ユキの決断
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「闇の存在」マキアと名乗るが出現してから数日後。俺はユキの家に滞在させてもらっていた。理由は、魔法について勉強しておきたかったからだ。
これまで俺は、女神ルシェーラから授かった魔法の才能が有れば余裕で世界を救えると思っていたが、あいつが見せた「闇の力」は、魔法の比ではないほど強力かつ反則的な力だった。
これから俺は、あんな滅茶苦茶な力を持った連中と戦わなければならない。そうなると、俺はできる限り強くならなければならない。
幸い、ユキの屋敷には図書館のように大きな書庫があった。俺はこの数日、ここで魔法に関する本にかじりついていた。
そのおかげで、本に書かれている魔法をたくさん覚える事ができた。ユキの言う通り、呪文の構造自体は単純なものが多い。この世界における魔法は、呪文よりも使用者の魔力が重要となっているようだ。
__「またここで勉強しているの?」
俺がいつものように書庫で魔法関連の本を読みあさっていると、ユキがやってきた。
「頑張るのは素敵だけど、たまには休まないと体壊しちゃうよ。」
そう言って、ユキは俺にお茶を差し出した。俺はそのお茶を一口飲み、大きく息を吐く。そう言えばここ数日、俺はほとんど休憩をしていなかった。
「ねえ、シュート。私も、あなたの役に立つと思って闇の存在について調べてみたの。」
「それで、何かわかったのか?」
「うん。……闇の存在達は遥か昔、この世を闇の世界に変えるべく、この地に訪れたの。」
そう言えば、ルシェーラもそんな事を言っていた。
「その時、闇の存在に立ち向かった者がいる。それはこの世界を守護する女神__」
__長き戦いの末、ついに女神は闇の存在を世界各地に封印することに成功した。しかし戦いで傷ついた女神は、6つの神器を世界中に残し、どこかへ消えてしまった。
女神は最後に、遥か未来で再び闇の存在が蘇ることを予知していたかのようにこう言い残した。
「__世界に再び闇が訪れし時、6つの神器が集い、闇は払われる……と。」
「……なるほど。なら、一刻も早く神器を見つけなければな。」
「シュート?」
「明日にはこの国を出る。」
「……そう。」
その時。俺達の元に一人の女性がやってきた。あのいけ好かない、ユキの姉だ。
「お、お姉様……」
「ユキ、聞いたわよ。伝説の神器に選ばれたんですって?」
「は、はい。」
すると、ユキの姉……アンナは、ユキを睨みつけ、こう言った。
「ふん!神器に選ばれたからと言って調子に乗らないことね!出来損ないの癖に‼︎」
「………。」
「……何か言いなさいよ。張り合いのない子ね。まあ、いいわ。私は商店街に行ってくるわ。ごめん遊ばせ。」
アンナはそう言って書庫を出ていった。先ほどのアンナの言動、「嫌味」と言うより「怒り」に近いように思えた。彼女はなぜ怒っているのだろうか。
「気にすることはねえよ、ユキ」
「ありがとう、シュート。」
__それから数時間後。もう日も沈みかけている頃、俺はユキを探していた。どうやら、自分の部屋にはいないみたいなのだ。
「__こんなところにいたのか。ユキ。」
ユキは、バルコニーにいた。どうやら夕日を眺めているようだった。その表情は優しい笑みを浮かべていたが、瞳は少しだけ物憂げだった。
「考え事をする時、いつもここにくるの。」
「……お姉さんのことか?」
「ううん、違うの。ただ……自分のやりたい事が見つからなくて……」
(やりたい事……?)
