する。とは言っても実際は苛烈な戦いをしていない場に赴いて戦争のピりついた空気を肌で感じてもらうだけなのだが、だからと言って運悪く戦端がその時に開かれないと断言できる保証はないし、事実過去には何度かその場で戦死した子供がいる。
しかしこの国をより大きなものにするのが貴族の務めであるし、そのためには戦争に勝たなければならないので仕方のないことでもある。そして、エルは今のまま熾烈な戦いを繰り広げている戦場へ行ったとしても生き残れるほどの実力が備わってしまっている。
だが、あの子はまだ五歳なのだ。未熟な幼子とは言え国に実力がばれてしまったら必ず招集されるだろうし、将来に可能性しかない年齢の子供が戦争のいい道具になるとわかっていて放置するほど甘い社会ではない。それに他の貴族からも横やりを入れられるに決まっている。あれだけの実力のある息子を戦争に行かせたがらないなど明らかに反逆者なのだから。
かと言って私も貴族。あの実力があれば膠着状態になっている戦場の戦況を一瞬で変えられるのではないかと期待してしまう面もある。しかし幼いかわいい息子を、それも長男よりも先に出陣させるなど―――。
「はぁ~」
頭の中で思考が堂々巡りになってしまい、ついついため息がこぼれる。ただ、教鞭士からはあのような異常なほどの力に関する報告はなかった。ということは聡いエルはある程度この国の内政に関して知識を有し、隠していたということだろう。そして教請を受けないために今回は全力を出したと…。
だがあれがまだ全力ではなく、私にも見せていない実力を隠していたら―――。
その思考が頭の片隅に過ぎった瞬間全身に悪寒が走った。あまりにもあまりな、想像しがたく恐怖すら覚える考えであったために。
(いや、それはないだろう。まだ五歳だぞ、何を考えているのだ。落ち着くんだシュバイト)
そう自分自身に暗示をかけ無理矢理その思考を払いのける。だが一度刺さった棘はなかなか抜けきらず、頭のどこかには浮かんでしまい、他の思考を邪魔してくる。
(くそっ!自分自身のかわいい息子だぞ!!それに怖気を抱くなど言語道断。それに私はホルンバート侯爵家当主、シュバイト・フォン・ルー=ホルンバートだ。幾度も戦争で獅子奮迅の活躍をし功績を立てた”永炎のシュバイト”だ。恐れるものなど何もない!)
心の中で自身に生じた最愛の息子への恐怖を必死に振り払う。自らの立ててきた功績を振り返り、戦場で敵兵から畏怖を込めて呼ばれたあの輝かしい時代に思いを馳せることで。
しかし、その拳は白くなるほど固く握りしめられていた。永遠に開かないのではないかと思うほど強く、硬く―――。
ご読了頂きありがとうございます!
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