第五回 再放送?
正月でよく耳にする和風の音楽が流れる。
しかし、いつものように有利と根賀が登場せず二人の女性がスタジオに立っている。
「はい。皆ホンあけまふておめでとうございまふ。アナフンハーの激太美でふ。」
「は~い!皆さん明けましておめでとうございます!同じくアナウンサーの村山りえで~す」
一人はとても太っている女性で何を話しているのかとても聞き取りにくい。もう一人はとても声が高く美人な女性だ。
「本日は、正月休みの為再放送をお送りします。また、この商品は残りがあるため買うことが出来ます!それではどうぞ!」
シャンシャンと鈴の音が入っているクリスマスの音楽で番組がスタートする。
赤い鼻のトナカイがどうこうする歌詞のやつだ。
「ゼーット・ショッピング!!」
二人が前回の放送から始まったポーズをして登場する。
「皆さん、こんに…、メリークリスマス。ゼットショッピングのお時間です。販売員の有利泰蔵です」
「販売員の根賀貴司です」
「本日も前回の放送を見て下さいました視聴者の方から沢山のご意見を頂きましたのでお答えさせて頂きます」
いつものようにスタッフがカメラの前を通り原稿を渡す。
「埼玉県の方からです。『前回の放送で紹介されていた扇風機を買いました。届いたはいいものの家の中に入れられなかったので外に置いたんです。そしたら、その日に強盗が来たので扇風機で対抗することが出来ました。しかし、警察から強盗の車ごと吹っ飛ばして民家の壁を破壊したことを怒られてしまいました。でも、私は後悔していません!こんな扇風機を紹介してくれてありがとうございます!』と頂きました」
その時の新聞記事が登場する。そこにはでかでかと見出しで『扇風機、民家を破壊』と書いてある。
「いやぁ、嬉しいですね!初めてじゃないですかこんなお便り」
「民家ぶっ壊して嬉しいとか病院をすすめますよ」
「しかもこの記事は、ライバル局である東京M&Xのライバル番組『五里霧中!』の夕刊ベストテンで一位だったんですよね!」
「何そのヤバい番組」
「しかもマツコ・インデックスさんに散々いじって貰えたんですよ!しかもふかわりゅうさんも買っていたんです!」
「何でスタッフ嬉しそうなん?」
「当たり前だろ!特別ボーナスが出るって言ってたんだからな!」
スタッフ一同とても嬉しそうである。
「本日は商品紹介に時間がかかるので、ご意見はこの方だけになります。また、本日のBGMはクリスマスのフリーBGMを使用しております。さらに、今回も何処の事務所にも出演オファーをしていないのでタレントの方はおりません。その代わりに代表取締役兼社長と社長婦人がゲストとして出演します」
「スタッフ仕事しろや」
「それでは、一旦CMです!」
映像が切り替わる。
苦しい暑さのとき。
そんなとき。
頼りになる扇風機。
略して、『クソ扇風機』じゃね~か!
この番組は『クソ扇風機』でお馴染みのアクア工業がお送りします。
「改めまして、販売員の有利大蔵です」
「改めまして、販売員の根賀貴司です」
「それでは、本日のゲストにご登場して頂きましょう!どうぞ!」
画面の端から白髪のジーさんが登場する。
そして、二人と握手をする。
「社長!今日は宜しくお願いします!」
「宜しくお願いします」
「おお!宜しく頼むよ!沢山金をむしるんじゃ!」
いきなりのゲス発言が吐き出される。
「あれ?社長婦人はいらっしゃらないんですか?」
「そうなんだよ!あのクソババア!今日は生放送に出るって言っていたのに忘れてやがる!ホントにクソだよなぁ。君たちもそう思うだろ」
「うん、まぁ、そうですね~」
「何かうるさくないですか?」
根賀の言っている通り、外から車のエンジンが聞こえている。段々と近づいて来ているようだ。そしてその車が姿を現す。
「施設から頑張って来たのに、生放送に遅れちまうよぉ~!」
白髪にパーマをかけたババアが叫びながら、赤い軽自動車を運転している。
