黒い龍
__ここは遥か上空に広がる雲海。そこに漂う少女が一人。マキアである。
「……っち、あの勇者とか言う奴。一体なんなの?あたしらに楯突くとかマジムカつく。」
彼女は、突如として現れた「勇者」と名乗る存在について考えていた。
「それにあの剣と槍、僅かだけどあの女の力を感じる。勇者と神器……やっぱ意味不明すぎ‼︎」
怒りを滾らせるマキアの前に、黒い影が現れた。
『久しぶりだね。マキア』
「ようやくお目覚めって感じ?リヴァイア。」
『あなた、私より先に目覚めてたんだ。』
リヴァイアと呼ばれたその影は、口がないはずなのに言葉を発する。
『あの方は探した?早く見つけないと。」
「それが……勇者とかいう意味わかんない連中が現れてさ、あたしとしては先にそいつらを潰しとくべきって思う訳よ。」
「勇者?なんだかめんどくさそうね。」
すると、影は突然動き出したかと思うと、みるみる姿を変え、ゴスロリ風の黒い服に身を包んだ紫色の髪の少女となった。
「まあいいわ。勇者……私達が恐るるに足る存在かどうか、確かめてくるわ。」
そう言うとリヴァイアは指を弾き、姿をどこかへ姿を消した。
__6つの伝説の神器を集めるべく旅に出た俺とユキは、とある小さな村にやってきた。辿り着いた頃には日が沈みかけていたので今夜は一晩宿屋で泊めてもらうことにした。
「いらっしゃいませ。」
宿屋に入ると、若い女性が迎えてくれた。
「一晩頼む。」
「あなた方……もしや旅の方ですか?」
女性は訝しげな顔で俺達を見ると、そう言った。
「私達は、世界のどこかに眠る6つの神器を集めるため、旅をしているの。」
「6つの神器ですか⁉︎」
ユキが俺達の旅の目的を女性に話すと、女性は6つの神器という言葉に反応した。ひょっとすると、この女性は何かを知っているのかもしれない。
「なあ、あんた。もしかして神器について知っているのか?」
「は、はい……。旅の方達が噂していたのですが……」
__その夜、俺は先程あの女性が言っていた神器に関する情報について話し合っていた。
「神の力を纏いし弓、光挿さぬ暗き地に眠る……だったよな。」
これは、この近くにある国ヘリアンフォーレに伝わる伝説である。
「まだ詳しい事は分からないけど……とりあえず明日、ヘリアンフォーレに向かいましょう。」
「ああ。ヘリアンフォーレに行くには山を超えて行くのが一番近いらしい。だけど……」
あの女性が言うには、あの山には巨大な黒龍がいて、並の冒険者では歯が立たないため、あまりお勧めはできないらしい。
「黒龍のことを心配しているの?きっと大丈夫よ。あなた程の強さがあれば。」
「だといいんだけどな。」
「……じゃあ、私はもう寝るわ。また明日ね。」
ユキはそう言って部屋を出ていった。俺は空に浮かぶ月を見つめ、考える。かつてこの世界を襲った闇とは一体なんなのだろうか。闇の存在の一人、マキアは「私達」と言っていた。つまり、闇の存在は彼女以外にもいる可能性がある。
再び訪れる闇……そして闇の存在……俺は本当に奴らを倒し、世界を救う事ができるだろうか。
__次の日。俺達はヘリアンフォーレに向かう為、朝早くから宿を出発し、山道を歩いていた。その間、俺達は何気ない話をしている内に、神器についての話題になった。
「なあユキ。そういえば神器ってなんなんだ?」
ユキが読んだという本によれば、神器は世界を守護する女神が最後にこの世に残したものらしい。だけどそれ以外の情報は今のところほとんどない。
「そうね……不思議な力を持っているみたいだし、どうして突然、私達の前に現れたのかも謎だわ。」
確かに、この前の剣と槍も突然俺達の目の前にあらわれた。しかし、なぜ現れたのかは謎だ。もしかすると、何か神器を目覚めさせる条件でもあるのかもしれない。俺がそんな事を考えていると……
グルルルル……
唸り声と共に、俺達の前に漆黒の龍があらわれた。
「こ、こいつが黒龍か⁉︎」
黒い龍は、俺達を捉えると、炎を吐き出して攻撃してきた。俺はとっさに防御魔法を唱え、バリアを発生させて攻撃を防ぐ事ができた。しかし、黒龍は再び攻撃の構えをとる。
「シュート!私が隙をつくるから、あなたは魔法で撃退して。」
「わかった。任せろ‼︎」
すると、ユキは呪文を唱える。
「我願わん。黒き龍に痺れをもたらせ!パラライズ!」
すると龍の動きが止まった。どうやら、相手を麻痺させる呪文のようだ。
「今よ、シュート‼︎」
「光よ、降り注ぐ千の槍となれ‼︎テンペストアロー‼︎」
俺が呪文を唱えると上空に無数の光の槍が出現し、龍を貫いた。すると龍は、そのまま動かなくなった。
「さすがね!シュート‼︎」
「ああ。まあな。」
龍を倒し、再びヘリアンフォーレに向かって歩こうとしたその時……
「へえ、やるじゃん。」
上空の方から声が聞こえた。上を向くと、そこには空中に浮遊する少女がいた。それはマキアではない。ゴスロリ風の衣装に紫色の髪をした、一見するとかなりの美少女だが、頭から曲がった角が生えており、彼女が人間ではない事がすぐにわかる姿をしていた。
「君が勇者?私、リヴァイア。めんどくさいから、さっさと消えて。」
リヴァイアと名乗るその少女は、指をパチンと鳴らす。
すると、有り得ない事が起きた。先程倒したはずの龍が起き上がり、再び空へ浮かんだのだ。