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以前はあって今になく、以前になくて今はある  作者: 青木
晴れのち雨、そののち曇り
5/7

魔術のワルツ

前回の『竜の息吹耐性意味成さず』というのはこの世界のことわざです。


日本でいうところの『百聞は一見に如かず』と同じ意味で、火竜のブレスに舐めプして火の耐性を付けたから余裕と飛び込むと実際は跡形もなくなるぞ、という含蓄ある言葉なのです。


恐らく昔に準備をしていったにも拘らず、想定以上の攻撃を受けて蹴散らされた人がいたんでしょうね。


それと今回からは登場人物のことを主人公以外は名前で呼ぶことにします。


主人公が貴族嫌いなのはイメージをつけることが出来たのではないかと思いますので。


ただ、まさかこれも『竜の息吹耐性意味成さず』、だったりして……。

話し合いの後、ロンが起床し家族が揃ったことで朝食をとる運びとなった。妹はまだ乳児のため、俺たちと一緒に食事をとることが出来ないので頭数からは省かれている。


そうして適度に会話しつつ朝食を取り終え、少し休憩した後中庭へと向かった。するとどうやらシュバイトは先に来ていたようだ。


「来たな。よし、では始めは基本的な知識のおさらいからとしよう。魔術とは何たるか、私に聞かせてみなさい」


開口一番でシュバイトの試験の始まりのゴングが鳴らされた。もう少し家族の会話というものがないのだろうか。まあ仕方のないことだとは思うのだけれど。


「はい。魔術とは体内に含有している魔素を使用して行使する術のことで、主だった種類は8つあります。先ずは基種四属性きしゅしぞくせいである”火””水””地””風”です。これらは無から生み出すことが出来ず、実物に魔素を流入することによって減少や増幅、操作といった行為が可能になります。そして適正を持つものが比較的多数存在し、私のように複数持つものも少なかれどおります。次は優種四属性ゆうしゅしぞくせいです。種類は”雷””氷””光””闇”があり、これらは無から生み出すことのできる優れた魔術ですが適性のある者が大変少なく、貴重なものとなっています」


「うむ、上出来だ。ロンよりも長く生きていないはずなのに、なぜあの子よりも知識量が豊富なのだ?」


「兄上は頭を働かせることよりも体を動かすほうが得意ですから。私とは対照的なだけですよ」


まあロンには正直何もかも負ける気はしない。魔術にしろ勉学にしろ、剣術にしろ諸々含めてね。


とりあえず色々言ったが、概ねは先ほど述べた通りだ。魔術には8種類存在し、体内にある魔素を使用することで使うことが出来る。この体内魔素含有量のことを俗称で魔力量と呼ばれることが多いのを留意してもらいたい。


「まああの子は腕っぷしがいいからな、将来は良き魔術師として活躍してくれることだろうが…。同時に長男として家督も継がなければならないのだ。少しはエルを見習って独学でも良いから頭も使ってもらいたいところだな」


シュバイトは苦笑いしながらそう告げた。兄貴は優しいが脳筋だからな、もし家督を継いだならば一族はどんどん馬鹿になっていくに違いない。


「兄上は優しさを持っていますから、それだけでも人徳を詰めることでしょう」


「神官みたいなことを言うのだな。でも確かにあの子はなぜだか手を差し伸べたくなるような不思議な感覚にさせてくれることがある。あれがまさしく人徳、というものなのだろう」


そう、兄貴は他の小説で言うところの勇者様みたいな感じなんだ。天然で抜けていて馬鹿で、でも何事にもまっすぐで底抜けの明るさを持っていて優しい。強いかどうかは置いておいて、なぜだか助けたくなる不思議な魅力を持っている。


「まあ今はエルのほうに集中しなくてはな。とりあえず必要なものは用意した。これでお前の実力を見せてみろ」


そう言って使用人に魔術に必要なものを持ってこさせ、それらの道具が俺の前に置かれた。


「まずは打花うっかを使って火の魔術を増幅・操作し、その後水の魔術でそれを消火しなさい」


そう言うシュバイトの指示に従い、俺は地面に置かれた焦げ茶色のごつごつとした石を手に取る。打花とは鉱山で頻繁に採掘できる石のことで、案外脆く、子供の力では無理だが大人であれば女性でも握力で崩すことが出来る。しかし、それをやろうとする者はいない。なぜなら打花は砕けると同時に発火するからだ。


火花を散らしながら砕け散るその石の様は、儚く花弁を散らす可憐な錦のようでとても美々しくなおかつ便利な代物である。町市場に行けば普通に目にすることはできるし、手ごろな値段で購入することもできるため人々の生活には絶対と言っていいほど欠かせない。