「は~い。社長婦人の登場ですぅ」
スタッフは冷静に車が突っ込んでこれるよう端による。そして、ハイスピードのままスタジオへと登場する。有利と根賀は反応して避けるが社長は動くことが出来なかった。
「危ないよぉ!!」
そう叫びつつババアは社長に車をぶつける。ぶつけられた社長は後ろにある装飾まで吹っ飛ぶ。
「だいしょぶかい!!」
そう叫び社長に駆け寄る。そして、追い討ちをかけるように蹴りだした。それを見た内田ちゃんが駆け寄る。
「もう止めて!社長の生命はもうゼロよ!」
「違うよ。これはあれだよ!ほら!心臓マッサージだよぉ!!いち!に!いち!に!」
「婦人!オーバーキルですよ!」
青木Pが止めに入る。そんな青木Pに訪ねる。
「ちょっと!救急車を呼んどくれ!」
「えぇ、呼ぶんですか?」
「ホレ見ろクソジジイ!これがあんたの会社だ!死人がいるのに誰も助けてくれない!恐ろしいねぇ!あんたはこれを変えてかなきゃならないんだよぉ!」
「誰が死人じゃあ!俺の生命はまだあるわ!」
社長は何ともない感じで立ち上がる。
「え、何で車に突っ込まれても大丈夫なの?」
そんな根賀にスタッフの山崎が答える。
「あぁ~、それはね、装飾の後ろに体操で使うマットをつけてあるからだよ。」
「何でそんなんあんの?」
「前にも同じことやって装飾壊されたんだよね。それで装飾が壊れないように付けたの」
山崎は有利にカンペを出す。
カメラには赤い軽自動車が半分くらい被っている。
「ということで本日のゲストの方が揃ったので始めていきましょう!本日はいつも見てくれている視聴者の為にクリスマスプレゼントをご用意させて頂きました!ねぇ!社長!」
「うむ!これは凄いと思うぞ!」
「というのでこちら!打ち上げ花火のご紹介です!」
「はいクソ~。今何時だよ?」
「二十五日の午後五時過ぎだけど?」
「クリスマスプレゼントってよく言えるな」
スタッフが花火大会で打ち上げるやつの花火を運んで来る。
「よくこんなん用意できたな。盗みは犯罪じゃないんですか?」
「いや~、今年は花火大会の中止が多かったので大量に用意出来たんだよなぁ。青木君?」
「そうです社長!安く買い取れました!」
「犯罪臭がプンプンしてるんだよな~」
「そんなことはいいから早く終わらしとくれよ!おばあちゃん花火楽しみにしてたんだよぉ」
婦人の機嫌が悪くならないようにとカンペが出される。
「本日は、ここにある花火を実際に打ち上げてみたいと思います。それでは移動しましょう!」
全員で屋上に移動する。屋上のなかなか開かない扉を開けると、雪が積もり普段コンクリート色の屋上は真っ白に染め上げられていた。
「何で雪が積もっているんだよ!打ち上げられないだろ!」
屋上には五センチ程雪が積もっていたのだ。かなり久しぶりのホワイトクリスマスだ。世間では喜んでいるところだが、ここにいる人にとっては迷惑でしかない。
「スタッフ!急いで雪をどかせ!」
「青木君もヤるんだよね?」
「勿論やりますよ」
「おばあちゃんもヤってもいいのかい?」
「止めてェェ!婦人止めてェェ!構えないでェェ!銃なんで持ってんのか知らねェけどォォ!」
婦人が別の意味で捉えたので青木Pが止めにかかる。
そんなやり取りをしている間にスタッフはどんどん雪を退かしていく。
前に紹介していた扇風機も動かして吹雪の如く飛ばしている。その飛ばされた雪は目の前の通りに落下していった。
「あら~、吹雪だねぇ~。おばあちゃんこういう風流的なの大好きだよぉ~。下にいる人と車に積もってるねぇ~いいねぇ~」
婦人はとても機嫌が良いようなのでスタッフは無視する。下から怒鳴り声がした気がしたが扇風機の音で上書きして聴こえないように配慮する。
「さぁ、片付きましたので花火をセットしていきましょう!根賀君もやって!」
「はいはい」
