7.いじめっこアルデリアといじめられっこエストリアス
天界に玩具遊びブーム到来。
「二段抜きだと! 天才か!?」
だるま落としで盛り上がる神々。
「おーい、スゴロクで遊ぶやつ集まれー」
大きなシートを広げて一緒に遊ぶ相手を呼び集める神。
「現象改変や因果律操作はしないで遊ぼうって言ったじゃないですかぁ!」
ブロック崩しでアルデリア様にズルをされて泣いているエストリアス様……エストリアス様!?
「こいつメンコに鉄板入れてやがった! 不正だ! フクロにしちまえ!」
これまたズルした奴が袋叩きにされる。
「ねえ、お茶会なんだから皆とお話しません?」
「……今忙しい……」
エルミネンタス様が知恵の輪にハマって四六時中カチャカチャやっていたり。
「誰か、誰か……対戦……誰か……」
血走った目で飢えた狼のようにリバーシの対戦相手を探し回る天使。
いや、怖いよ。なんでそうなったお前。
「うおおおお! 行けええええ!」
「なんのおおおお!」
メルイテンス様とマールイング様が紙相撲で盛り上がる。
……うーん、思ったよりかなり流行ってしまったぞ。
皆様が遊びに飢えているのかと思って、地球にあった遊べる玩具を色々作ってみて遊び方を教えてみたところ、これが神様だけでなく天使にも大うけであった。
こちらの世界では羊皮紙が主なので、流石に紙で作る紙相撲、メンコ、トランプ等は作れないかと思ったのだが、そこを解決してくれたがいつの間にかミリトリアの天界に移り住んでいたアマテラス様達、地球の神々である。
地球から現物を取り寄せてくれるか、現物を知っている神が創造してくれたので一気に手間が省けて大勢に広がったのだ。
それで、なんでアマテラス様達はこちらに住む事に? 俺にいつでも会いたいから? いやあ……照れる。
地球を離れて大丈夫なのかと思ったが、なんか分身? みたいなものだったらしい。前までも分身だったのだが、一々来る度に創り直すのが面倒なので分身したまま分身体をこっちに住まわせようって事になったようだ。
俺としてももちろん、いつでもアマテラス様達に会えるのは嬉しいので否はない。
まあ、ともかくとして玩具というか遊戯ブームである。
「クロー、一緒に遊びましょー!」
笑顔で両腕いっぱいに玩具を抱えて駆け寄ってくるエストリアス様のお可愛らしいことこの上なし。
「もちろんです、エストリアス様。どれで遊びましょうか?」
「ブロック崩しがいいわ」
木のブロックを抜いては上に積み崩した方が負けというあのゲームである。
「他にも誰か誘います?」
「いやよっ」
俺の提案にぷいっとそっぽを向いてしまうエストリアス様。
そういえばアルデリア様に泣かされてましたもんね……。
エストリアス様とブロック崩しで遊びながら、こっちには遊びは少ないのかといった疑問も含めて玩具事情を世間話にする。
「あるにはあるけれど、平民の子供が遊ぶような……けれど種類は少ないの。地球には感心しますね、このように遊びが多様化されているのは……それだけ平和ということなのでしょうし」
「国によっては平和ですが、地球でも未だに争いはありますよ。戦争も完全にはなくなりませんし……むしろ、地球は種族が人間だけにも関わらず争っているのは愚かなのかもしれませんね」
「私達の世界でだって人同士も争うわ」
「そうですね……難しいものです」
俺が考える事ではないんだろうけれど。
おっと。
「あー……崩しちゃいました」
「ふふふ、やった。勝ったわ」
嬉しそうだな、エストリアス様。ズルされないで勝てたから本当に嬉しいんだろうな。
「おや、クロと遊んでるのかい? 僕たちも混ぜてよ。4人でリバーシなんてどうだい?」
エストリアス様と遊んでいると、そんな声が掛けられて振り向くとハルフィ様とアルデリア様が居た。
ちなみに商標登録されているあちらとは違って、リバーシはマス目の大きさも駒の色も数も自由なので対戦人数が多めでも楽しめるのだ。
「アルデリアとは嫌ですっ」
またエストリアス様がそっぽを向いてしまい、アルデリア様が苦笑しながら頭を下げる。
「ごめんって、エストリアス。もうあんなことしないから、許して。ね?」
「……本当にもうしません?」
「ほんとほんと」
「じゃあ仕方ないですね。混ぜてあげます」
「ありがとっ」
エストリアス様はなんというか……最高神であると同時に、この世界の創造神でもあるらしいのだが良い意味で幼いというか、純粋というか……偉ぶるところが全然なくて、それが彼女の優しさの表れのようで一緒に居ると心地いい。
他の神々はエストリアス様によって生み出された言わば眷属のようなものなのだが、創造神である彼女は他の神々に偉ぶったりもしないし、周りもそれを承知しているのか彼女に気安く接している。
決して無礼だとか敬意がないだとか、そんな事ではなく尊敬している友人に接しているような感じなのだ。
恐らくそれはエストリアス様ご本人がそれを望んでいるからなのだろう。
