魔術のワルツⅡ
遅れてすみません。
書いて途中で止めて休憩してを繰り返したら遅くなってしまいました。
分かりにくかったら感想でおっしゃってください、頑張って書き直します。
この世界にはステータスと呼ばれる自分自身の能力を具現化したものが存在する。ゲームで言うところのHPはもちろんのこと、MPや筋力、敏捷性等その項目は多岐に渡るため自分自身のステータスでさえ把握するのはかなり難しい。さらに言ってしまえばその項目は別に武力方面だけでなく、社交性や話術、器用さなども存在するので決して戦うためのものだけが高ければ良いというものでもない。
しかしこの一見便利に見えるステータスだが平民、果てには農民等の身分の低い者たちへは浸透していないのが現実である。その理由は単純明快でステータスを見れる者が単純に少ないので一回見てもらうだけでも膨大な資金がかかってしまうからだ。
前回も言った通りこの世界には基本的に八属性しか魔法は存在していない。ではステータスを見れる者とは何者なのか、それは”特殊技能”と呼ばれるシークレットスキルのようなものが関係してくる。
この特殊技能は自分でしか確認することはできない。更には自分でも特殊技能を持っているかどうか確認する方法はない。後天的に特殊技能を開花させることは不可能なので持っている人間は全て生まれつきということになるが、それでも自分がどんなものを持っているか気づくのは偶然でしかない。
中には生涯自分が特殊技能を持っていることに気づかない人もいる。そのくらい自分が持っているかどうか気づくことでさえ大変なものなのだ。
しかも特殊技能を持っている人間は確率的に数百万人に一人だ。日本で例えると十人持っていれば御の字としか言いようがないほど貴重なものであるのは言うまでもないだろう。
しかしステータスを見れるこの特殊技能、俗称として『能力開示』と呼ばれているそれは特殊技能の中でも取り分け気づきやすい部類に入っている。生まれつき視界に様々な情報が文字で浮かび上がるのだから当たり前と言えば当たり前ではあるのだが。
この『能力開示』であるが、これは特権階級の者たちが現在は独占しているといっても過言ではない。なにせ貴族しか払えない額を請求されるのだから致し方ないとしか言えまい。とは言っても貴族でも毎日鑑定士と呼ばれるステータスを見れる者に能力を開示してもらうことは叶わない。それだけ高額ってことだ。
ただこの能力開示は貴族であれば産後間もないころに全員受けるのが通例であり、俺ももちろん例外ではない。朝食後にシュバイトが言っていた”神童”という言葉もこのステータスによるもので、所以としては俺の魔法適性数にある。
それは『能力開示』で見れる適性全てだ。
『能力開示』では優種まで見ることはできない。理由ははっきりと明文化されていないが研究者たちの理論としては優種は一種の特殊技能のようなものなのだろうと結論付けられている。
よって俺が使えるのは基種はとりあえずすべてだ。まあ隠してはいるが優種も”全て”使えるのは少しだけ鼻が高い。ただこれを言ってしまうと国に一生こき使われそうな気がするので家を出るまでは隠しておくと心に決めている。よっぽどでもない限り公に使うことはないだろう。
それにしても……。
これだけ長い間説明していたにも拘らず横に立っているシュバイトや使用人の再起動は終わらないらしい。どれだけ立ち上げに時間がかかれば気が済むんだ。
未だに大口を開いて虚空を見つめている様は正直な話滑稽としか言いようがない。しょうがない、こちらから切り出すか…。
「父上、地と風は見なくてもよろしいのでしょうか?」
しかしその言葉はどうやら耳にまで届いていないらしい。すぐ隣にいるというのに、だ。
「父上。いかがなされましたか?」
再び鼓膜を揺らそうと声を発してみたものの、やはりその声は空虚な空へと溶けてなくなっていった。
ついつい舌打ちしそうになってしまう。時間は有限なんだ。この幼い期間にどれだけ鍛錬を積めるかが勝負だと思っている俺からすれば今この時ほど無駄なものはないとしか思えない。
はぁー、と心の中で深いため息をつきながら再三声を発する。
「父上っ!」
先よりも大きな声を出したおかげだろうか、錆びついたブリキの人形のようにぎこちない動きでゆっくりと顔をこちらに向けてきた。しかし口は開いたまま。
「父上。地と風は見なくてもよろしいので?」
そう問いかけるとやっと耳にまで俺の声が届いたらしい。町にも待った返答が今度は俺の鼓膜を揺らす。
「え、あ、い、いや…。い、今の威力、それに無詠唱で…。一体何が…」
全く持って要領を得ない返答どうもありがとう。こんな言葉を聞くために時間を使ったと思うと怒りよりも先に呆れが胸中を満たす。
まあ言いたいことはわからんでもない。この世界で魔術を行使するときはイメージが大切になってくる。そのためイマージをつかみやすくする手段として推奨されてるのが”詠唱”という技術だ。独り言をつぶやくように自分自身がイメージしやすい言葉をつぶやきながら魔力を流すことでより扱いやすくなる、と言われている。