「スタッフは特別な訓練をしています。危険なのでゼッタイに真似しないで下さい!おい!山崎!テロップ入れとけ!」
はいは~い、と一言返事がありテロップが入れられる。
「あれ?君たちこんな訓練させていたっけ?俺こんな事記憶に無いんだけど?無駄な事に金使ったの?ねぇ青木君?」
「何言ってるんですか社長!何も訓練してないに決まってるじゃないですか!」
「本当にそうだろうなぁ!男山根に二言は無いぞ」
「無いですよぉ。素人でも出来るって知られたら花火師を派遣する分の人件費取れなくなっちゃうでしょう」
「安全と倫理上の問題位テレビ局なら考慮したらどうなんだよくそP……」
「おい!根賀ァァ!!テメッ今の聞こえてんぞォ!」
青木Pが根賀を黙らせる。そんなこんなをやっているうちにスタッフが準備を終わらせ撮影を開始する。
「さて、準備が終わりました!今回はこの…尺玉を打ち上げたいと思います!」
有利が筒に花火玉を入れ、セットを完了させる。
「さぁ!早速打ち上げたいと思います!この花火はパソコンで管理しているのでライターは要らないんです!便利ですねぇ」
「また無駄な金を使うんすね。これ誰が発射ボタン押すんすか?」
「それではね、せっかくなので社長!どうぞ押して下さい!」
「俺は見るのが良いんだよね。おい!お前やったらどうだ?」
「おばあちゃんも見る方がいいねぇ~。おばあちゃんも、青木を、ンンッ!青木が打ち上げる所が見たいねぇ~」
「あれ?なんか違和感感じたのは俺の気のせいすか?」
という社長と婦人の圧力によりプロデューサーである青木が打ち上げる事になった。
「はい!お待たせ致しました!それでは打ち上げましょう!どうぞ!」
「スタッフの後ろに有るのは何?」
勿論置いて有るのは消火器だ。
「これ、無意味ですよね?」
「根賀君?それは誰も言わなかったことだよ?ともかく!さぁ、どうぞ!」
青木Pが発射ボタンを押す。
ドンッと音がして花火が打ち上がる。
「打ち上がりました!さぁ……。あれ?これこっちに来てる?来てるね!ヤバイよヤバイよ!」
「さすがだわ」
不発の花火が落ちてくる。焦るスタッフ一同。急いで建物に入る。
屋上入り口にまで間に合わず取り残される青木P。社長婦人は容赦なく扉を閉めて鍵をかける。
ドンドンとドアを叩く青木P。
「ねェ!ちょっとォォ!!開けて!開けてェ!!死んじゃうから!死んじゃうからァァ!!!」
顔は分からないが、きっと必死の形相。
「これはー、あれかな?おばあちゃんのワンキルかな?ワンキルでいいのかなぁ?」
「知らないっすよ」
「はい!ということで青木Pはどうなってしまうのか!続きはCMの後で!」
映像が切り替わる。
苦しい暑さのとき。
そんなとき。
頼りになる扇風機。
略して、『クソ扇風機』じゃね~か!
この番組は『クソ扇風機』でお馴染みのアクア工業がお送りします。
映像は再び番組へと切り替わる。
本日は、初のニュースが差し込まれる。
「早速ですが、ニュースをお送りします!大変嬉しいニュースです!」
「キョヘン、ほほくの声優の皆はんがヘッホンしまひたが年末年始に八組のカッフフがヘッホンを発表ひました」
太美が何を話しているのか分からない人のために翻訳すると、八組の声優カップルが結婚を発表したということを言っている。
「え~!うそ~!どゆこと!」
「落ち着け~!りえりえロボ!」
因みに、りえりえロボとは『野イチゴまみれ』で使われている人工知能のロボットのことだ。ロボットといっても話すだけで、覚える単語は村山りえが話した言葉だけである。CVは村山りえになっている。
「太美の友達もヘッホンしたからとっても嬉しい」
「そうだね~。祝福しようね~」
そう言うとクラッカーを取り出す。
パンッと音を出してクラッカーから紙吹雪が飛び出す。
「以上!ニュースでした~!この後もショッピングをお楽しみ下さい」
場面は再放送に戻る。