「シュートは、なんで私を守ってくれるの」
ユキは、そんな事を訊いてきた。だから俺は、ユキを守る理由を、自分の過去と共に話すことにした。
「俺さ、昔幼なじみの女の子がいたんだ。でも、俺が小さい頃に、事故で死んでしまったんだ。だけどその時、俺に勇気があれば、本当はあいつを助ける事ができたはずなんだ。」
そう。あいつは……「百合」は、俺がまだ幼い頃、トラックに轢かれて死んだ。俺はその場でそれを見ていたのだ。その時、本当は俺が百合を横断歩道の向こう側まで突き飛ばしていれば助けられた筈だ。だけど、俺は自分までトラックに轢かれてしまうのが怖くて、一歩も動けなかった。
「__俺はもう二度とあんな思いはしたくない。だから俺は、大切な人は絶対に自分の力で守るって決めたんだ。」「闇の存在」マキアと名乗るが出現してから数日後。俺はユキの家に滞在させてもらっていた。理由は、魔法について勉強しておきたかったからだ。
これまで俺は、女神ルシェーラから授かった魔法の才能が有れば余裕で世界を救えると思っていたが、あいつが見せた「闇の力」は、魔法の比ではないほど強力かつ反則的な力だった。
これから俺は、あんな滅茶苦茶な力を持った連中と戦わなければならない。そうなると、俺はできる限り強くならなければならない。
幸い、ユキの屋敷には図書館のように大きな書庫があった。俺はこの数日、ここで魔法に関する本にかじりついていた。
そのおかげで、本に書かれている魔法をたくさん覚える事ができた。ユキの言う通り、呪文の構造自体は単純なものが多い。この世界における魔法は、呪文よりも使用者の魔力が重要となっているようだ。
__「またここで勉強しているの?」
俺がいつものように書庫で魔法関連の本を読みあさっていると、ユキがやってきた。
「頑張るのは素敵だけど、たまには休まないと体壊しちゃうよ。」
そう言って、ユキは俺にお茶を差し出した。俺はそのお茶を一口飲み、大きく息を吐く。そう言えばここ数日、俺はほとんど休憩をしていなかった。
「ねえ、シュート。私も、あなたの役に立つと思って闇の存在について調べてみたの。」
「それで、何かわかったのか?」
「うん。……闇の存在達は遥か昔、この世を闇の世界に変えるべく、この地に訪れたの。」
そう言えば、ルシェーラもそんな事を言っていた。
「その時、闇の存在に立ち向かった者がいる。それはこの世界を守護する女神__」
__長き戦いの末、ついに女神は闇の存在を世界各地に封印することに成功した。しかし戦いで傷ついた女神は、6つの神器を世界中に残し、どこかへ消えてしまった。
女神は最後に、遥か未来で再び闇の存在が蘇ることを予知していたかのようにこう言い残した。
「__世界に再び闇が訪れし時、6つの神器が集い、闇は払われる……と。」
「……なるほど。なら、一刻も早く神器を見つけなければな。」
「シュート?」
「明日にはこの国を出る。」
「……そう。」
その時。俺達の元に一人の女性がやってきた。あのいけ好かない、ユキの姉だ。
「お、お姉様……」
「ユキ、聞いたわよ。伝説の神器に選ばれたんですって?」
「は、はい。」
すると、ユキの姉……アンナは、ユキを睨みつけ、こう言った。
「ふん!神器に選ばれたからと言って調子に乗らないことね!出来損ないの癖に‼︎」
「………。」
「……何か言いなさいよ。張り合いのない子ね。まあ、いいわ。私は商店街に行ってくるわ。ごめん遊ばせ。」
アンナはそう言って書庫を出ていった。先ほどのアンナの言動、「嫌味」と言うより「怒り」に近いように思えた。彼女はなぜ怒っているのだろうか。
「気にすることはねえよ、ユキ」
「ありがとう、シュート。」
__その数時間後。俺はユキを探していた。どうやら自分の部屋にはいないみたいなのだ。
「__こんなところにいたのか、ユキ。」
ユキはバルコニーにいた。どうやら夕日を眺めているようだった。その表情は優しい笑みを浮かべていたが、瞳は少しだけ物憂げだった。
「考え事をする時、いつもここにくるの。」
「お姉さんのことか?」
「ううん、違うの。」
「私ね、自分のやりたい事が見つからなくて……」
(やりたい事……?)