また、ぶつぶつ言う人も中にはいるがそれよりも一般的なのはあるパターンに名前を付けておいてその技を繰り出すときに口に出すというものだ。よくある無駄に技名を叫ぶやつだな。俺はこっぱずかしくて絶対に出来ないが一応これも詠唱の範疇に収まっており、国からはとことん推奨されている。
ちなみに無詠唱だからと言って魔力を多く使うなんてことはない。が、しかし研究者たちの研究結果によれば詠唱ありのほうが詠唱なしの場合よりも1割ほど良い魔力効率で無駄なく魔術を行使できることがわかっているらしい。
だからと言ってしようとは思わないが。言っても1割ではあるし、しかもその論文をざっとだけ読んだが未熟な者たちを集めて行ったものらしい。魔力操作さえしっかりと行えるようになれば無詠唱でも問題なく標準の威力を出すことはできる。
ただ…世も末なのはこの結果を信じてやまないシュバイトのような大人だけでなく、実際に研究をした研究者たちでさえ詠唱を行って魔術を行使しているようだった。奴らはこの研究の穴について気付いていないのだ。頭が悪すぎてチンパンジーかと思えてくるよ。
みんなも「医学的に証明されていて~」とかいう謳い文句を見たときは気を付けたほうがいい。まず第一にどんな材料で研究したかを知らなければ何も始まらないのだ。
さて、話がそれてしまった。まあこの親父も俺のことを待たせたしこのぐらいじらしてやれば丁度いいだろう。
「魔力操作は得意なんです。ずっとやってきましたからね」
「そ、それにしてもその威力…。やはり神童、ということなのか……」
俺も自分の生まれてすぐのステータスを少し前に見せてもらったが、シュバイトなんかはその場ですぐに見たはずだ。だからこそ俺の適性も知っているし、体内魔素含有量――所謂魔力量も知っている。
あれから一度も『能力開示』を受けていないが、恐らくそのせいで成長度合いを見誤っていたのだろう。俺が記憶を取り戻してからの二年間、どれだけ頑張ってきたかを思い知ったか。
「んんっ!ま、まあ取り敢えず、だ。地と風も見せてくれ。えー、地の魔術で土柱を出現させた後風の魔術でそれを叩き切りなさい。もちろん全力で、だ。手を抜くことは許さないぞ、エル」
最初は若干戸惑っていたもののすぐに平静を取り戻して鋭い眼光を向けてきた。やはりこの戦国時代を担ってきただけはあるな。威圧感がそんじょそこらの輩とはわけが違う。
「承知しました」
そう頷きつつ手を前に向ける。地属性の魔法は通常地面に手を置いて魔力伝導率上げる手法が良しとされているのだが、俺は靴を介したとしても空中で魔力を流そうとも持ち前の膨大な魔力量でごり押すことが出来るし器用な魔力操作によって多少の障害は障害になり得ない。
まあそれでも肉体から直接伝達するに越したことはないのだけれどもね。ただ今回は全力でと指示を受けている。最後の爪は隠すもののある程度の力量は見してしまっても構わないだろう。これからの快適な生活のためだ。
そう思考をしつつも並列して地面に魔力を流し続ける。地と風の魔術は限定的な地域でもない限りかなり汎用性のある魔術のためそこそこ鍛えてきた。ここは自信をもって実力を見せつけるべきだろう。
転瞬、ゴゴゴッと音を立ててきれいな円柱状の土で形成された柱が地面から競り上がってきた。その柱は留まることを知らず、中庭から続く裏山にある木々と遜色ない高さまで伸び続けていく。
そうして我が家を軽く越したころ成長は緩やかになり、やがてその場に静かに佇む。しかし本番はここからだ。その円柱は直径約3メートルはあり、ガタイのいいシュバイトが二人横に並んでもまだあまりある太さをしている。
これを並みの魔術師が風の魔術を使って切ろうものならすべての魔力を失う覚悟がいることだろう。風の魔術は汎用性が高い代わりにあまり威力が出ない属性なのだ。
しかしここは俺至上主義と行かせてもらうとしよう。魔力でごり押しだ。
俺は出したままの右手で空気に魔力を流す。ちなみに補足ではあるが風の魔術は空気の流れを操るだけであって酸素や二酸化炭素などの分別が出来るわけではない。そこまでチートの能力が基種四属性に入っているわけがないのだ。
右手から放出された魔力は分散しつつ、それでも確実に空気へと伝達されてベクトルが自分の思い通りになり始める。そうしてそのまま指向性を持った風はやがて目に見えないものの刃の如き鋭さを形成し、土の円柱へとシュッと音を立てつつ音速で向かっていった。
吹いた風を止めることなど誰にもできない。それと同様、元々抵抗することのない木偶の坊はそのまま剣の試し切りの様に斜めに切り落とされ、俺の減少によって地面と同化し跡形もなくなった。
横に長し目をやりつつ反応を確認すると、先ほどとは打って変わって耐性が付いたのかあまり驚いた様子が見られないシュバイトが佇んでいた。ちなみに使用人達はまたしても口をあんぐりと開けており、ここから見えるその対比は少々笑える様子で場に似合わない雰囲気を醸し出していた。
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