「残念ながら花火は炸裂しませんでした!ということで青木Pも死んでません!あー残念ですね!!」
「あー、おばあちゃんワンキルできなかったよぉー。残念だねぇー。合法的にワンキルできると思ったんだけどねぇー」
「全く同意っすよ」
不謹慎極まりない三人。屋上のドアの鍵を開ける。すると、
「テメェらァァ!俺を殺す気かァ!!」
「はい」
「はい、じゃねぇだろォ!!」
「生きててよかったねぇー!おばあちゃん死んだかと思ったからねぇー!」
「ふざけんじゃねェぞクソババァ!俺を閉め出しやがってよォォ!!」
激憤する青木P。いつも通りの三人とはまるで対照的だ。
「じゃあおばあちゃんが次、上げちゃうよぉー!」
「おい!聞いてんのかババァ!!」
「発射ぁー!!ドーン!」
花火は打ち上がり夜空に大輪が花開く。
準備していた全てを打ち上げ大満足のようだ。青木Pが後ろでゴタゴタやっているが気にせず番組を進行させる。
「とってもキレイですね!ではこの商品の説明を根賀君どうぞ!」
「はい。こちらの商品は花火玉一発と筒、そして管理用パソコンのワンセットでの販売になります。花火玉のみの販売は有りませんのでご注意下さい。また、花火が炸裂しなかった場合でも返金は出来ませんのでご注意下さい。更に花火師が一緒にお届けとなります。なので、人件費として十五万円がかかります」
「それでは、この商品のお値段を発表します!こちらの商品は、…なんと!一セット百五十万円の所、クリスマスプレゼント価格で百三十万円+税になります!」
「安いな。これなら視聴者の皆さん買うよなぁ?」
「そうですよね!社長!」
「おばあちゃんも買って家に置いて置こうかねぇ~」
「また、使い終わった花火はZショッピングが受け取りに参ります。捨てないで下さい。送料は勿論有料になります。電話番号はこちら!」
今日は看板に書かれた電話番号を掲げている。社長が来ているからだ。
「最後は、社長!お願いします!」
「視聴者の皆さん買ってくださいねぇ」
「それでは皆さん!また次回お会いしましょう!」
場面はスタジオに戻る。
「はひ。いかはでしたへしょうか?」
「ちょっと太美~、ちょっと何言ってるか分かんないよ~。はい!いかがでしたでしょうか?さて、ZON-TVから改めて大事なお知らせをします。今回の放送から、また~にプチニュースが差し込まれることになりました。その担当を私たちが担当致します。宜しくお願い致します!また、私たちの番組『野イチゴまみれ』も見てくださいね!それではまたお会いしましょう!本日のお相手は村山りえと」
「激太美でひた~」
「バイバイ!」
───12月26日午前8時過ぎ
クリスマスが終わり、久しぶりの大雪で交通が麻痺している東京。車の通りもかなり少なく、関東の鉄道網もやられている。大半の企業は仕事を休みにするか午後始めにしており、都心もかなり静かだ。そんな中、朝から騒いでいる所があった。
「皆おはよう!」
「朝から元気ですね!社長!」
「青木君!この山根と雪で勝負しないかい?」
「勿論やりますよ!」
朝から子供のように騒いでいるバカプロデューサーを尻目に、大半の社員はめんどくさそうだ。多くの理由は言わずもがな、この大雪のせいだ。今、社員は皆食堂に集まっている。食堂には『ここで待て』と書かれた看板が立っているからだ。
「全員いるか~?それじゃ、今日の飾り付け始めるで~」
副社長が登場し、本日の仕事が始まる。半分の社員は放送を行っているが、半分の社員は昨日の電飾の片付けとお正月の飾り付けを今日中にやるのだ。更に言うと、今日中に番組の撮影も終わらせる予定だ。さて、ショッピングの面々は昨日取り付けた外の電飾の片付けから始めている。
「あれ?山崎さん青木Pは?」
「トラックを運転してるよ。ほらっ」
トラックから降りてくる青木Pを指差した。
「おはよう!」
「何で青木Pはトラックを運転してるんですか?」
「何でって今日は廃品回収の日でしょ」