「シュートは、どうして私を守ってくれるの?」
ユキは俺に、そんな事を訊いてきた。だから俺は、ユキを守る理由を自分の過去と共に話した。
「俺さ、昔幼なじみの女の子がいたんだ。でもあいつは、俺が小さい頃に事故で死んだ。だけど本当は、俺に勇気があればあいつを助けられたはずなんだ。」
そう。あいつは……「百合」は、俺が小さい頃にトラックに轢かれて死んだ。俺はその時、その場にいた。だからその時、俺が百合を横断歩道の向こう側まで突き飛ばしていれば助かったはずなんだ。だけど俺は、自分もトラックに轢かれてしまうのが怖くて百合を助ける事ができなかった。
「__だから俺は、自分の大切な人は絶対に守るって決めたんだ。もうあんな思いはしたくないから。」
その時、遠くの方から大きな爆発音と共に黒い煙が上がった。
「……‼︎あっちは商店街の方、あそこにはお姉様が……」
「ユキ、とにかく行ってみよう‼︎」
__俺達は、それぞれ神器である剣と槍を携え、商店街の方に向かった。するとそこには、この前街を襲ったマキアがいた。そしてもう一人……
「お姉様‼︎」
「ユキ!どうしてここに……」
どうやらアンナさんは、逃げる事よりも人々を守る事を優先していたようだ。
「マキア!またお前か‼︎」
「勇者!ようやく登場ってワケね。遅すぎるっての‼︎今度こそ倒してやるし‼︎」
どうやらマキアは、俺達を排除対象としてみなしているようだ。
「一撃でケリをつける……食らいな‼︎」
マキアは指を弾き、特大の黒い球を生み出し、俺達に狙いを定める。その時……
「待ちなさい‼︎私の妹には、指一本触れさせませんわ‼︎」
「お姉様……⁉︎」
「はあ?なにアンタ。邪魔するなら先に消してやるし」
マキアは攻撃の対象をアンナに変更する。そして、邪悪な笑みを浮かべながら、黒い球を放った。
その時だった。
「お姉様‼︎」
ユキはアンナの前まで移動し、神器の槍で防いだ。黒い球と槍がぶつかり合い、激しい衝撃波が起こる。
「槍よ……どうかお姉様を守って……‼︎」
ユキの声に呼応するかのように槍から光が溢れ、その光に溶けるように黒い球は消滅した。
「ユキ……どうして私を助けてくれたの?」
「理由なんてない。私はただ、大切な家族を守っただけ。」
「………」
__そんな俺達を上から見下ろしながら、マキアは怒りに満ちた声を上げる。
「なんなのこの茶番‼︎あたしの攻撃を防げても、あんた達の力じゃあたしを超えられない‼︎」
「確かに、俺一人の力じゃお前を倒せない。だが‼︎」
俺はフレイムバーンを唱え、マキアに向けて炎を放つ。
しかし、マキアはバリアを発生させ、余裕で防ぐ。
「だから、効かないっての‼︎」
「「吹き荒ぶ吹雪よ、我に力を‼︎ヘルブリザード‼︎」」
直後、ユキとアンナは同時に魔法を唱え、マキアの背後から氷の魔法で攻撃した。完全に不意打ちだったため、マキアは攻撃くらってしまった。
「今よ‼︎シュート‼︎」
「聖なる光よ、剣となれ‼︎シャイニンググレイブ‼︎」
俺は光の魔法を唱えた。光の粒子が結集して剣となり、マキアに向かっていく。
「くっ……覚えてなさい……」
しかしマキアは攻撃が当たる前に指を弾き、どこかへと消えていった。光の剣はそのまま空中を突き進み、遥か上空で大爆発を起こした。
__「さっきはありがとう、ユキ。」
「いいえ。お姉様が無事でよかったわ。」
「まだまだ未熟だと思っていたけど、成長したのね。今まで酷いこと言って、ごめんなさい。」
「お姉様……!」
するとアンナは、ユキを抱きしめた。ユキの表情も幸せそうな笑みを浮かべていた。どうやら、ちゃんと和解できたようだ。
__「お姉様。私、シュートについていく事にしたの」
「な、何ですって⁉︎」
「ユキが俺についてくる⁉︎」
突然、ユキはそんな事を言ってきた。
「私、シュートみたいに大切人を守りたい。シュートと一緒に世界を救うことは、私のな家族を守る事につながるし、それに……」
「これからも、シュートを守ってあげたいから。」最後ユキはそう言った。
「わかったわ。あなたがそうしたいなら、私は応援するわ。」
「これからもよろしくな。ユキ!」
「うん‼︎」
こうして、俺とユキの、世界を救う旅が始まった。