しかし、創造神でもあったとは……とてもそう見えない。彼女の人柄のせいで、そういった威厳とかが感じられないからだろうか……。
ちなみに神によって司るものが違うが、それは元々は創造神であるエストリアス様が全てを司っており、それを権能と同時に分け与えて他の神々を生み出したらしい。
なので、他の神は全てエストリアス様の下位互換のような存在なのだとか……もちろん、俺はそんな不敬な事は言わない。下位互換だなんて思わないが、教えてくれたエルミネンタス様がそう言ってたんだもの。
「私、青がいいわ……」
「えー、でも青って言ったら水の神の僕じゃない?」
リバーシの駒の色でエストリアス様のもの欲しそうな表情にも負けず譲らないハルフィ様。
……うん、普通は最高神で創造神に言われたら譲るよな……こうしても許される人柄なんだろうな、エストリアス様は。
「じゃあ私らしい色は?」
「自由の神ですから緑では?」
「なんで?」
「地球にはゲームってものがあってですね、それだと風属性は緑色だったりするんですよ。それで、風って自由と結びついて考えられる事も多くてですね」
「なるほど! じゃあ私は緑! 風も自由もどっちも司ってるし、私!」
「私はどうですか、クロ?」
「え? うーん……エストリアス様は、なんか純白って感じで……白ですかね?」
「じゃあ私は白色でいいわ」
「やった、これで僕は青だね。ありがとうクロ」
「いえ。じゃあ私は自分の名前でもある黒色でやりますね」
神様って何か純粋で一緒に居るこちらも嬉しくなる。だって、こんな「何色がいい」だなんて子供みたいな会話、本当にどれだけぶりだろう……こんな方々にずっと見守ってもらえていたのかと思うと、更に嬉しくなった。
みんなで遊んでいると、また違う神が見学に来る。
「おう、リバーシか。儂ゃあっちの……ショウギのが好きじゃの」
流石はエソボンデス様、趣味も渋い。
「妾とやるか?」
「おう、ええの。隣で打つか」
なんとそこにアマテラス様も参戦である。リバーシをやってる俺達の横で将棋を打ち始めるエソボンデス様とアマテラス様。
リバーシの合間にちらっと2柱の対局を見てみるが、やはり日本の神であるアマテラス様が優勢のようであった。
「やはりお強いですね、アマテラス様。日本の誇りです」
「そ、そそ、そうか。なに、これしき妾にとっては児戯である」
俺が褒めると必死に口元が緩まないようにキリッとしていらっしゃるが、顔が真っ赤である。
そしてリバーシも進む。
「……ん?」
そして盤面を見て少し違和感。なんか、ハルフィ様とアルデリア様……お互いの石をなるべく取らないようにしてないか?
「おっと、流石はクロ。気付いたようだね……そう! 実は声を掛ける前にアルデリアとは同盟を結んでいたのだよ!」
「そういう事でしたか」
俺は納得したが、ちらりとエストリアス様を見てみると絶望したような顔で涙目になっていらっしゃった。おお、まずいぞ……。
「アルデリア……もうズルはしないって言いました!」
「ズルじゃない、これはズルじゃないわ、エストリアス。協力プレイって言うんだってスサノオさんが言ってたわ」
あの問題児とも呼べるスサノオ様の入れ知恵かよ!
「ふふふ、さあエストリアスとクロどちらから先に全ての石をひっくり返してあげようかし――ああ!? 裏切ったわね、ハルフィ!」
「ははは、裏切りは世の常だよ、アルデリア!」
なんと、協力プレイで俺かエストリアス様が潰されるかといった所でハルフィ様がまさかの裏切り。アルデリア様の石が一気に半分以下にまでひっくり返されてしまった。
そのあとでエストリアス様にぱちりとウィンクをしていたので、もしかしたらハルフィ様はエストリアス様が泣かされていたのを俺と同じように見ていて、仕返しの為に裏切る前提で最初からアルデリア様に声を掛けたのかもしれない。
ふーむ……伊達にいつも女の子に粉かけてないな。
俺もこういう自然な感じの気遣いが出来ていれば、もうちょっと前世でもモテ……ううん、考えるのはやめよう。無理に決まっている。あの顔だぞ? ガマガエルを潰したような顔の俺がどうやったってモテたとは思えない。
そんなこんなで、流行らせた遊びはブームになり、皆が楽しんでくれて何よりだ。
取り敢えずは思いつくものだけを片っ端から作っただけなので、他にも思い出したり思いついたら今後も色々と作って遊びを教えてみよう。
こちらにも遊びはあるらしいが、地球の方が玩具や遊びは豊富なようだし、手応えも悪くないしな。
あー、遊びと言えば……趣味でやってたゲームを久々にやりたいなあ。
こちらには電気自体がないのでどうしようもないのだが、やはり元の趣味だっただけあって時折遊びたくはなってしまう。
アマテラス様が俺の趣味と知っていて最初のお土産でゲームをいっぱい持ってきてくれたのだが、置いてあるだけで遊びようがないから、余計にそう思うんだろうなあ……。
後にもらった異世界転生ものの小説や漫画が今は趣味みたいなものだから、どうしてもって程じゃないのが救いだ。