「資源回収って何ですか?」
「廃品回収は廃品回収だよ。根賀と有利はこっちな」
何だか分からないがトラックに乗せられる二人。二人を搭載したトラックはZON-TVを出発した。
「青木P、これから何処に行くんですか?」
「これからジャパンTVだよ。あそこで要らなくなった敷き布団を回収するんだ」
「あ~、あの正月に積み上げてたあれですね!」
「何すかそれ?」
「根賀ァ!正月番組ぐらいはきっちりチェックしとけェ!!」
「うるさいです。個人のプライベートにまで口出しされる謂れはありませんよ。てか、何でこんなに雪が積もっているのに行くんですか?チェーンとかスタッドレスは……」
「勿論付けてないに決まってんだろ……。経費の無駄だろうが」
「安全面も保障できないのを偉そうに自信満々に言っても別にカッコよくないっすよ?」
今日の積雪量は三十センチと報道されており、車道にも雪が積もっている。その為かなりノロノロ運転だ。
「早く着きたいからスピード出すか?」
「死にたいんですか?降りますよ」
なんやかんやしつつ、ようやくジャパンTVに到着した。
「ようやく着いた~!二人はちょっと待っててね!」
「了解です」
「はいはい」
根賀と有利をトラックに残し、ジャパンTVの建物へと走っていく。しばらくして社員と出てきた。
「お待たせ~!ああ、此方はジャパンTVで働いてる俺の友人の富田だ!富田~、こちらこっちの番組に出てもらってる出演者の有利さんと根賀君」
「初めまして。富田と申します。宜しくどうぞ。それではご案内します」
有利と根賀に挨拶をし、建物ヘ案内される。ジャパンTVはキー局の為、とても大きく立派だ。当たり前だが、番組予算もZON-TVに比べとても多い。四人はその巨大なビルの中にある倉庫へと向かう。
「いや~、青木がいて助かったよ!あの量の布団を処分するにもかなり金がかかるからね。全部引き取ってくれるとはとても有り難いよ。あそこにある布団全部ね!宜しく」
「こちらこそだよ!ありがとな富田!」
「あれ全部ですか?多いですね!」
「俺帰っていいですか?あの量嫌なんですけど?」
「廃品回収ボーナスで一万円貰えるけどな~」
「やりますよ…」
四人で大量にある布団をトラックへと運んでいく。全ての布団を運び終えたのはお昼頃になった。
「お疲れ~!また頼むよ!」
「了解!またあったら連絡してくれよ」
富田と別れ、ZON-TVへと帰っていく。帰りも雪が残っているのでノロノロ運転である。
「ノロノロってイライラするよな~。よしっ!スピード上げるか!」
「そうですね!早く帰りたいですもんね!」
そう言うと、アクセルを踏み込む。
「マジで事故るんで止めてくれます?」
「何言ってるの根賀君、やる気があれば止まるんだよ」
「ワケわかんないこと言ってないでスピード落としてください。ねぇちょっと、信号赤なんですけど」
「大丈夫だ!諦めなければ青になる!青になれ!青になれ!」
「有利さんも言ってないで辞めさせてくれません?」
「青になれ!信号機諦めるな!」
「あんたらは常識をどこで学んできたんですか」
信号機は、タイミングよく青に変わる。
「いや~、今日の信号機はいいやつだよ~」
「青木P、あんた運転向いてないっすよ」
そんなこんなあって、ようやくZON-TVに帰ってきた。出発時はクリスマスバージョンだった建物は、今は正月バージョンに変わっている。まぁ、電飾が枯れかけている門松に変わっただけだが。トラックをスタジオに入れ、トラックから降りる。
「あのすいません、荷物は下ろさないんですか?」
「あぁ、昼食食べてからだな」
「いや~、腹減りましたね~」
三人は食堂へと向かう。お昼時とあって多くの社員が集まっている。因みにだが、何故かここの社食は給食っぽい。というか給食である。しかし、美味しいので文句を言うのは余りいない。そんな食堂だが、今日はやけに狭い。何故か?