ただしかなり頻繁に採掘が出来るため、先も言ったが価格が安く頑張れば子供でも買えてしまう。子供が砕ければ発火する石など持っていたら危険すぎるのは言うまでもないだろう。


なので基本的には商人は子供には打花は売ってくれないし、良識ある大人であれば子供に打花を渡したりしない。そんなものをポンと五歳児に渡すこのおっさんは果たして頭のねじがどこかに飛んで行ってしまったのだろうか。


「父上。打花は子供には危険すぎるかと思われますが?」


「魔術を使う以上いつかは絶対にそれも使うのだ。早いか遅いかの違いであって、使い方を間違えなければ大して危ないものでもない。子供が危険と言われるのはそれを口に含んで噛み砕いた時などを想定して言われているに過ぎないんだ。もしやエルはそれの味が気になるのか?」


にやりと笑ってシュバイトはそう告げる。メアリーも言っていたが俺は”年の割には”聡いはずだ。それは当たり前なんだが、そのことを込みでやるはずがないと判断しているんだろう。


「もちろんそんなことはしませんが、もし味が気になったにしても舐めるだけで齧ったりはしないでしょうね」


俺が肩をすくめながらそう返すと、シュバイトは口を手で隠しながら面白おかしそうに笑っていた。


「ふぅー、少し笑いすぎて腹が痛くなってきた。さて、笑い死にする前にそろそろ始めてくれないか?」


「もちろんです」


俺は言われた通り打花を地面に投げつけるために狙いを定めに入る。消火のための水は木製の桶の中に満帆に入っていて俺の目の前に置いてあった。―――準備は完璧だ。


「行きますっ!」


そう言って腕を振りかぶり少し離れた芝生へ打花を投げつけ、小規模の爆発が起こり粉塵が舞う。打花の破片は橙色に光り輝き枝垂桜のように軌跡を残しながら周辺に落下した。


その美麗な様をただ眺めているわけじゃあない。その間にも火花や燃え始めた芝生の炎へ自分の魔力を流している。こうすることで炎は自分のものとなり操作が可能になるのだが、質量を変えることはできないのでここで更に魔力を使い増幅という技術を使う。


すると小さな種火だったものは急激に爆増し烈火の炎へと姿を変えた。その猛火は留まることを知らず竜の息吹の如き蜷局とぐろを巻き空へ向けて突進を遂行し始める。これは魔力を使用して渦を巻き、危険がないように空を仰ぐベクトルとして指定した結果によるものだ。


普段であればこのまま減少という技術を使って炎を鎮火させるところだが、シュバイトは水の魔術の熟練度も見たいようなので炎を空で球体を作るように操作しながら桶の中に魔力を流し込む。


同時操作は本来であればこの年齢でできるようなものではない。というよりもできる人間のほうが少ないのだ。しかし俺は記憶に目覚めた時から魔力操作を寝ている間ですら欠かさず行うように努力し、さらに不思議なことだが両手を動かすが如くいとも簡単に行うことが出来た。


これはとてもおかしなことだ。この同時操作がよく例えられるのは右手と左手で違う絵を描くようなものだというものだ。俺には到底できないだろう。しかし俺は”両手を動かす”ような感覚で行える。両手を同時に動かすなんて生まれたての赤子ですら出来ることだ。


なぜ他の人とは違う感覚でできるのかはわからない。だがプラス方面の特殊さであるのなら別に理由なんて考えなくても不都合がないのだから構わない。


「ふっ!」


俺は腹の底から息を吐きだし、気合を入れつつ桶の中から増幅済みの水の塊を中空へ発射した。その塊は最早我らが侯爵邸を丸呑みできるほどの大きさを誇っている。これだけあれば気合を入れすぎた炎も消せるだろう。


その予想通り、狩人の放つ神速の矢の如く猛進した水塊は烈火の炎を丸呑みしあっという間に消失させた。俺は残った水分を減少の技術によって消滅させ、後に残ったのは最初と変わらない姿をした青々と広がる雄大な空と顎が外れんばかりに口を開いた隣に佇む父や使用人達の姿だけであった。

ご読了頂きましてありがとうございます。


うまく魔術を使う描写が書けず申し訳ありません。次回もまだ魔術を使う予定ですので頑張って分かり易く書ければと思っております。


ブックマークしていただけると評価ややる気に繋がりますので、ほんの少しお時間がありましたらしていただけると幸いです。

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