「あのー、何で機械を食堂に持ってきているんですか?」
「何でって、今日はあの人たちが来る日だからね」
「誰ですかあの人って。っていうかどんだけ壊れているんですかここの機械」
そうなのである。壊れた機械を食堂に集めているのである。なので狭くなっているのだ。勿論、青木によって天寿を全うなされた扇風機達もここに集まっている。
「誰って、ザオリクさんに決まっているじゃないか!」
「なんか嫌な感じがするんですけど。本当に問題は無いんですか」
「うるせェェ!」
「まぁまぁ、早くお昼食べましょ」
今日のメニューは、コッペパンにマーガリン、牛乳、ハムカツとポテトサラダ、そしてインスタントのワンタンスープだ。しかもこの会社はバイキング形式である。最初は普通の会社と同じように買うスタイルだったのだが、バイキング方式になったのは社長がもっとたくさん食べたいとごねた為との噂だ。
「社食なのにコッペパンって……ここは学校ですか」
「コッペパンは上手いんだぞ!」
「懐かしいな~、コッペパン。小学生の時によく出たな~」
「有利さんコッペパンの歌って知ってます?」
「勿論知ってるよ!ラララコッペパン♪
ラララコッペパン♪いつもこれ♪ひとつ~♪」
「良いですね~!」
「早くしてくれます?コッペパン取れないんですけど」
「あー、すまん」
「青木P、インスタントのワンタンスープに入れるお湯は何処です?」
「それはね~、あそこだ」
示した先には列ができていた。
「何で並んでるの?」
「この会社にTファウルが一つしか無いからだよ」
「何で数買わないんだよ!」
「お陀仏になったんだよね~。青木P物壊すの得意だから」
「青木Pだけ水でいいんじゃないすか?」
「なんで水なんだよ!せめてお湯にして!熱湯じゃなくていいからァ!!」
ようやくTファウルでお湯を入れ、テーブルに座り食べ始める。ちょうどその時、数人がこちらに向かって歩いて来た。
「あっ、どうもこんにちは!ザオリクさん!今日はザオラルさんもご一緒なんですね」
「新しい番組やってるんだって?視聴率良さそうかい?あれ、新人さん?」
「そうなんだよ~、番組で販売員やってもらってる有利さんと根賀君」
「へぇ~、じゃあ自己紹介しないとな。私は蔵王陸だ。社長とは幼馴染みでね、月に一度来て機械の修理をしてるんだ。本業が電気屋なのでね。こっちは妻の蔵王蘭子だよ。ザオリクは私のあだ名でね、ザオラルは妻のあだ名なんだ」
「へぇ、そうなんですか~。宜しくお願いします」
「あだ名になんか嫌な気配するんですけど……」
「壊れた機械はそこに置いてあるのでお願いしますね」
「はいよ!それにしても壊すねぇ。では失礼」
蔵王夫妻が壊れた機械へと去っていく。
「なんであだ名があれなんです?」
「ザオリクさん?それはね、依頼した機械を必ず生き返らせるからだよ。どんなに壊してもね。ザオラルさんは、確かに生き返らせるんだけど…、たまに失敗して完璧に破壊しちゃうんだよね。だからだよ」
「へぇ~」
「おいおい、もう一時半じゃねぇか!早く食べて布団を運ぶぞ!」
そう言うとガツガツと食べ始める青木P。
コッペパンに切れ目を入れ、ポテトサラダを挟む。ポテサラサンドの完成だ。
「あ!ポテサラサンドだ!美味しいですよね!」
「そうだろ!ポテサラは神だ!」
そう言うとペロッと一本目を平らげる。
「二本目はどうするんですか?」
「そんなの決まっているだろ!」
コッペパンにハムカツを合体させる。
「流石ですね!」
「そんなに食ったら豚になりますよ。カロリーを知らない訳じゃないでしょう」
「大丈夫!」
またもペロッと食べきる。そして最後の一本に手を出す。
「最後はどうやって食べるんですか?」
「最後はマシマシだよね」
そう言うとバックからブーちゃんソースを取り出し、余ったポテサラにかけ和える。更にバックから天使のマヨネーズを取り出してきた。ハムカツと共にコッペパンに挟み、マヨネーズで全ての調和を取り持つという禁断の一手。
「いや~、シメはこれだよね」
「マヨネーズしか見えないんですけど。これ、脂質全く考慮してないですよね。太るなんてもんじゃないですよこの量」
「何言うの?エクレアだってチョコレートで周りをコーティングしてるでしょ!それがただマヨネーズになっただけじゃん!ほら!違和感なんてどこにもないよ!」
「チョコとマヨに何一つ符合する点が無いと思うのは俺の気のせいじゃないと思うんですけど」
「確かにそうだね。違和感無いわ」
「あんたらは話を聞いてなかったんですか?それとも俺が居ない過程で話を進めてたんですか?」
「やべっ、急がなきゃ!ほら、早く仕事に戻るぞ!」
根賀を置いてけぼりにして席を立つ二人。仕事仕事ー、とぬかしながらトラックへと向かっていく。
当の置いていかれた彼はというと───
「僕をなんだと思ってるんだあの人達は」
怒りと呆れが半分半分の様子でこぼす。
「こんな所、来るんじゃなかったな……」
後悔の呟きが静かな食堂にこだました。
───余談ではあるが。
トラックに積んであった敷き布団。結局、倉庫へと押し込まれて、来年まで日の目を見ることはなかったのだそうだ。